生きるために足掻こう 2/3

【おはようございます。システィーナ】

【ふわ~ぁ。アル、おはよう】

【体調はいかがですか?】

【うん、かなりいいよ。魔力は多分全回復してる】

【それはよかったです】

【それで、この部屋は何? 壁がでこぼこして岩肌みたいだよ】

【はい。その部屋は船体に空いた破孔が、不時着時に岩盤で塞がれた部屋です。今までは艦内環境保持のために扉をロックしていたのですが、急遽開発した魔力センサーで計測したところ、魔力と思われる微粒子を検出しましたので、システィーナの回復に役立つかとストレッチャーを移動しました。なお、この魔力の微粒子を魔素と名付け、魔力は体内にある魔素と定義しました】

【え? もう魔力…じゃなくて魔素を検出できるようになったんだ。あれ? 私、どれだけ寝てたの?】

【七時間ほどです。センサーはまだ暫定的なものですので、今後精度を上げていきます】

【開発力すごいな。そういえば照明点けちゃってるけど、大丈夫なの?】

【システィーナの覚醒に合わせて点灯しました。電力は小型水中発電機を作って稼働させましたので、この部屋だけでしたら照明を点灯しても大丈夫になりました】

【仕事早! でも照明もったいないよ】

【3Dホログラムは便利ですが、実際に眼球を使用しませんと目の調節機能が衰えてしまいますから】

【そうなんだ。ありがとう】

【いいえ。乗務員の健康維持は、私の使命ですから】

【それでも感謝はさせてね】

【了解しました。それと朗報なのですが、後四時間ほどで陸海空対応の小型ドローンが一機稼働できます。ただシスティーナの記憶はほんの一部しかスキャンしていませんので、この付近の状況が分かりません。ですからまずは周辺探査からですね】

【あ、記憶って一部しか読み取ってないんだ】

【はい。意識不明で未承諾の状態でしたので、救命措置に必要な最低限しかスキャンしておりません】

【ああ、それで魔法や魔力のことが理解出来なかったんだね。私の記憶なら全部読み取っていいよ。その方がアルのためにもいいでしょう?】

【私が助かるのは事実ですが、プライベートな事までスキャンしてしまって良いのですか?】

【今まで電力不足でこの周辺の情報は殆ど得られてないんでしょう? これから情報収集するにも、基本情報くらいはあった方が便利だよね。それにプライベートな事の中にも有用な情報は含まれるはずだから、区別しちゃったら情報が穴だらけになっちゃうよ】

【大変助かりますが、本当によろしいので?】

【うん、ほとんど修道院から出てないから地形情報は少ないけど、プライベートで聞きかじったことは、暇だったから多いよ】

【了解しました。それではまた医療ポットに入っていただけますか?】

【うん、わかった。あと医務室まではホログラムにしてね】

【そちらも了解です】


システィーナは記憶スキャンの後、食料庫とAIルームのドアも開放した。


【ご協力ありがとうございました。これで艦の修理に着手出来、システィーナの食料も確保できました。ですが、ご協力いただいたシスティーナには、現在の艦の状況では食料の供給くらいしかお返しできません。力不足で申し訳ありません】

【死にかけていた私を貴重な電力使って数日で癒してくれたんだよ。これ以上望んだら私が恩知らずになっちゃうわ】

【システィーナを魔の森の外に脱出させるには、搭乗可能な中型以上のドローンやローバー型探査機が必要です。機体の修理ができてもフロントデッキが開けられないと船外に出せません。つまり最低でも艦首が地中から抜け出せなければいけないのです。主機関は予想以上に壊れており、修理には年単位の時間と外部からの各種金属の持ち込みが必要と判明しました。着陸補助用の反重力ユニットを使えばここから抜け出せる想定ですが、反重力ユニットの修理には十日ほど、地中から抜け出すための電力量確保には、現状の受電量からすると約一か月ほどかかりそうです】

【反重力ユニットって、すごいのあるんだね】

【重力圏での着陸補助用ですので、飛行能力は最大速度でも50km/hほどしかありません】

【そうなんだ。でも反重力ユニット直ってもフロントデッキも修理しなきゃ開かないかもしれないから、どっか隠れて修理できる場所まで行く電力も必要だよね。私は急いで外に出る必要無いから、もっと電力貯まってからでいいと思うよ】

