第二章
1
俺達十三人は長く一緒に生活を続けた。
俺は出来るだけみんなが毎日を楽しんで過ごせるようにイベントとか色々考えたりしたけど、果たして役に立てただろうか。失敗も多かったからなぁ。
来菜はそんな俺のポカに対していつもツッコんででくれるからとても助かった。やっぱり俺には来菜が必要だと思う。来菜もそう思っていてほしい。
雪代先輩は頭が良いから困った時にいつも頼りになった。数学オリンピックで優勝したことがあるとか言っていたけど、本当なんだろうか。
正司とは一番気が合う仲になった。後輩だけど同い年のような感覚で接することのできる良い奴だ。あと誰よりも常識人だしな。
唯香は、何というかあらかじめ言っておきたい。ごめんなさい。良い子なのは分かるし、可愛いのもわかるけど、でも、その……ごめんなさい。
原田兄妹はレックスが大人しく、代わりにスフィカが騒がしいというバランスの良い二人だったな。レックスは頼むからスフィカにあの語尾を止めさせてほしい。
ミシェルには何も言うことがない。毎日『ありがとう』と言っているからもう今更だろう。料理や掃除を率先してやってくれる貴方は確かに完璧超人だ。
緋色は六歳とは思えないほど頭が良く、俺がクイズ大会を開いた時に見せた活躍は多分生き返っても忘れない。ミシェルの言う通りただ物ではない少年だよ、お前は。
芽衣はもう少し自分に自信を持った方が良いと思う。俺が毎日『ありがとう』と言っていた一方で、彼女は毎日加害妄想からか『ごめんなさい』と言っていたな。
きららは無口だけど全身を使った感情表現は非常に上手だったと思う。ジェスチャーゲームをやった時も彼女は相当上手かったな。
シスターはミシェルのこと好きすぎだと思う。ファンというか最早信仰対象になっていたしな。けど、彼と一緒に家事をやってくれていたのは感謝の一言だ。
海江田さんは結局いつも一人だったけど、何人かは彼と話が合うのか率先して彼に会いに行っていたな。やはり根は良い人なんだろう。
三十日が過ぎて、俺達はとても親交を深めていった。
こういう言い方は少し気恥ずかしいが、絆が芽生えたと言っていいんじゃなかろうか。
……そう思っているのが俺だけだったらどうしよう。
流石にそんなことはないよな? ……そう思いたい。
*
三十日後 二階 廊下
「…………」
刺すような視線を受け、俺は後ろを振り返った。
そこにはマスクをした女子――柊きららの姿があった。
「な、何?」
「…………ッ」
紙を一枚渡された。これはそれぞれの個人部屋に置いてあるメモ帳の紙。
恐らく何か伝えたいことがいくつかあるのだろう。
彼女は基本無口で、他人とあまり長く話したがらない。そういう意味では海江田さんと似たようなタイプだ。
「……ッ。……ッ」
両手を差し出して読むように催促される。彼女と海江田さんの違いといえばこういう所だろう。別に彼女は人付き合いが嫌いなわけではないらしい。
だからこうして伝えたいことがたくさんある時はメモを使うのだ。声を出すのが嫌いなのかもしれない。
「分かった。読むよ」
「!」
彼女は嬉しそうに首を縦に振る。何だか小動物みたいだな。
さてさて中身は何だろう。
『いつも無口でごめんなさい。長い話をするのは苦手なので、こちらで失礼します。今日で三十日ここで皆さんと過ごしましたが、私といえばずっとこんな調子で、口数少なくメモなんかでやり取りをしようとする駄目な女でした。今更ですが私がこうして話すのが苦手な理由を、皆さんにはお話しておきたいです』
……うん? ここで終わり?
俺は目の前の彼女を見つめた。すると彼女は既に次の紙を提示してきていた。
一度に全部くれても良いんだけどな。まあいい。それで中身は……。
『私は何の特技もない、何の特徴もない、何も無い人間です。でも、ゲームとかアニメとか漫画とか、そういうのは好きで、正直それの無いここでの生活はちょっと大変でした。話が逸れましたが、私はそんな自分を変えたくて昔ゲームの配信をしたことがありました。でも、やっぱり失敗して、特に自分の声に対する悪口をたくさん言われて、それから人と話すのが苦手になってしまいました。だから初対面の皆さんを相手にずっとこんなメモを使っていたんです。でも……皆さんとの生活はとても楽しかったです。だからありがとうございます。本当に』
俺はそのメモを呼んで、感動で涙が出そうになった。
目の前の彼女は真っ赤になっている。恥じることはない。なんて素晴らしいメッセージなんだ。
「これ、もしかしてみんなにも見せた方が良い?」
「……ッ」
きららは激しく頷いた。このメモはきっと、彼女なりの別れの挨拶のようなものだろう。
そう、俺達はこの塔の中で三十日も過ごしたのだ。互いに対して情が湧くのは当然のことだ。
「……ありがとうきらら。というかそっか、知らなかった。ゲームとか好きだったんだ。だから俺が提案したゲームも率先して参加してくれたんだなぁ」
きららは真っ赤なまま目を伏せてしまった。
「……ゲームは……結構……する……」
お。彼女が口を開いた。この一ヶ月でも最初の自己紹介くらいでしか俺は彼女の声を聞いていない。珍しいことだ。
「へぇ。例えば?」
「……『Precious×Precious』……」
ヤバい。分からない。ネトゲとかかな?
「へ、へぇ……結構上手いの?」
彼女は大きく首を横に振った。大丈夫かな、上手さとかそういうのと関係ないゲームだったりしないよな。
「……私は……弱い……けど……上手い人は……凄い人も……いる……」
「上手い人?」
彼女は目を大きくして顔を上げた。
「『殺し神』様! 私が……一番尊敬してる人! 毎シーズンランク一位で元プロのあの人みたいになりたくて私ずっと練習してでも全然うまくならなくてでもあの人のプレイ見てたらそれだけで楽しくてまた自分もやりたくなって…………あ」
彼女はまた赤くなって目を伏せた。凄い早口だったけど、とにかくその人のことを尊敬しているというのはよく分かったよ。不自然な流れで語り出したし。
「そんなに凄い人なんだ……」
「……でも一緒には遊べない。『殺し神』様は……いつも平日の日中に潜っているから……」
「潜る? オンラインの世界に?」
彼女はコクリと頷いた。なるほど、人と一緒に遊んで競えるゲームなんだな。やっぱりネトゲだろう。
「……あ! というか忘れそうになった。これみんなに見せてくるよ!」
「……ありがとう……」
そう言って俺は彼女の別れの挨拶をみんなで共有しに向かった。
というか、当たり前のようにこの一ヶ月でここでの生活は終わりだと思っていたけど、ちゃんと生き返らせてくれるんだよな?
もしかして追加延長とかあるのか? そろそろみんなでやるイベントとかゲームのネタが無いんだが……大丈夫かな?
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