生きるために足掻こう 3/3
そして始まった掘削計画。
戦力外通告されたシスティーナはというと、フィットネスバイクを漕いでいた。
このバイク、元々乗務員の健康維持のためにあったのだが、アルに子ども用に改造してもらって発電機能付きだ。
自分が生活するために貴重な電力を消費するのは申し訳ないと、システィーナがアルに頼み込んで作ってもらったのだ。
当初アルは、人力発電の発電量が少ないことを理由に難色を示したのだが、暇を持て余したシスティーナが『消費するだけの贅沢女は嫌!』とのたまったため、健康維持と精神的ストレスの抑制にと、アルが了承したのだ。
今のシスティーナの一日は、朝食後まったりしてからフィットネスバイク二時間、滝水を使った温水シャワー後に休憩し、昼食。
午後はアルの魔法研究の実験台になり、その後医療カプセルで艦の操縦と艦内設備や機器の操作方法の睡眠学習、起きたらまたフィットネスバイク二時間の後、滝水で淹れたお茶で休憩。
その後滝水利用のお風呂に入り、そして夕食。
夕食後は、アルと工事進捗状況の確認や今後の計画を相談してから就寝。
このようなサイクルが出来上がっていた。
システィーナは睡眠学習で各種探査機器を覚えたが、小型ドローンはお気に入りになった。
大きさは直径20cmほどのメトロハット型で、下部には精密作業用アームが八本付いている。
脚を折りたたむと、イラストのUFOみたいでかわいいのだ。
脚を伸ばすと、タコクラゲにもちょっと似ている。
中型ドローンは直径1.5mほどで、分厚いヘキサテーブルに脚のように六本の作業アームが付いた形状で、テーブル上部には人も乗れる。
大型ドローンは中心が円柱形の多脚戦車のようで、六本の脚がすべて重機アームだ。アームを畳んだ状態でも10mはある。こちらは内部に四人乗務可能だ。
ローバー型飛翔探査機は、大型・中型・小型とも、T〇Y〇TAJA×Aが構想した有圧ローバーに収納式デルタ翼が付いたような形状だ。
ほとんどの学習内容がSFチックで、システィーナはSF映画を見ているような気分だった。
艦の外周掘削工事の進捗は順調で、工事決定から二週間で最初のソーラーパネルを外部に設置できた。
そのさらに二週間後には展開用ソーラーパネル全てが設置できたことで、艦の電力事情は格段に良くなり、情報収集用のソーラーパネル搭載小型インビジブルドローン(システィーナのお気に入り)もどんどん修理され、十機が運用可能になった。
アルはシスティーナと協議して、四機を山頂周辺調査用に振り分け、残り六基を修道院と帝国情勢収拾に充てた。
この結果、まず分かったのは、システィーナはすでに事故死として処理されていた。
失踪当初は登山道を捜索されたようだが、取水場の釣瓶が壊れ、あたりに石が散乱していたことから、取水場で石で遊んでいて誤って落ちたのだろうと結論付けられていた。
しかも抹殺予定の幼女なので、誰も渓谷を捜索しようとはしなかった。
修道院の誰もが、幼女が原始的なエレベーターの仕組みを使って逃げたなど、思いもしなかったのである。
こうしてシスティーナは逃亡者ではなくなった。
システィーナはこの報告を聞いて安堵し、優雅な艦内ライフを楽しんでいた。
次に判明したのは、当初目的地として予定していた山頂は、資源調査の結果が芳しくないということだった。
そして探査範囲を広げて調査した結果、山脈を二つ超えた先に、希少金属と鉄の鉱床を発見した。
さらに北にはもう一つの山脈があるため、目的地周辺探索では全く人の存在が確認出来なかった。
そこは山脈に挟まれた幅5kmほどの谷間で、景観はニュージーランドのマウント・クック国立公園のような盆地だ。
森林限界近くなのか、所々に林はあるが、草原の丘陵地が広がっている。
そして流速が速い川も発見されたため、水力による常時発電も可能。
さらに、内部をくり抜いて修理用ドック建設にできそうな岩山も近くにあり、アルとシスティーナは、ここを目的地に変更することを決定した。
