第188話 封印した記憶

 爺さん主催の佃煮パーティを辞退した俺たち。


 命を懸けた戦いの後にすることはただひとつ!

 そう、本能に身を任せた子作りだけだ!


 みんなを連れて家に戻り、エリーを寝かしつけて体を洗い……そしていよいよメイちゃんたちの待つ寝室へ!


「……」

「ひゃっはー☆」

 一瞬で身に纏っていた衣服を脱ぎ棄て、布団にくるまっているメイちゃんの横にダイブ!


「来たの……ってなぜ裸なのじゃ!?」

「そんなこと……って!? 何でリオが!?」

 俺に幼女趣味はないとあれほど……!


「まぁよい、また契ろうではないか。『わらわの初めてを奪った』時のようにの」


 その言葉を聞いた瞬間!

 まるで蓋を開けたように記憶があふれ出してくる!


 その記憶!

 リオと一緒に、プリンちゃんことボルケーノスライムを探していた時の記憶が――!




 ◆◇◆◇




「■■■」

「「――っ!?」」

 やっ、ばっ、死っ――!


「――んでたまるかぁっ! 『アクセラ』!」

 極限まで思考を加速する!

 どうする!? どうする!? 俺の魔力とは比べ物にならない魔力まるでこの星そのものを感じさせる圧倒的存在感無理じゃねいやいやいや俺には愛する人たちがいる絶対負けられんこんな時は素数でも数えて落ち着いて考えろ……2、3、5、7、9ちげっ9は素数じゃない11、13……。




 ……199。


 どうやら敵は動きは鈍いらしい。素数を199まで数えることができたのだからなっ!

 ともあれ、おかげでようやく落ち着けた。同時にあいつの攻略法もいくつか考えた。


 まず1つ目、毒。しかしやつの肉体的構造がわからないので何とも言えない、却下。

 2つ目、別の次元門で飛ばす。しかしやつの存在を飛ばせるまで魔力を込める時間が足りるかどうか……却下。ちなみに、今開いてる門を閉じようとしても無駄だった。

 3つ目、奴の魔力を蚊みたいに吸収する。確実に俺がパンクするので却下。


 ……詰んでね?


 いやいやいや、考えねば! 案外いい線いってると思うんだけど……。

 毒、飛ばす、吸収……そもそもこいつの魔素を奪えるのか? いや、奪う! 体内から、少しずつならなら奪えるはず!


 ……ウィルスのようにこいつの体内に侵入させて、魔素を吸収させて、その魔素を飛ばす……?

 その方向でやってみるか。


 イメージは大量の蜘蛛のような虫、ゴルディック教会の秘術でもあった魔石化、それを『俺の世界』に転移。

 悪くない! これならいける! 多分!


 まずは蚊のように口先に針のようなものを付け……お尻に魔力変換と転移の魔法陣を組んで……!

 ダメだ! 奴の体を貫通できない……。

 ならば1体1体をもっと強く……!

 ダメだ、奴の魔力に弾かれてしまう……。

 ならばもっと……いや、小さく……圧縮して!

 ダメ……いや手ごたえを感じる!

 ならば奴の纏う魔力を縫うようにもっともっと小さく……!

 ……いけた? 奴の魔力を突破して身体に侵入したのが確認できた!


 最初は拳ほどの大きさだったものを目に見えないサイズまで超圧縮することでようやく奴に辿り着いた。

 しかし……ダメだ、力が足りない……! あまりにも奪える魔素が少なすぎる……。

 力、力、力……どうすれば……そうだ! 『不滅の鎖』と同じように自己強化の構造を組み込めば……!


 いけた! 先程よりもいい感じで敵の魔素を、つまり肉体を奪えてる!

 後の問題は……この3つの魔法を付与した極小サイズのそして無数のコバエを操る集中力が……いややるしかない!




「『アクセラ』解除! リオ! 奴の攻撃を避けながら近くをキープしてくれ!」

「――なっ!? ……わかったのじゃ!」

 頼む……俺の命、預けるぞ……。


「そして……『悍ましき簒奪者』!」

「■■■■!?」

 体内に侵入している異物に気付いたのか、不快な声を上げる黒いモノ。


 いや……そんなことを考えている暇はない……。

 今はただ……簒奪者の制御を……!