【それは、当艦の存在を公表しないということですか?】

【え? 当たり前じゃん。だってこの世界にとって、この艦はとんでもないオーバーテクノロジーの塊だよ。存在がばれたら、手に入れようとして軍隊がわんさかやって来ちゃうよ。そんなことになったら人命第一のアルは困るでしょ?】

【確かに困ります。現状では逃げることもできませんし、あちこちの破孔から乗り込まれたら、どうしようもありません】

【だよねー。私は大恩人のアルに不利になることはしたくないよ。だからアルの存在は出来る限り秘匿したい】

【ありがとうございます。AIは人に強制できませんので、当艦の存在はシスティーナの意思次第で明るみに出ると考えていました】

【アル、それはさすがにひどくない? 私が大恩人のアルを困らせるわけないじゃん!】

【申し訳ございません。単なるAIが大恩人というのが理解できておりませんので、予測を誤ったようです】

【アルは私を助けてくれた。だから私もアルを助けたい。たったそれだけの事だよ?】

【それではまるで人同士の関係ではありませんか】

【そうだよ。私はアルを人と同じに見てるの。これはアルに何を言われても変える気ないからね!】

【システィーナの気持ちを完全に理解することはできませんが、それがシスティーナの意志であるなら理解できるように努めます】

【うん、今はそれでいいよ。だから私を安全に外に出すことより、アルの存在が世間にバレないことを優先して欲しいの】

【了解しました。システィーナの安全と当艦の秘匿を同位の目標として設定します】

【ありがとう。で、私から一つ提案があるんだけど。近くの山脈の頂上付近にテーブルみたいに平らになってるところがあるの。そこの中心なら地上のどこからも視認できないし、人も入っては来ないはず。この山脈から北は完全な未開地だから、掘削しても誰にも文句言われないよ。だからそこまで移動して拠点作って地下を掘削したら、金属とか手に入らないかな?】

【システィーナの記憶を参照しましたが、なかなかの大きさと高さに見えますね。事前に地中探査を含めた周辺調査をしてみましょう。ですが、予想される距離の移動には、電力蓄電に七か月ほどかかりそうですね】

【じゃあ、もう少し発電量を増やす工夫を考えてみよう。ソーラーパネルって結構あるの?】

【主機関損傷時の電力確保用にかなりの量がありますが、開閉ハッチが故障している上に、ハッチのほとんどが地中に埋まっています。唯一展開動作可能な後部のパネルも、水中なため水流での損壊が予想されて展開不可能です】

【じゃあモジュール単位に分解して岸に設置できない?】

【分解は外部からしかできませんので、現状では難しいですね】

【それなら近くの破孔から地中掘削して、外から分解しようよ】

【艦内環境は可能な限り外部と隔離するのが原則ですよ】

【それは何のため?】

【乗務員の健康維持のためです。未知の細菌や病原体、気圧や温湿度、呼吸用大気組成を乗務員の身体に最適化した艦内環境を維持…そうでした。現在乗務員は現地人であるシスティーナだけ。艦内環境が外部と同じでも、艦の設備に支障が無ければ問題無いわけですね】

【そうだよ、私現地人。私が寝てた岩壁の部屋、設備に悪影響はあった?】

【湿度が高く理想的な環境とは言えませんが、毒物は検出されませんでした。艦内設備にも影響ありませんね。ですが、ソーラーパネルが他者に発見される懸念があります】

「ここの崖ってへこんだように抉れてたし、滝自体も修道院からは見えなかった。多分修道院への登山道からも、視線通らないと思うよ」

【そうですね。崖と反対側は魔の森の木々に隠れ、人が入ってくることも魔獣が多くて難しい。何とかなりそうですね】

【じゃあ、掘るの手伝うよ】

【いえ、掘削用ロボットを修理しますので、システィーナは艦内にいてください。落盤の危険性もありますので、唯一の乗務員を失う危険のある行為は慎んでください】

【はあい】


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