あれ? 壊せない

システィーナより先に警備ロボットで魔核を医療室に持ち込んだアルは、可能な限りの検査を行った。


「アル、来たよー」

【ティナ、魔核というのは非常に興味深い物質ですね。検査機器のほとんどが役に立ちません。音波や光、電波だけでなく、放射線すら全く透過できません。しかもゆっくりとですが魔素を放出しています。まさに、魔素が固体化した『魔核』ですね】


アルは魔素が流れ出る様子をホログラムにして、システィーナのインプラントチップに送った。


「おお、魔素を視覚化できるようになったんだ。でも、ホログラム無くても漏れ出してる魔素を感じられるから、とんでもなく魔素濃度が高いんだね。放射線すら透過できないなんて、物質的にも高密度なのかな?」

【そうですね。質量も、比重はオスミウムやイリジウムの二倍近いです】

「オスミウムやイリジウムって、金より重いんだっけ?」

【はい。居住可能な惑星の自然界から入手できる金属の中では、一番比重が重いはずでしたね】

「おぉう。魔核が比重のトップに躍り出ちゃったか」

【この世界では既知の事実かもしれませんよ。魔核の重さで、どのような強さの魔物を倒したかの討伐証明として報酬を支払っている場所もありますし】

「あ、そうなんだ。私は魔核に触れることなんて無かったから、知らないだけかも」

【そうかもしれませんね。しかしこの魔核、導電性もありませんでしたので非金属かもしれませんが、正体が掴めませんね】

「そだね。武器でぶっ叩いたら割れて消えちゃうらしいってことくらいしか分かってないもんね」

【破壊して見ますか?】

「うん、やっちゃって」

【では、まずは熱融解を試してみます。高照度の発光が起きますので、目を瞑ってください】

「うん。いいよ」


アルは警備ロボットが持つレーザーカッターを、魔核に向かって一点照射した。

しかし、魔核は溶けないどころか、熱による膨張や赤熱化すらしなかった。


「アルー、顔熱いー」

【申し訳ありません。警備ロボットを遮蔽物にしましたが、それでも輻射熱が届いてしまいましたね。しかし驚きました。焦点温度は六千度を超えたはずなのに、赤熱化さえしませんでした】

「そうなんだ…。ひょっとして魔素が防御でもしてるのかな?」

【残念ながら熱量と光量の輻射が高すぎて正確には観測できませんでしたので、原因不明です。では、衝撃を与えてみましょう】


アルは警備ロボットの金属アームで、魔核を挟み込んで圧力をかけた。

だが魔核は割れなかったので、今度は金属アームを魔核に振り下ろした。


【おや、割れないどころか変形すらしませんね】

「ありゃりゃ、困ったね。……あ、そういえば『強い魔獣の魔核を割れる人は少ない』って情報あったよね。何か別の条件がありそうだね」

【正確には『強い魔獣の魔核を割るには、強い人間にしか無理』ですね】

「強い人間……。やっぱり魔素関係なのかな。強い人ってことは、強力な身体強化できる人だろうし」

【ですが、いくら身体強化しても、叩きつける剣は金属です。先ほどのアームでの衝撃は、成人男性が振り下ろせる速度の五倍ほどですよ】

「そっかぁ。う~ん、う~ん…。あ! 修道院にあった物語の挿絵!」

【どの物語でしょうか?】

「帝国を建国した初代皇帝の物語。大きな球に剣を振り下ろす挿絵があった。その剣、光ってるように描かれてた」

【ティナの記憶を参照しました。確かにそのように描かれていますが、あの挿絵はフィクションでは?】

「私もそう思ってたけど、ひょっとしたら何かの魔法を剣に掛けてたのかも」

【なるほど。挿絵の情報はフィクションとして分類してしまっていたので、気付きませんでした。この世界には、フィクションをノンフィクションにしてしまう魔法という存在がありましたね。分類方法の変更を検討します】

「そうだね。だけど、どんな魔法か分かんないんだよね。こりゃ当分、割るの無理かな」

【破壊が目的なので、気兼ねなく実験できます。破壊用の機器を製造して、色々試してみましょう】

「そだね。そうしよう」

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