第189話 笑顔

「ダァく~ん! 無事でよかったよぉ~!」


 ぽわぽわ女神のむにゅむにゅに包まれる。

 例のゴッドイーターに襲われたことを知った女神に呼び出され、こうしてご褒美を頂いている訳だが……。


 しかし、そんな心配したんならその時に助けてくれても良かったんじゃないの!?

 どうせ見てたんでしょ!


「うぅ……ごめんね~? ちょうどそのときゴルディックさんの奥さんとお茶してて~……これからはずーっとダァくんだけを見てるから! だから許してください~……」

 あかん。


「いやいやいや、本当に困ったら喚びますから! ずーっとなんて見てなくてもいいですから!」

 そんなんたまったもんじゃないやい!


「うぅん、私がそうしたいから……ダァくんになにかあったら私……」

「……」

 やばい、目の光が……。


「こほん、ところでポワンよ。私の話をしてもいいか?」

 そこに割って入ってくれる人が……この方誰だっけ?


「以前話した魔神の話は役に立ったか?」

「えぇ! 『暴食』の情報、とても助かりました! おかげで対策もとれましたし!」

 あ~はいはい、思い出したわ!

 以前ウサムンの情報を集めていた時に紹介してもらった……名前何だっけ?


「うむ! 少しでも役に立てられたのであれば幸いだ! ……ところで、今後の話なのだが……」

「……な、なんでしょう?」

 おっと? 何やらめんどくさそうなことになりそうだぞ?

 世話になった手前、邪険にもできんし……名前も知らん人だけど。


「何やらゴッドイーターを倒したらしいじゃないか! その腕前を見込んで――」

「あぁ! あの件ですか! 確かに倒したのは事実ですが、決して私の力だけではありません! 彼の世界の創造神であるゴルディック様! 彼のお力がなければ……いえ、むしろ彼の偉業に私がほんの少し助力しただけでございますれば!」

 嘘は! 言っていない!!!

 あいつのせいで次元門を開くことになったし! あいつのせいでリアクション芸人さんのマネすることになったし! あいつのせいで袋とじ覗くようなことになったし!


「はっはっは、謙虚な奴だな! しかし見ればわかる! お前の実力は――」

「全部! ゴルディック様の! おかげ!!!」

 この後の話なんて聞かなくてもわかるわ!

 いやだ! もうあんなのと戦うのなんて嫌だぁっ!


「はっはっは! もったいないじゃないか! 究極級を倒せる神なんて――」

「ですから――」

 こいつ! 人の話を全然――。


「――ねぇ?」

「「……」」

 

 その瞬間、確かに時が止まった。


「ダァくんは嫌がってるの。わからない?」

「…………う、うぅむ……すま、すまななな……こほん、すみゃない」

 なんて? いや、正直気持ちはわかるけども。


 ポワンさん怖すぎぃっ!

 真っ暗、いや昏い目をして冷たいナイフのような声で……次に粗相をしたら確実に命はない、そんな確定的予感を孕んだ嫌な空気ががが。


「は……はは。ポワン様、心配してくれてありがとう。けれど大丈夫ですよ」

 大丈夫、俺? ちゃんと話せてる?


「……ダァくん……」

「は、はひっ!?」

 やっちゃった!? 俺なんかやっっちゃいましたぁっ!?


「……私ね、その笑い方……好きじゃないなぁ……」

「……(コヒュッ)」

 息……息がっ! でき……っ!?


「ここに初めて来た時もその笑い方……愛想笑いしていたよね。愛想笑いが全て悪いって訳じゃないと思うけど……」

「……え?」

 ここに……初めて来たとき……?

 それって、転生した時のことか?


 もう遠い昔のことのように感じるが……。

 確かに、転生したばかりの時は……前世の状態を引きずっていた訳で。


 上司や顧客には当然爽やかな顔でなければいけない。だけど、辛い日々が続けば……無理に笑うしかない。

 そうやって笑顔を無理矢理作って……張り付けたように……。


「本当は心配だったんだだよ。自分を誤魔化して嘘の笑顔を浮かべて……嫌なことを無理して背負い込まないか、頑張りすぎて圧し潰されちゃわないかって。だけど、アレクさんになってから心から笑っていることが多くて安心してたのよ」

 今の自分の顔。

 そして……笑顔と言う言葉に浮かんだエリーの顔。


「……そうか」

 どうして幼少期からエリーのことを嫌いになれなかったのか。何であの笑顔を見ると心安らいでいたのか。そして……幸せな気持ちになれていたのか。

 きっと、上辺なんかじゃない心からの笑顔を向けていてくれたからなんだ。


 もちろん、エリーだけじゃない。

 メイちゃんやアラアラ、他のみんなもたくさんの笑顔をくれた。


「ポワン、糞みたいな顔を向けてしまってすまない」

「ううん、私も無理させちゃったね」

「いや……これからははっきり言うよ。だから……これからもよろしくな!」

「うん!」

 そう言ってポワンと抱き合う。

 温かな気持ちをくれる彼女たちを……決して離さないと誓いながら。




「……あの流れからどうしてそうなったんだ?」


 余計なことを言った名前も知らない神がどうなったかは……いや、みなまでは言うまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る