拠点づくり

【ティナ、朝ですよ】

「アル、おはよ~。なんか工事音聞こえるね」

【はい、目を付けていた岩山を、現在掘削中です】

「ああ、修理用の隠しドック作るんだったね。食事したら外に出てもいい?」

【大丈夫ですよ。周辺探査、異常ありません。現在十月の中頃ですが、標高が高いので外気温は2.1℃です。防寒のために小型飛行ローバーを使ってください。専用外部ハッチは変形していて開きませんでしたので、取り外しておきました】

「おお! 飛行ローバー出れるんだ。実際の操縦は初めてだから楽しみだよ!」

【操縦シュミレーターの結果は良好でしたが、一応操縦を補助します】

「うん、お願い」


ティナは朝食もそこそこに、小型ローバーで飛び立った。


「…ねえアル。睡眠学習で勉強してはいたけど、実際に見ると700m級って、でっかいねぇ」

【いろいろな資源を貯め込んで母艦に上がらなければいけませんからね。乗務員室が百二十、各種探査車両やメンテナンスルーム、主機関以外にも正・反重力ユニットがありますし、資材庫や食料庫もかなりの広さになります】

「豪華客船より大きな艦を搭載する母艦って、でかすぎでしょう」

【宇宙空間専用だからこその大きさですね。宇宙は広いですから】

「おぅ、まさにスケールが宇宙規模」

【先ほどから艦に見入っていますが、障害物が無いにしてもわき見操縦はダメですよ】

「そうだった。よし、お空の散歩してみよう!」

【この谷からは出ないでくださいね】

「りょうか~い♪」

【そのローバーの最大飛行速度は、日本基準に換算すると68km/hです。衝突回避装置搭載ですが、安全を心掛けてくださ】

「にゃははははは、たのしい~♪」

【……シュミレーターで分かってはいましたが、やはりティナの空間認識能力は高いですね】

「あ、それ前世でも言われたことある。荷物の積み込みや狭い場所での運転が上手いって」

【ええ。全く補助を必要としないどころか、木々の間を通り抜けて遊んでますよね】

「いや~、つい楽しくなって♪」

【それは何よりです】


遊覧飛行に満足してローバーを谷に着陸させたティナは、散歩しようと外に出てみた。


「外寒い! 顔冷たい! 肺が凍る!」

【ティナの衣服は宇宙用断熱素材を裏地に使ってありますが、顔と気道は守れません。宇宙用ヘルメットを装着しますか?】

「情緒が無い!」

【個人用防御フィールドは宇宙服のバックパックに内蔵です。ランドセル状の物を背負うのでしたら作成は可能です】

「それも何か嫌!」

【わがままですね】

「く、こうなったら暖かくなる魔法開発してやる」

【それですと常時展開型の魔法になりますね。消費魔素量が気になります】

「頑張って作るもん!」

【常時展開型魔法は初めてですので、期待しています】

「……あれ? 身体強化は常時展開だよね?」

【あれは体内循環型でしょう。常時外部展開は初めての試みです】

「うーん、表皮展開ならいけるかな? よし、帰って実験しよう」

【了解です】


ちなみに、ティナが標高の高い屋外にいきなり出ても高山病にならなかったのは、アルが艦内気圧を移動中に0.7に、ローバー内もティナが乗っている間に0.6気圧まで徐々に減圧していたからだ。

なんとも気配り(娘Love)なAIである。


ティナは、マウント・クック国立公園に似たこの場所を、アオラキ(ニュージーランドの現地語で雲を突き抜ける山という意味)と名付けた。


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