旅行計画

アオラキに移動してから二週間。

アルは岩山内の掘削を終え、岩山を基地化した。


基地は、直径1.2km、高さ400mの円柱状の岩山内部。

平らに近い山頂部にはソーラーパネルが設置され、近くの川に設置した複数の水力発電機が昼夜電力を生み出している。


岩山内部はホワイ〇ホースの200ml瓶を寝かせて二重底にしたような構造で、発進路に当たる首部分の左右にはビルのように部屋(用途未定)を作った。


中央部分は、四基のゴライアスクレーン付き大型ドックの予定だ。

ちなみに材料不足で、クレーンは未だ足場だけ。


二重底の下部は掘削基地と掘削物保管所になっており、既に地中掘削が始まっている。


瓶の口にあたる出入口は、近くにあった巨石を岩山横にくっつけてリフトで上げ下げする予定だ。

サン〇ーバード2号の出入口を真似た。

こちらも材料不足で、いまだ実現はしていない。


このような構造になったのは、艦を隠すためにティナが発案(妄想?)したものを、アルが採用してしまったからだ。


滝つぼは修道院から1km程と距離が近かったため、ティナは見つからないように隠れ住んでいる感覚だった。

だが、50kmほど離れて高い山脈に隔絶された場所に来たことで、精神的なプレッシャーから解放され、少々はっちゃけていた。


魔法実験では何度か魔素枯渇寸前までいき、そのたびアルに叱られた。

生活習慣も徐々にだらけ、お昼近くまで寝ていてアルに起こされることもしばしば。


理由は単純で、待望の自由を得たはいいが、娯楽が無いのだ。

アルには乗務員のストレス解消用に映画や音楽、ゲームなどのアーカイブもあったが、ティナの趣味には合わなかった。

映画やゲームはアルの母星での一般常識を元に作られているために、ティナにとっては意味不明な部分が多い。

音楽も歌詞は意味不明言語だし、人種的な違いかリズムも楽しくない。


外で遊ぼうにも、一人遊びは飽きるのが早い上にかなり寒い。

要は暇すぎてだらけているのだ。

そんなティナに、アルは一つの提案をした。


【ティナ、人里に下りてみませんか?】

「へ? 下りて何するの?」

【コミュニケーション能力の向上と実体験による技術習得が目的ですので、長期旅行のような感覚でしょうか】

「旅行……旅行かぁ。最近暇だし、それもいいかも。アルとは旅行中も話せるんでしょう?」

【はい、インプラントチップ通信は数キロ以内ですが、通信補助用の腕輪型レピーターを作りましたので、数百キロは通信可能です】

「腕輪ってどんなの?」

【こちらになります】


作業ロボットが差し出したのは、幅7mmほどのバングルタイプのブレスレットだった。

ステンレスの平打ちのような全周タイプで開閉式、表面はサテン仕上げ。

表側1/4ほどは斜めカットのローズゴールドで、ローマ数字で文字が彫られている。

そしてワンポイントに、ダイヤっぽい宝石が嵌っている。

Finti〇rのクローバー刻印タイプに近いか。


「おおー! アルやるね。私、こういうシンプルなデザイン好きなんだよ。ありがとう♪……ん? よく見たらこの数字、刻印っぽく見せた時計表示じゃん。ちゃんと表示内容変わってるし!」

【はい、刻印より表示内容が変化して面白いかと。その腕輪には通信用レピーターの他にも各種センサーが内蔵してあります。インプラントチップとリンクして、温度、湿度、気圧、高度の他、毒物、有害物質、磁気や放射線、魔素濃度などの周辺状況を視界にレイヤー表示します。他人に触れさせれば、心電図も表示可能です。あとビーコン発信機にもなっています。充電は、管内やローバーが近くにいれば、ワイヤレス充電可能です】

「……どんだけ機能詰め込んでるのよ」

【頑張りました】

「おぅ……。でもありがとう。デザイン気に入ったし便利そう。大切にするね」

【医療用金属で表面を覆ってありますので、着けっぱなしにしてください。30気圧防水ですので、着けたままお風呂で洗っても大丈夫です】

「うん、分かった。…でさあ、さっきから気になってたんだけど、視界の隅にいるレッサーパンダ風の三等身アニメーションは何? 肉球付きの指示棒で解説してるし」

【邪魔ですか? ティナの記憶を基に、分かりやすく工夫してみたのですが】

「いや、ちょっととぼけた感じがいい味出してるし、ぶっといしっぽも似合ってるから気に入ったけど、アルのイメージがこのキャラクターになりそう…」

【以前所属していた母星ではこのような考え方はありませんでしたが、私はティナのものになりましたので、所有者にふさわしいよう頑張って取り入れてみました】

「おぅ…、そうなんだ。まあ、気に入ったからいいけど…」

【それは良かったです。ところで、旅はどうしますか?】

「行くのは良いんだけど、帝国はイメージ悪くて行きたくない。目的地どうしようか?」

【こちらに来てから電力事情がさらに良くなりましたので、山脈の北側も探索しています。いくつか国も発見しましたが、言語や風習が違いますので学習が必要です。候補地を探しつつ、睡眠学習で知識を習得しましょう】

「わかった、そうしよう。でもさぁ、なんかアル、私を追い出そうとしてない?」

【とんでもありません。忘れてませんか? この艦は全面改修が必要なほど壊れているのですよ。そのうち外装や内壁も分解しますから、ティナの部屋も使えなくなりますよ】

「あ、そっか。基幹フレームから直すって言ってたから、フレーム剥き出しになるんだ」

【はい。空調関係も全く使えなくなりますし、基地内に作った部屋に引っ越しても、かなり寒いですよ】

「そうだった。ここって十月の今でも寒いのに、もうすぐ冬になるじゃん。凍死しそう…」

【凍死などさせませんが、雪で基地内に缶詰めにはなりますね】

「うん、旅に出よう。早急に目的地決めて言語習得だね」

【あとは資金調達です。売れるものは色々と用意してありますが、ティナは五歳の幼女です。普通に売ろうとしても、買い叩かれたり商品を強奪される可能性があります。こちらでお金を製造しようにも、見本を手に入れないと素材分析ができません。どうしましょうか?】

「そうだった。私、お金なんて持ってないし、五歳の幼女が物売りなんて面倒ごとになるのが目に見えてるよ。あーあ、どこかにお金、落ちてないかな~」

【なるほど、落とし物ですか。母星勢力圏ではすべて脳内インプラントチップに紐づけされた口座からの電子決済でしたので、気付きませんでした。探してみます】

「この世界に電子決済は無いよね。落とし物の線は……自販機無いけど落ちてるかな?」

【帝国から離れた事でドローンを他方面に廻せます。貨幣や商行為に主軸を置いた情報収集をしてみます】

「うん。楽しみに報告待ってるね」

【承知しました】


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