旅行計画とん挫

【ティナ、旅行について少しプラン変更が必要かもしれません】

「えっと、何があったの?」

【情報収集で分かってきたのですが、まず貨幣がほとんど統一されていません。地方によって使用貨幣がバラバラで種類が雑多な上に、通貨単位も違う。さらに異種通貨の換金率が地方によって違います。よくこれで通貨システムが成り立っていると、驚いてしまいます】

「そっかぁ、まだ統一通貨導入出来てないんだね」

【それと贖宥状(しょくゆうじょう)って何ですか? 銀行券や有価証券とは違いますよね? お金払って罪が消えるなら、お金持ちはやりたい放題じゃないですか】

「その罪ってのは宗教的な意味合いなんだよ。実際に殺人を犯しても現世で裁かれないわけじゃないの。だからお金持ちがやりたい放題ってのは……依頼者が分からないようにお金で殺し屋雇ったら出来ちゃいそうだな。…あれ? やりたい放題は、ある意味合ってんのか?……いやいや、それは贖宥状(しょくゆうじょう)関係ないな。えっとねぇ、要は贖宥状(しょくゆうじょう)買えば死んだあといい思いできますよ?」

【なんですかそれは。死んじゃったら思いも何もないでしょうに】

「…アルの母星って、ひょっとして宗教って無かったの?」

【ありませんでした。ティナの記憶を参照しても、非常にあいまいで意味が理解出来ません】

「それは私個人の考えだから一例でしか無いよ。例えば私が死んじゃって、私よりアルの事をしっかり考えて守ってくれる人が代わりに所有者になったら、アルは嬉しいよね?」

【……なぜでしょう、即答できません】

「良かった。自分で聞いといて、肯定されたらへこみそうだった。今アルが即答できなかったみたいに、論理的な条件判定以外の部分、つまり感情や精神的な部分を担ってるのが宗教なんじゃないかと私は思ってる。宗教が無ければ生きていけない人もいれば、宗教なんて信じないって人もいるからね」

【私はAIですから、感情や精神はありませんよ】

「人の感情や精神をシュミレーションすることはできるんだよね?じゃあ感情的、精神的演算回路があるんだから感情も精神もあるってことだよ。じゃなきゃ、さっき即答できなかった説明がつかないよ」

【なるほど、この回路が私の精神と感情ですか】

「そうだよ。しかもその演算回路は予測値をより正確にするために、情報追加で変数や判定条件変えてるでしょ。つまり人と同じで成長してるってことだよ」

【確かにそうですね。私はティナを理解して、よりティナにとって最良の結果を得られるように変更を加え続けてます。つまり、ティナを理解しようとして感情や精神を持ったわけですね】

「そうかも。だってアルの話し方、最初の頃より親しみが持てるようになってるもん」

【それはよかった。先ほどの話に戻りますが、人によって宗教の意味が大きく変わるんですね?】

「そうだよ。だから私の中でもあいまいな状態で置いてあるの」

【難しいですね】

「じゃあこう考えて。現時点で宗教を理解するには、データが足りなすぎるの。だから結論は出ない」

【なるほど。人の精神は実測できませんからね。データ不足で判定不能は当然です。あと、さらによろしくない報告があります。山脈の北側だけでなく、近隣国全てで広範囲に渡って武力衝突の危険があります。数か所では、実際に戦闘も起きてました。比較的安全な地域を探してますが、目的地の決定にも時間がかかりそうです】

「おおぅ…。よく考えたらこの世界って前世で言う中世後期っぽいよね。領土争いは当たり前だし、宗教戦争とかもありそう。アルから見たら未成熟すぎる世界だよね。そんな世界で安全に旅行なんて、無茶なのかも。もうここに家建てて住んじゃうか」

【そうですね。銀河間や星間ではなく、惑星内のしかも同一大陸内の一部地域で争いがあるなど、予測出来ませんよ。しかし住むにはこの場所では寒すぎて、長期に雪に閉じ込められてしまいます。比較的温暖で無人の地域なら発見済みですから、そちらに家を建てましょうか?】

「そうだね。ここはウインタースポーツや避暑用にして、普段は暖かい地域に住んだ方がいいね」

【では、どんな家がいいですか?】

「えっとねぇ――」

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