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一階 ダイニングルーム
静まり返ったロビーで、最初に声を出したのはレックスだった。
アイツが取り敢えずみんなで話し合おうと言って、全員をダイニングルームに誘導した。
みんな思考が停止してしまっていって、言われた通りにする他なかった。
そして一番大きな円卓に皆を座らせて、それぞれが互いの顔を見られるような状態を作り出す。
「……さて、まずは何から話そうか……」
レックスは落ち着いた口調で目を細めた。どうしてそこまで落ちつけるんだ?
周りを見渡しても、そこまで冷静でいられるのはお前だけ……いや、もう一人いる。
「決まっているじゃないカ。ここで一生を終えようヨ! みんな仲良くサ!」
ミシェル……一体何を言っているんだ? いや、待て……彼は頭の良い人だ。
大丈夫。落ち着いて考えろ俺。俺も二人のように冷静になるんだ。そうすればどうするべきかは見えてくる。
「……それはつまり、生き返る一人の為に、十二人で心中しようってことか?」
俺がそう言うと、ミシェルではなく雪代先輩が反応してくれた。
「違いますわよ、快太君。ミシェルさんが仰りたいのは恐らく……自然死を待とうという話ですわ」
何? どういうことだ? シゼンシ……自然死? それって……。
「そうサ。鬼たちは言っていたじゃないカ。『十二人がここで死んでくれたら』――」
「――『残った一人が生き返られる』……」
そうか。俺も分かったよ。でも、まだ何人かは分かっていない様子だ。
「ど、どういうことっすか? 意味わかんねぇっす……」
「良いかイ? 正司。鬼たちは別に、ボクらに対して『死に方』を縛らなかっタ。つまり、『寿命』で十二人が死んだとしたら、最期まで残った一人が自動的に生き返ることになるってことサ。現世とはリンクしてないみたいだけど、ここでもちゃんと時間は経過しているようだし、ボクらはみんな老いて更けることが出来るからネ」
「……あ。じゃ、じゃあ……誰が生き返るべきかどうかとか、考えなくていいってことすか?」
「そうサ。天命に任せて、これからもみんなで仲良くここで暮らそうじゃないカ」
「そんなの困ります!」
叫んだ人物は愛野芽衣。
彼女は全身を震わせて、今まで一番自身の感情をさらけ出していた。
「……ここで一生暮らす……? そんなの……そんなの……無理ですよ……」
彼女の気持ちは確かに分かる。家族だって現世にいるわけだし、未練も数多く向こうにある。
彼女は何も間違っていない。けれど、ミシェルだってそうだ。
「……芽衣。キミの気持ちはよく分かる。ボクがこんな簡単に生き返ることを諦められるのは、きっとキミと違って現世に待つ家族がいないからだろうネ……」
「そ、それは……」
前に彼から聞いた話だ。
ミシェルは途轍もなく高名な両親を持ち、祖国で数多くの人々に祝福されて生まれたという。
しかし、その頃には父も母も亡くなっていた。父は臨月の間も戦争に出向いていて、母は元々病弱だったのが祟り、出産に耐えることができなかった。
周囲から恵まれた環境を与えられながら、家族愛だけは受けられなかったのだと、自らそう話していた。
「……私はミシェル様に賛成致します」
そう言ったのはシスターだ。
ミシェルとシスター? 何だよそれ……この中で一番年上の二人が……何でいの一番に寿命が尽きるのを待とうとするんだよ……。
「待ってよシスター。それにミシェルも。自然死を待った結果最後に生き残る可能性が高いのは、どう考えてもこの中じゃ一番若い緋色や、あたしら学生の誰かじゃん。逆に可能性が一番低いのは二人か海江田さん……。そんなの全然納得できないよ」
来菜は俺が言わんとしたことをそのまま口にした。
しかし、二人は一度目を合わせると、穏やかな目を皆に向けてきた。
「……分かっているサ。でも、『心中』って選択ができる人間はこの中にはいないだろウ? それに、ここで一生を過ごす人生もそんなに悪くないんじゃないかナ? 水もご飯も無限に湧いて出てくる。寝る場所もあるし一緒に遊ぶ友達もいる。そうだロ? みんな」
ミシェルの考えが一番妥当だ。いや、きっとそれしかない。
他の方法をいくら考えようとしても、俺は何一つ思い浮かばなかった。
俺達はこの塔の中で、十二人が自然死するのを待つしかないんだ……。
「俺は……ミシェルに賛成だ」
「ありがとうネ、快太」
「……止せよ」
多分この場の誰も納得はしていない。でも、これ以外方法はないじゃないか。
きっと生き返ることになるのは緋色だろうが、それでも『心中』をするよりはだいぶ良い。
ここで一生を過ごす方が何倍も良い。
そうに決まっている……はずだろう?
それから数時間くらい俺達はこの円卓を囲み続けた。
しかしそれでも対案が出てくることはない。
俺達は皆、一人を残してここでの一生を終えることを選んだのだ。
言うなればそれは、『生き返るべき人間』の選択を天運に任せたということになる。
けど、それで良いはずだ。『生き返るべき人間』を選ぶということは、それ以外の『死ぬべき人間』を選ぶということになってしまう。
そんな下らない選択を……俺達人間がするべきじゃない。するべきじゃないんだ。
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