第185話 大敵

「プリンに聞いたのだが……何ぞ巨大な次元門が最近2度程開いたとな」




 先日のプリンちゃんの件から数日。

 プリンちゃんがゴルディックの世界への行き先を覚えていたようで、晴れておさらばとなった訳だったのだが……また来やがった。


「知るか、帰れ」

「その時にアレク殿と出会ったと言っておっての。調べるのを手伝ってくれぬか?」

 何だよ何だよ! めんどくさい!


「……報酬は?」

「……仕方がない。私のとっておきのお気に入り……婆さんの手作り佃煮でどうだ?」

 ……どっかの王様のように、婆さんそのものを差し出さなかっただけ良しとしよう。


 いや良くないわ。佃煮て。


 ◆◇◆◇


「ここか……確かに大きな次元の歪が感じられるな。しかも2つ」

「あぁ、これは……開けっ!」

 次元門のあった場所に残る残滓を辿り、再び開く。


「……何だ?」

「何でも?」

 ひょっこり顔を覗かせたのはもちろんドゴーグ。


「お主は……前も会った神か。ならばこちらの方は……?」

 そう言ってもう1つの次元門があった場所を示すゴルディック。


「……さぁ?」

 何だか……決して触れてはいけないような気がしないこともない。

 知らんけど。


「……あまり行き先が曖昧な門を開くでないぞ? 厄介な敵を招き寄せることになりかねんからな。この次元門ももう触るでないぞ!」

「りょ」

 以前から敵敵敵って、天下の創造神様が何にビビってるのよ。


 しかし、超巨大な次元門どこに通じてるかは不明。

 てか、開いたの俺じゃないし! 俺の魔素は感じるけど……記憶にございませんし!


「本当だぞ? 絶対に触るなよ?」

 ちょっ! そんな風に言われちゃったら……!


「ちょっとだけ……先っちょだけだから……!」

 今なら創造神やドゴーグもいるし! 何が出ても大丈夫!

 あわよくば綺麗な女の子の入浴シーンだなんてことも……!


「ちょっ! やめるのだ! 絶対本当にヤバいよヤバいよ!」

「ちょっ! 押すなって!」

 ぺりっとな!


 ゴルディックの振りに応え、ちょびっとだけ門を開いてみる。

 まるで雑誌の袋とじを開けてみるようなドキドキ感!


 しかし、そのドキドキワクワクムラムラ感とは裏腹に、チラッと見えてしまったものは……!




「■■■■!?」

「……きゃぁ~……」


 裸……というか、服という概念があるのかどうか……。

 ともかく……謎の真っ黒い人型の、目だけ異様に金色に輝くナニカが、まるでゴキブリの群れのように眼下に広がっている光景が見えた。


「とうした!? 綺麗なおなごが入浴でも――いかん!!!」


 俺と同じように次元門を覗き込んだスケベ爺がその光景を見て慌てた声を上げる!


「こっちに来るぞ! 急いで門を閉じよ!」

「やってる! ってやば!」

 奴らの中でもひと際大きい……10メートルはありそうな黒い人型が凄まじい速さで門に張り付いてきた!


「ちょっ! ヤバいヤバいヤバい!」

 今度はマジでヤバイ!


「イーターめ! 仕方がない! そいつだけ通すのだ! さもなければ他の奴も来るぞ!」

「くっ!」

 イーター!? 碌な響きじゃない!

 奥を見るとゴキブリの様に見えてた奴らが続々と! キモッ!


「私と門の制御を代われ! お主はそいつを! 全力で! 殺す気でいくのだ!」

 何されても怒らなかったゴルディックでさえ殺せと言うこいつ。


「■■■■……!?」

 声なのか音なのか……それすら判別不能……とにかく感じるのは嫌な気配。

 魂が叫ぶ、こいつを殺せ。さもなければ――。


「……逃げたいんですけど」

「頼むから! 本当に! 後で佃煮あげるから! さもなければ……さもなければ!」

 いや、佃煮はそんなにいらないんですけど……。


「さもなければ……?」

「……食われて消滅する。この世界も! 私も! 故にゴッドイーター! 我らの大敵にして天敵だ……」

 まじか……神すら消滅させるほどとは……。

 ていうか、ドゴーグのやつ静かだと思ったらとっくに逃げ出してるんですけど!


「■■■■! ■■■!」

「お前何なんだよってあぶなっ!?」

 奴の……大型イーターの指先から氷の槍が飛んでくる!


「あっぶねっ! ってちょっと待って!」

 初撃は難なく防いだものの、次々と魔法を展開するイーター。

 体感上級程度の魔法だが、その数……100近く展開してやがる!


「■■■■!!!」

「くっ! シュバルツ・エンデ!」

 心なしかニヤついている真っ黒なそいつから放たれた魔法をどうにか盾で防ぐが……。


「おいおいおい! 聞いてないって!」

「■■■■! ■■■■!」

 放つそばから次々と氷の槍を補充するイーター。


 こいつ……強いっ!

 次元門の先にはこんなやつがまだまだいそうだったんですけどぉ!


「こうなったら……『エレメントボール・闇』!」

 外的魔素を用いてイーターのすぐそばに闇属性の魔力塊を創り出す。


 闇の魔法、すなわち重力! これで少しでも奴の魔法を引きつけられれば……!

 試したことないからわからんけど!


「■■!?」

 目論見は上手く行ったようで相当数の氷の槍がエレメントボールに引き付けられる!


「隙ありだ! くらえ! ヴァイスアンファ!」

「――!!!」

 急接近し、白銀の剣でイーターを両断。


「■■……」

 表情が全く分からないが、イーターは最期にこちらを向きながら消滅していった。


「ふぅ……どうにかなったな」

 絶え間なく放たれた上級魔法。

 なかなかの強敵だったが、所詮俺の敵ではなかったな! はーっはっは!


「よしっ! よくやったぞアレク殿!」

「おう!」

 ゴルディックの歓喜の声にそちらを向くと……。




 次元門そっちのけで万歳している糞まぬけ創造神が目に映ったのだった。

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