3

 夜 一階 パーティールーム


 俺は正司と行動を共にしていた。

 彼に誘われて、パーティールームでビリヤード対決だ。


「快パイは……いつからその超能力使えたんすか?」


 俺は力を使ってボールを集め、ラックを作る。このくらい造作もないことだ。


「生まれた時から……だな。昔は家族もみんな困ってたって話だ。俺が無意識に力を使うもんだから……周りから白い目で見られるし」

「そうなんすか……」

「でも来菜は俺と一緒に居てくれた。アイツは俺を同じ人間として見てくれたんだ。だから感謝してもしきれない」

「……逆のこと言うんすね」

「え?」

「来パイはむしろ、快パイに救われてたって言ってたっすよ。何でも覚えられる自分を気味悪いと言う奴がいた時に。快パイが間に入って助けてくれたって」

「……そうだっけ? まあ助け合ってたって話だな」

「いや、来パイは快パイが最初に助けてくれたって言ってたっす」

「うーん……流石に昔のことは曖昧だな。ま、どっちでもいいんじゃないか?」


 正直覚えていないことはない。

 しかし、それで認めてしまうとなんだか自慢というかちょっと露骨すぎるというか、少し気恥ずかしい。


「……やっぱり快パイっすよね……」

「うん? 何が?」

「……何でもないっすよ」


 そう言って、正司はブレイクショットをしてみせる。

 ボールは思っていたほど散りはせず、そもそも力をあまり込めていないように見えた。


「俺は何の力も無い一般人っす。正直バスの事故で死んだとしても、家族はそりゃあ悲しむでしょうけど、世間的には何の反応もないと思うっす」

「な、何言ってんだよ……」

「でも、快パイとミシェル、それに緋色は絶対違うっすよね?」

「は?」

「ミシェルはスターだし、快パイと緋色には特別な力があるっす。つまり……必要としている人間が現実に大勢いる。今生き残っている人間の中で、死んで悲しむ人間が一番少ないのは間違いなく俺っすよね?」

「お前何言ってんだよ。止めろよそんな話はさ。もういいだろ……」

「芽衣って俺と同い年だったっすよね? アイツは誰か自分以外の人間に生き返ってほしかったから、ああやって自ら死ぬことを選んだ。選ぶことが出来た。でも俺は……」

「止めろって!」


 俺が少し声を上げても、正司は全く動揺していなかった。

 多分、彼ももう死ぬ覚悟が出来てしまっている。

 きっと今悩んでいる問題は……誰を生き返らせるかだろう。


「……快パイは超能力以外にも、みんなをまとめる特別な力があるっす。アンタみたいな人が死んだら……そいつはもう世界の損失じゃあないっすか?」


 俺は何も言えなかった。

 どうしてだ……どうして誰かのために命を懸けられるんだ……?

 ここで一生を過ごす……それじゃ駄目なのか?

 いや……そんな考えをずっと抱き続けられるのは、傍に来菜がいるからだろう。

 正司はこの塔の中に身内がいない。

 でも……そんな覚悟を決められるほど、人間ってのは強い生き物だったのか?

 頼むよ正司、自殺も殺人も絶対にしないでくれよ。

 来菜も、レックスも、スフィカも、ミシェルも、頼むから……頼むからそんなことしないでくれ。


     *


 翌日 午後七時四十八分 一階 ダイニングルーム


「ごちそうさまでした」


 そう言って唯香が席を立つ。


「あ、棚崎君、プールの件だけど」

「え? あ、ああ……了解っす!」


 すると正司も立ち上がって、彼女のあとに付いて行った。

 水泳場で何かあったのだろうか? あそこの水はどうやら毎日勝手に入れ替わっているようで、掃除の必要もない。

 問題があるとしたら……いや、そもそも水場は危険が多いか。決まりを作った唯香は、そのことを誰かに相談したかったのだろう。でも、その相手が正司とはな……。

 彼女は芽衣の件以降俺とあまり会話していない。

 俺と距離を置くことにしたのならそれで良いのだが、何かが引っ掛かる。まあ、心配する権利は俺に無いだろうが……。


「二人とも、俺が医務室に行くまでは待ってくれよ」


 そう、唯香の決まりに従えば、俺はこの後凶器になり得る調理器具を医務室に運び、そのまま見張り番をする手筈になっている。

 唯香がそのことを忘れそうになっていたのは少し意外だが、まあ、俺ももう食べ終わっているし、すぐに洗い物を済ませてしまおう。


「快太、ちなみに包丁とかの洗い物はもう済ませているヨ。だからすぐに医務室に持っていけるサ」

「え? そうなのか。ありがとうミシェル。飯なんかいつも任せてるのに……ホントいつもいつも悪いな」

「フフ……今日の夕飯はキミだって手伝ってくれただろうニ。というか、ボクはみんなと心中するつもりだったってことを忘れたのかイ?」

「そんなこと……どうでもいいだろ」


 ミシェルは穏やかに微笑むままだった。まさかまた何か企んでいるわけじゃないだろうな。


 その後、俺はすぐに調理器具をキッチンに取りに向かって、ダイニングルームで待っている唯香と正司と共に医務室へ向かった。

 ここからはまた就寝までの間医務室に一人きりだ。また来菜が来てくれると嬉しいのだが……どうだろうな。

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