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唯香の提案通り、徹底したスケジュールに基づいた生活が始まることになった。
加えて刃物、鈍器などを医務室に集め、起床から就寝まで一時間ずつ交代で誰か一人が医務室の見張り番をする。
交代の際には必ず軽い身体検査をして、中から何かを持ち出していないかを確認。食事前や就寝前に見張りの時間が終わる担当者は、必ず誰かが迎えに行って、身体検査をしてから医務室を出てもらう。食事後と起床後に見張りを始める担当者に関しては、誰かに医務室まで送ってもらう。
見張りの順番は朝食後の午前九時頃から十二時までは来菜、シスター、唯香が順に担当。昼食後の大体午後一時頃から午後七時は俺、正司、ミシェル、レックス、スフィカ、唯香が順に担当。夕食後は大体午後八時頃から九時までまた俺が見張りをして、九時になったら誰かに迎えに来てもらうって寸法だ。
俺と唯香は自分から二回分の見張りを申し入れた。言い出しっぺの唯香は初めからそのつもりで、当然だが緋色には頼めないからだ。
そしてスケジュールが以下の通り。
〇午前七時 まずミシェルが個人部屋を出て、朝食の準備のために凶器になり得る調理器具を医務室からキッチンに運び、ミシェルは朝食の準備を始める。
〇午前八時 朝食の準備を終えたミシェルが手ぶらでみんなを呼びに行き、個人部屋からダイニングルームへ全員を直行させたら朝食開始。
〇朝食後~昼食まで 見張り担当以外は自由時間で、必ず二人以上で行動。朝食直後と昼食直前までの見張り担当は誰かと共に調理器具を運び、手間だが医務室とキッチンとを行き来させる。
〇午後十一時~十二時 ミシェルは昼食の準備。
〇午後十二時 昼食のため、ダイニングルームに各自集合
〇昼食後~夕食まで 朝食後~昼食までとほぼ同じ。
〇午後六時~七時 ミシェルは夕食の準備。
〇午後七時 夕食のため、ダイニングルームに各自集合
〇夕食後~就寝まで 朝食後~昼食までとほぼ同じ。
〇午後九時 就寝のため、各自個人部屋へ
わざわざキッチンではなく医務室を見張りの場所に選んだのは、医務室にある無数の危険な薬を置くスペースがキッチンに無かったからだ。
それと、料理をまともに出来るのがミシェルだけなので、彼にはある程度凶器になり得る調理器具の使用が認められる。
ミシェルはその気になれば個人部屋に皆を呼びに行くときに殺人を行えるかもしれないが、叫び声を上げれば誰かしら気付くだろう。あと、キッチンに近付かなければそこにある調理器具で襲われる可能性もまず無い。
朝は彼が呼びに行くまで皆個人部屋から出られないが、それはつまりミシェルにだけは自由な時間があるということでもある。でも、もし彼が医務室から調理器具以外の物を持ち運んだりしていたらカメラアイの来菜がすぐに気付くだろう。
賢いミシェルならそんなことはしない。きっと……しないはずだ。
*
翌日 三階 医務室
「……暇だな」
早速決まり通り医務室の見張りの出番が俺にもやって来た。
しかし、まだ十分しか経っていないのに、俺はもう暇すぎて死にたくなりそうになっている。
ずっとこうしていると気分が悪くなりそうだ……。
「よ! 旦那さん元気―?」
そう言いながら医務室に入ってきたのは来菜。
彼女の笑みを見ると活力が無限に湧いて出てくる。
それこそまるで、神聖な霊峰の山中で地表に噴き出てくる湧き水のように、崇高で尊く、澄み切った透明の燦然とした絢爛の――。
「どした?」
「いや、何でもない。ありがとう。一人でずっといると気が滅入るところだったよ」
「旦那さんは寂しがり屋だからねぇ。まあ、正直あたしも見張り役は二人とかでも良かったんあじゃないかなぁって思ってるよ」
「その辺は唯香に相談した方が良いかもな」
俺が唯香の名前を出すと、来菜は少しだけ眉をひそめた。
「……ところでさぁ」
「何?」
「旦那さん、唯香ちゃんのこと振ったんだって?」
……何だと……?
唯香の奴、よりにもよって来菜にそのこと話したのか……。
「それは……その……」
「あの子に謝られたんだけど」
「え? な、何で……?」
「……やっぱりここでみんな一緒に長生きってのは……厳しいかもねぇ」
「……」
彼女の言いたいことは理解できている。
その心配は今までしてこなかった。
そうだ。俺には来菜が傍にいてくれるし、それだけで満足だが、他のみんなは違う。
もしかしたら死ぬ程大事な人間が現実にいる奴もいるだろう。スフィカの反応を見る限り、多分レックスは間違いない。スフィカもそうかもしれないが……。
ミシェルもシスターもそうかもしれない。
正司は違うみたいだったが、唯香に関しては……正直どこまで俺に対してが本気だったかが分からないから何とも言えない。
とにもかくにも、ここにいる以上、男女関係は色々と大変かもしれないっていうのは間違いない。
俺はもしかして……既に判断を誤ったのか……?
「……いつか言うくらいなら今言うね」
「え? な、何を……」
「……あたしは、快太君に現実で長生きしてほしい。だって……快太君のお母さんやお父さん、それに弟君も、みんな快太君が死んだら悲しむから。それに……快太君の『力』は、多分これから先、世界中の人に必要になるものだから」
「来菜……」
「生き返るべき人間を一人挙げろと言われたら、あたしは迷わず貴方を挙げる。たとえ……ここにいる人間全てを犠牲にしても」
「……!」
来菜の目は本気だった。
彼女は既に選択していたのだ。
でも……俺は……。
「……なんてね! 今のはそれしか選択肢が無かった時の話。あたしはまだ……ここで一生を終えるつもりでいるからね」
……『まだ』……か。
既に四人が死んでしまった以上、彼らの遺志を無視してここで生き続けるのは果たして正解なのだろうか。
生き返るべき一人のために、全員が命を捧げるべきなのか……それとも……。
俺は、いつまで分からないままなのだろう。いや……きっと最期の最期までこのままなのだろう。
多分……そのはずだ。
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