エピローグ

エピローグ




 目が覚めるとそこは病室のようだった。

 隣から声が聞こえてくる。


「おや? ようやく起きたねぇ」


 ……聞き覚えのある声だ。 

 いや、覚えが無いはずがない。

 だってこの声は……。


「…………来菜?」


 彼女は優しく微笑んでいる。

 ……どういうことだ? 何で来菜がいる? だって、来菜はさっき……。


「いやぁ旦那、お互い大変な目に遭ったねぇ」

「来菜……? な、何でここに……」

「仕方ないらしいよ? 色々あって、バスに乗ってた客は何かひとまとめの病室にしたみたい。ほら」


 彼女に言われて辺りを見渡すと、驚きの面々が見受けられた。


「……だから俺はもうプロは辞めたからさ……」

「……!」


 俺のいるベッドから見て正面のベッドで、雰囲気の怖い男性に、必死に一人の少女が何かをメモ書きで伝えようとしている。

 少女は口下手なのか何も言わないが、その男性に尊敬というか憧れのような視線を向けていた。


「ぐおお!? また同じキャラかよ!? んだよこのガチャ重複率高過ぎんだろ!」


 また別のベッドの上には、スマホゲームをしている普通の男子高校生らしき人物もいる。


「……ッ!? あ……あ……」


 こちらは女子高校生だろう、多分こっちを見て愕然としている。

 俺はまだ起きたばかりでちょっと周りの視界がぼやけているが……多分この感じは驚いているのだと思う。


「あらあらようやく起きたみたいですわね」


 ……静かで丁寧過ぎるこの口調の女性はよく知っている。

 何でだ……何でアンタもいるんだ?

 というか、そもそも何でみんな……病衣を着ているんだ?


「……これは一体……」

「運が良かったですわね。わたくしたち」

「……雪代先輩……」


 俺が困惑していると来菜が体をこちらに向けてきた。

 彼女もベッドに寝ていたようで、やはり病衣を纏っている。


「運転手の人は亡くなっちゃったんだって。心臓発作を起こしたみたいで……そもそもそれが事故の原因だったみたいで……」

「え?」


 待てよ……その話は既に知っている。

 何だ……何が起きて……。


「でもまさかその運転手さん以外みんな生きてるなんて……奇跡としか言えないよねぇ……」

「……何だって……?」

「じゃ、あたし先生呼んでくるよ。旦那さんも起きたことだしね」


 来菜が立ち上がる。

 待てよ……『先生』ってアレか? お医者さんか?

 じゃあやっぱり……。


「あら? どうしました? フフフ……まるで……幽霊でも見てるみたいですわね」

 ……この人分かって言ってんのかどっちなのかわかんねぇ……。


 でもホントなのか?

 俺達は……『みんな』生きてるのか?


「先輩、ここには七人しかいませんけど……」

「ああ。他の方々は隣の病室ですわ」

「他の方々……ね」

「フフ……わたくしと一緒だったシスターの方は、Mr.ミシェルとお会いできて大変喜んでいらっしゃいましたわ。個人的には彼と一緒だった未来予知の少年には、是非とも貴方に会ってほしいですわね。ああ、それと……わたくしをつけていたあの娘も……フフ……貴方に会いたいと言っていましたわね。今はあの兄妹とお話しているようですし、後で会わせてあげますわ」

「……先輩、どういうことか教えてくれませんか?」

「あら? 何をかしら? フフフ……」

「……」


 もしかするとこの人は、最初からこうなると分かっていたのか? だからあんなことを……。

 ああ……そういえば、『あの人』は最初に会った時も、最後に会った時も言っていたな。

 自分達は……『嘘』を吐く生き物だと。

 そういう意味ね……。


「あら? どこへ行くんですの? まだ起きたばかりなのに」

「……直接俺が先生に伝えにいこうと思ったので」

「嘘ばっかり。ただあの子を追いかけたいだけでしょう? フフフフ」

「……いけませんか?」

「何がかしら? 愛は全てに勝る素晴らしい感情ですわよ? わたくしから言わせれば……それを無視していいのは、『生きたいと願う感情』だけですわね」

「俺は先輩の望む結論を出せましたかね?」

「あらあら? 何の話だかサッパリですわよ?」

「……はいはい」


 俺は早速来菜の後を追いかけて廊下に出た。

 まったく……なんて長い夢を見ていたんだか。

 いや……夢かどうかはまだ分からない。

 まずはそれを確かめに行こうと思う。

 ……俺達が生きていたとしても、運転手の人が亡くなった事実は無くならない。

 いつだってそうだ。俺達は、自分とは関係ない所で自分とは関係ない人が死んでも、全く何も気に掛けずに生きている。

 だから……これからは少しだけ……もう少しだけ周りを見て生きていこうと思う。

 俺の命は俺だけのものじゃない。

 誰かの魂を背負って生きていると思うと……死にたくないという感情がますます強くなれる。

 ああ、そうだ……俺は生きたいんだ。

 これから先何があっても……俺は生きることを強く望み続けよう。

 ずっと、ずっと……いつまでも。


「待てよ来菜!」

「何? …………快太君?」


 彼女が俺の名を呼ぶときは、いつだって彼女が真剣な時だ。

 さて……何から聞いてみようかな。

 例えばそうだ。

 俺のことをどう思っているか……とか?

 今度は言わないままでいたりしないよな?

 俺達人間はいつ死ぬか分からないんだ。

 だから出来るだけ後悔しないように……いや、後悔することは分かっていても、それでも前に進み続けないと。

 そんな勝手な理屈をこねて聞かせてもらおう。

 ま、答えは分かっているけれども……な。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソウル・スクランブル・ゲーム 田無 竜 @numaou0195

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