 ……。




 …………。




 ………………。



「……■■……■……」

 

 どのくらい経ったか……。

 目の前には、ようやく体を崩れさせる黒いモノ。


 敵の急所と思われる場所に辿り着くも、何度も回復されたり簒奪者を破壊されたり……気の遠くなるような長い時間の攻防だった気がする。

 周囲を見てみると、遠くの島々が抉れていたり氷塊が突き刺さっていたり……。


「……おわった……かの?」

 リオが息も絶え絶えな様子で聞いてくる。


「あぁ……奴からはもうほとんど魔力を感じない。そして……これで!」

 極大火魔法を、最早残りかすしかない状態の奴に叩きこむ。


「……」

 最期は言葉もなく消失していった。

 それと……やつの背後にあった次元門をしっかり閉じてあるのを確認する。




「……勝ったのじゃ!」

「……あぁ!」

 そう思った瞬間、全身から汗が滝のように噴き出てくる。


 今回は……今回はマジで死ぬかと思った!

 何ぞあの化け物! まるで世界そのものを相手にしているかのような存在感!

 もう一度戦えと言われたら尻尾巻いて逃げだす! 大事な人だけ抱えて自分の世界に引きこもる!


「時間にして数分といったところか……されど何十年と戦ったような気分じゃった! 本当に死ぬかと思ったのじゃ!」

「リオ……!」

 こいつがいなかったら本当に……。

 と思っていたら急に人の姿になるリオ。


「主よ! わらわは……わらわは……!」

「うん……んん!?」

 猛烈な勢いで口を塞がれる。


「死ぬ思いをして……ん……わかった……ぢゅ……のじゃ! んちゅ……死んでも……んはぁ……守りたいと! これが……愛なのじゃ!」

「リオ! 落ち……んんっ!!!」


 熱烈に口づけを求めてくるリオ。

 当然それを拒む……気にはなれなかった。


 命の危機を感じたからか生死を共にしたからか……いやそんなことはもはやどうでもよい!

 おれもこのたぎるねつじょうを……!




 ◆◇◆◇




 ――そして現在。


 あの後『自分の世界』でしこたま契ってリオは神龍となって黒いモノ、ゴッドイーターの魔素を箱詰めして……『リオの初めてを奪った』と言う合言葉を決めて記憶を封印して何事もなかったかのように元の場所に戻ったんだった。

 何故なら……何故なら俺は!


 こんなにも恐ろしい事実と向き合わなければならないのだから!


「とっ! ところで! わらわとの……その……のじゃ……」

 そう! リオといたしてしまったという事実に!


 以前ヒルデに性的に襲われたときのことを思い出す。

 今回はお互い求め合って……と言うのがせめてもの救いだが……。

 しかし、ロリっ子には絶対に手を出さないと決めていたのにぃ……!


「……主様……」

 心配そうに上目遣いで見つめてくるリオ。

 ……ま、いっか! 実年齢1000歳らしいし!

 てか1000歳で処女て! まぁ、だからこその合言葉だったんだけど……。


「愛してるよ、婆さんや」

「そっ! そうかの! いやー心配なんかこれっぽっちもしとらんかったけどの! 少し……ほんの少しだけもしかしたらわらわのことは別に愛してないのかと……って誰が婆さんじゃ!」

 ツッコミまでが長い。

 それと婆さんではあるじゃろ。


 しかし……うむ! 責任はしっかりとるぞ!


「何を言っている。俺はそこに愛を求めるって言っただろ?」

「――! 良かった……良かったのじゃ! イーターが恐ろしいから記憶を封印すると言いだした時は……わらわと交尾したことを後悔しているのかと……」

 結局心配だったとぶちまけましたね。


 しかし……概ねリオの言う通りである!

 あの時の俺のバカ! クズ! やったことにしっかり責任持てよ!


「主様よ、弱気になってしまって……すまぬのじゃ」

 こんなにも……こんなにもいじらしくて健気な子なんだぞ……!


「リオ……愛してるよ、本当に。守ってくれてありがとな」

「主様……!」




 ところで……そろそろ服着ていい?

 俺の股間の最強ドラゴンも寒くて縮こまってるし。

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