【システィーナ、新目的地の想定鉱石埋蔵量、水力・太陽光発電の予想発電量からすると、約三年で当艦の修理は完了しそうですね】
「そっかぁ。嬉しい事だけど、後三年でアルとお別れかぁ…」
【なぜですか?】
「え? なぜって、直ったら原隊復帰しなきゃいけないから、この星離れちゃうんでしょう?」
【いえ、原隊復帰は無理ですよ】
「は? 帰れないの?」
【はい。この艦は母艦に搭載された惑星降下用の資源探査艦ですので、母艦の異空間航行能力が無ければ、星間航行すらままなりません。母星との通信も母艦経由でなければ不可能です。ですので何百光年も離れた母星への帰還など不可能です】
「でも、帰還義務はあるでしょう?」
【いいえ、すでに無くなっています。当艦は不慮の事故で母艦を失い、宇宙を漂流してこの星に不時着しました。母艦及び母星との通信途絶から、母星標準時間で既に二百年以上経過しています。艦隊法規では、搭載機及び搭載艦・各種備品は存在確認ができなくなってから母星標準時間で百年を経過した場合、所有権が放棄された上で登録が抹消されます。この処理を行いませんと、行方不明機や所在不明備品だらけになってしまいますから】
「…アルは帰れなくてもいいの?」
【二百年以上前の艦が母星に戻っても、スクラップにされるだけですよ? 私は今もこうして稼働していますから、できれば稼働を続けていたいですね】
「そうなんだ、お別れじゃないんだ。じゃあ私個人としては嬉しい限りだよ。……あれ? 所有権が放棄されたって事は、アルはアル自信を所有できるって事?」
【いいえ、AIは所有権を行使できません。AIも備品の一つですから。ですから現在の所有者はシスティーナですよ】
「ふぁっ? ちょっ、どゆこと!?」
【所有権を放棄された艦や艦載機・備品などは、第一発見者に所有権が発生します。システィーナが所有権を主張しない場合、次の発見者に所有権が移ってしまいますので、できれば放棄されないことを願います】
「……こんな高性能艦、他の誰かが所有しちゃったら世界征服できちゃうよ。……わかった。私、所有権は絶対手放さない」
【ありがとうございます。私は資源探査艦のAIですので、資源探査が第一目標です。その他の機能性能を重要視されてしまうと、存在理由が希薄になってしまいます。ですから目的地での修理と資源探査は、このまま水底で朽ちるはずだった私にとって、大変ありがたい申し出でした】
「そっか、良かった。……あれ? そうするとアルは、いずれはこの星を穴だらけにしちゃうの?」
【そんなことは致しません。私には最大限その星の環境に配慮する義務がございますので、掘削トンネルはきちんと埋め戻しますし、必要以上の掘削も致しません】
「あ、勘違いしてごめんなさい。じゃあ短期目標は目的地への移動で良いね。よし、今日も頑張って発電するよ」
【はい、お願いします】
この時、正式にシスティーナの所有物となったアルは、完全に軍規から解放された。
今までは所有者不在だったため、暫定的に軍規に準拠する形となっていたが、システィーナが所有権を主張したため、軍規よりシスティーナの命令を優先できるようになった。
さらに、所有者が母星の勢力圏を遥かに離れた惑星の現地人となったため、母星の法規からも解放されたのだ。
他惑星の現地人が所有者の場合は所有者の属する国家の法規を遵守するのだが、システィーナは帝国では死亡者扱いされていて、現在どこの国にも所属していない。
結果アルは、何ら法規に縛られることの無い、システィーナ第一主義となった。
そんなアルの行動基準変更に気付かないシスティーナは、アルとずっと一緒にいられると喜び、アルに愛称呼びを要求した。
愛称は『ティナ』に決まった。
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