ぎゃぴっ!!

ティナがアルに救助されてから約三か月、蓄電量もあと一ヶ月もすれば目的地に移動して拠点化する電力が確保できそうなところまで来ていた。


【ティナ、少し声を出してもらえませんか?】

【ほへ、何?】

【インプラントチップ通信ではなく、発声してみてください】

「えーぅほごほごほ、……なんか咽た」

【インプラントチップ通信ばかりでは、声帯が退化して話しにくくなりますよ】

「そっかぁ、なんか独り言言ってるみたいだからインプラントチップ通信使ってた。これからは話すようにするよ」

【はい、そうしてください。報告ですが、ティナのご実家は、パーティーでの事件後男爵位に爵位を落としていました。ですが侯爵家時代の贅沢が忘れられなかったようで、散財の末、借金苦で夜逃げ。この事により、完全に貴族籍を失いました】

「ありゃりゃ、侯爵家から平民って、絵に描いたような没落具合だねぇ」

【寂しくはありませんか?】

「ごめん、全くの他人ごとだよ。生まれた時には会ってるんだろうけど、私には全く記憶無いし。それに乳児をいきなりあんな殺人修道院に預けちゃう人たちだから、同情心すら浮かばないよ」

【メンタルケアの必要は無さそうですね】

「うん、全く無し」

【了解です。では今日も魔核の破壊を試みてみましょう】

「よし、今日こそ割るぞ。今日はちょっと思い付いたことがあるから試してみたいんだ」

【何でしょうか?】

「物理的な破壊は無理っぽいから色々な魔法で試してみたけど、それもダメだったじゃない? でもよく考えたら、魔法も魔素が物理現象に変換されちゃってるから、結局は物理的な衝撃だよね。だから魔素を『魔核を破壊する魔法』に変換して見たらどうかと思ったんだよ」

【それは、魔核というものの破壊だけに特化した魔法ということですか?】

「うん、そうそう」

【確かに今まで試してはいませんが、そのような魔法は収集した情報にも存在しませんよ】

「そうなんだけどさ。魔核を壊せる人はごく一部の強い人でしょ?強い人って、自分以外が強くなるのは嫌なんじゃないかと思ったの。だからやり方は隠してるんじゃないかな」

【つまり、収集した情報には無い、魔核を壊すためだけの魔法が存在する可能性があるということですね】

「うん、そう。どんな魔法かは全く分からないけどね。魔法ってさ、自分の魔素を練って『火になれ』って思って発動すると魔素が火になるわけじゃん。だから『魔核壊れろ』でいけないかと思って」

【やってみる価値はありますね】

「よし、じゃあやってみるね。……魔核壊れろ!…く、ダメか」

【いいえ、方向性は合っているようですよ。微かにですが、魔核表面が一瞬だけ変形しました】

「おお! 初めての有効そうな兆し!」

【先ほどの魔法は魔核全体を対象にしていました。魔核表面の一点だけに集中してみてはどうでしょう】

「そっか。穴が開くだけでも進歩だもんね。やってみるよ。……魔核穴開け! ぎゃぴっ!!」

【ティナッ!?】


魔核は穴が開くのではなく、見事に壊れて一瞬にして空気中に霧散した。

大量の魔素が空気中にぶちまけられ、魔素センサーは煙を上げて損傷。

瞬時に高濃度の魔素に晒されたティナは、おかしな悲鳴と共に気絶した。


アルはティナのインプラントチップから生体情報を読み取り、生命維持には支障が無いことを確認して、ティナを医療ポットに移動するよう警備ロボットに指示を出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る