脱出
ティナのレベルアップ気絶事件から一ヶ月。
ティナの睡眠学習は艦の操作関連技術習得を終え、アルが収集した情報の習得に移っていた。
当初アルは母星での高等教育課程までティナに習得させる予定でいたが、ティナはそれを断った。
すでにティナは、日本とこの世界の常識二種類を持っている。ここにさらに違う星の常識を知ってしまうと、思考パターンや判断基準、性格に影響が出そうだったからだ。
要は、今の自分が違う星の常識で変わってしまうのを嫌がったのだ。
そのため、この世界での常識を追加習得することになった。
この世界の常識は、これから生きていく上で必要なのだから。
魔法関連実験では、魔法や魔核関係で色々と分かってきた。
まずはティナの魔法。
魔素を練った状態だと、レベルアップ前の30倍ほどの魔素流量があることが分かった。
当然現象発現規模も、大きく拡大していた。
また、魔素を練らずとも、ある程度までの魔法は発現可能だった。
そして魔法の種類が増えた。
ティナが日本での記憶を元に開発した新魔法が、かなりの数増えている。
ただし新魔法のほとんどは、魔素を練らないと有効な現象発現規模にならなかった。
この理由は、ティナが思い付いた魔法のほとんどが、大きなエネルギーを必要とするものだったからだ。
ビームソードやレールガン、ファイヤーボムや各種ランス系など、ほとんどが科学知識ではなくアニメ由来な魔法だった。
アルから見れば、アブソリュート・ゼロやメテオ、転移魔法、収納魔法は必要エネルギー量が膨大すぎて発動するはずもなく、パルプ〇テなど意味不明だ。
発動できた魔法が複数あったことは、充分な成果だろう。
魔核とレベルアップの関係については、比例的相関性が確認された。
魔核は魔獣の種類によって魔素密度が大きく違い、同種でも差異が大きいことが分かった。
また、魔核によるレベルアップは、放出される魔素濃度に比例して効果が高くなっていた。
【ティナ、今かなりの雨が降っていますので、移動出来そうですよ】
一週間ほど前に移動と初期の拠点開発用電力は貯まったものの、月明かりによる視認や滝つぼ脱出時の音による他者への発覚を警戒して、目的地への移動を控えていたのだ。
だが今夜は雨脚が強く、真っ暗で雨音に紛れられる好条件がそろっていた。
「おお! やっとだね。うまく抜けられるかな?」
【反重力ユニットの動作テスト時に少しだけ後進してみましたが、その時は想定負荷内でした】
「うまくいくといいねぇ。じゃあ、行ってみよう!」
【離陸許可確認、発進します。反重力ユニット起動、起動異常なし。出力上昇中。……規定出力に到達。後進開始します】
ゴゴゴ、ズゴゴ、ゴズズズズズ
【艦、完全に水中に移動しました。破孔部より浸水、隔壁漏水無し。上昇します】
ザババドドドドドドドドド
【艦、完全に空中に浮遊しました。既損傷部以外アラート無し。目的地に向け、飛行開始します。……反重力ユニットによる飛行速度、最大に達しました。各部アラート無し。ティナ、無事に飛行を開始しましたので、目的地到着までおよそ一時間の予想です。到着後、夜間の内にソーラーパネルと水力発電機を設置しますので、就寝をお勧めします】
「そだね、景色もなんも見えないし。じゃあおやすみ~」
【はい、おやすみなさい】
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