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「どういうことだ?」

「レックス! キミのおかげで完全にご破算だヨ! ボクはね、彼女をボクが殺したことにして、その上で投票でボク以外の犯人を指名させてから自白するつもりだったのサ! 『ボクが犯人でしタ。だから犯人を当てさせなかったボクの勝利ダ』ってネ!」

「何だと……?」


 驚くような言い方をしてみせるレックスだが、多分彼も勘付いていたらしい。

 言い方が分かりやすく棒読みだった。


「ボクにとって若干ネックだったのは、『どうやってみんなにボクが犯人だと信じてもらうか』だっタ……。だからボクは、敢えて自分の髪の毛を部屋の見やすい位置に落として誰かに拾わせた。あ、足跡はホントに野乃のだよ。でもまさか第一発見者の正司があの髪の毛を見つけるとは……正直予想外だったヨ。でもその証拠はいくらでも言い訳が利く微妙な証拠。投票は結局多数決だし証拠不十分でボクに票が集まることはないと思っていたから、終わった後の自白でみんなを納得させられる程度の証拠として残したのサ!」


 彼の滅茶苦茶な話を聞いて、来菜も戸惑いを見せている。


「な……何それ? アンタそれ、自分に票が集まってたらどうしてたの?」

「もちろんボクは真犯人じゃないから問題無いよネ? レックスの決めたルールに従えば、ボクがそれで死ぬ必要は無い」

「……え? ま、待ってよ。それじゃ誰が犯人で……」


 どうやら来菜はそこから先はまだ気付いていなかったらしい。

 だが少なくとも多分俺とレックスは分かっている。シスターは表情が見えないから分からないけど。

 けど……俺は……。


「……ボクは酷く落胆したヨ。まさか鬼たちに犯人の答え合わせを手伝ってもらうだなんて。なぁレックス、キミはいつの間に彼らと仲良くなったんだイ?」

「……向こうから声を掛けてきたんだ。でも今回は無駄だったみたいだな……」

「ハハハ! その通りだネ!」


 二人しか通じていない会話に、スフィカが無理に入っていく。


「どういうことかニャ? まだミシェルが犯人の可能性もある気がするニャ」

「いや……残念ながらそれは無いんだヨ。スフィカ、キミはドアの状態を確認したかイ?」


 スフィカは何だかわざとらしく首を傾けた。

 そこで、来菜はどうやら気付いたらしい。


「……壊れてた。そう……壊れてた! 無理やり壊した感じで……きららちゃんの部屋と同じ感じで……だからえっと……えっと……」


 来菜はカメラアイを持っている代わりに思考能力がそこまで高くない。

 記憶の引き出しが無限にあるため、必要な引き出しを選択するのが困難なのだ。

 それでも彼女は辿り着く。



「あの部屋は――――――――――密室だった?」



 そして、彼女の言葉を聞いた正司は立ち上がった。


「はぁぁぁ!? 何……何でそんな……はぁ!? そんな馬鹿な……何でそんなのが分かるって……」

「ラッチが完全に破壊されてた。アレは鍵を閉めていたところを無理やり開けたからそうなったんだ。きららの部屋も同じようになってる」


 俺は正司に対してそう説明した。


「でも……そんな……ど、どうせまたなんかあるんすよ! だって! だって……」

「ちなみに扉を破壊したのはボク……サ」

「な……」

「ボクはね、朝ご飯を作るために早起きしたのサ。昨晩は何も準備してなかったから。ハハ、意味の無い嘘吐いてごめんヨ。それでふと冷凍室の奥にある倉庫が気になってしまったのサ。こればかりは本当にただの虫の知らせ……それ以外説明のしようがないネ。で、ボクはきららに刺さっていたままであるはずのナイフが消えていることに気付いタ。そしてボクは、持ち出した可能性のある怪しい人物を、ボクが怪しいと思う順で尋ねたってわけサ」

「……その一番手が先輩だった?」

「そうサ、快太。彼女はハッキリ言ってボクも怖かったんダ。レックスからのゲームの提案を受けて、いの一番に拍手なんてことをし出した彼女のことが……」


 それは多分、実はここにいるみんなが思っていたことだろう。

 確かにレックスの提案は必要不可欠なものだったかもしれない。

 しかし、それでも誰よりも先に笑顔で拍手し、レックスを称える彼女は確かに不気味だった。

 まるで……『ゲーム』という単語にワクワクしているようで――。


「まあこれも偶然だネ。でも、ボクがいくらノックしても彼女は応答がないから、だんだん不安になったのサ。その結果……ボクは無理やり扉をこじ開けることにした」

「そんなの……そんなの誰が信じられるんすか!? そんなわけが……」


 正司はまだ納得していない。ここは俺が言うべきだろう。


「良いか正司。仮にミシェルが犯人なら、コイツは鍵の閉まった先輩の部屋をこじ開けなくちゃいけないんだ。そして、その時間は昨日の夜でなくちゃいけない。でももしそうだとしたら、お前が聞いた『ドアを破る音』の正体が分からなくなっちまうんだ」

「そ、それは……」

「コイツがドアをこじ開けたのは七時頃だ。その証人は……お前自身じゃないか」

「……ッ! で、でも……じゃあやっぱり最初から鍵が開いてたんすよ! ラッチが壊れてたのは偽装工作で……」

「折角夜中の間に誰にも気付かれず先輩を殺せた後に、どうして朝になってから無駄に先輩の部屋のドアを壊す必要があるんだ? 誰かにその音を聞かれて見つかったらどうする? ミシェルが真犯人ならそんなことをするメリットが無いんだよ」

「で、でも……でも……」

「もしお前が音のした時に自分の部屋から出てミシェルの姿を確認していたら……お前は今以上にミシェルを疑っていたはずだ。証拠が無い分そういった怪しい行動を取った人間に票は集まる。完璧な殺人が出来た後にリスクを負うのはミシェルのやり方じゃない。そうだろ? ミシェル」


 ミシェルは満足そうに頷いていた。苛立つくらい嬉しそうだ。

 まあ、彼本人が言うよりは説得力があっただろう。

 でも、俺はまだ……認められないんだ。


「……それでも俺は、ミシェルに投票するっすよ」

「そうか……」


 まあ、それも選択としては悪くない。俺だってそうしたいところだ。


「……フフ、キミがボクをそんな完璧好きだと思っていたとはネ」

「? 違うのか?」

「ああ。なにせボクはもとより頭脳明晰博学多才運動神経抜群容姿端麗完璧超人だからネ。弱点と言えば運の悪さくらい……だからこそボクは運の勝負でこそ勝ちたいと思っているのサ」

「……じゃあ投票をするのなら俺はお前に入れておくよ。それで運の話は無意味になる」


 レックスは呆れるようにしてそう言った。

 多分、今のところみんなそうするつもりなのだろう。

 何故なら――。



「ああ何だっていいヨ。だって野乃は―――――――――――自殺したんだからネ」



 皆もうその結論に至っていた。

 しかし、その動機がどうしても分からない。

 いや、そもそも俺に至っては……まだそれを信じられない。

 何故だ? どうして俺は……またきららの時と同じだと思っているのか? 

 きららの時と……同じ……?

 ……同じ……包丁……自殺……密室……。

 きららの時も……俺は彼女を理解できていなかった。雪代先輩は……あの人は何を考えていたんだ……。

 あの人の言葉を……あの人との会話を……思い返したら何か分かるのか……?

 あの人に関する記憶を……手繰り寄せたら……。

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………待てよ。

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