第184話 ゴルディックとデート③

「キュ~ン」


 あの後、何だかんだでゴルディックの眷属が判明した。

 そう、もわもわプリンちゃんことボルケーノスライムである。

 言われてみれば、世界を守護ってるとか言ってたような言ってなかったような……。




 という訳で我が家でゆったり過ごしていた彼女と引き合わせたのだが……。


「……まさか、プリンよ……お主がこのような姿を晒すとは……」

 こっちがまさかだよ! まさかの本名プリンちゃん!


 そのプリンちゃんはゴルディックを見つけるや否や、まるでクネクネが俺にするようにゴルディックの顔に飛びつきスリスリしている。


「……長い……長い時を……本当に……うぅ……」

 久しぶりの再開……という理由で泣いている訳じゃなさそうなゴルディック。


「お爺ちゃん、どうしたんですの?」

「さぁ……年じゃない?」

 知らんけど。


「……プリンはな、実に理知的な奴で……こう甘えるような奴ではなかったのだ。恐らく……長い時を過ごす中で……」

「理性を失ってしまった、という事か」


 何千年もの間、主が眠る世界を守るために外敵と戦い続け……。

 そして残ったのは……この世界を守ると言う意志とゴルディックへの親愛の念だけ。

 泣かせるじゃないの。


「キュィ~……キュィ~……」

「おぉ……プリンや……すまなかった……本当に、ありがとう……」

 ……毎度毎度滝のように……。


 いい加減鬱陶しいわ! 爺の涙なんて誰得よ!

 知らんのか! 爺や婆を悲しませる国は滅びるんだぞ!


「『ィユニス召喚』! この爺とスライムをどうにかして黙らせてくれ!」

 という訳で慈悲とかを司る女神、ィユニスを召喚する。


「……ちょっと! 喚ぶの早くない!? ……約束が達成できたってこと!?」

 ほんの少し顔を赤らめたィユニスが顕現する。

 約束……とあることをィユニスと約束しているのだが、残念ながら今回はそれとは違う。


「すまない、それはまだなんだ。今回は――」

 そういってスライムを指す。ついでにお爺ちゃんのボケも治せるかしら?


「んん? この神様の眷属のスライムちゃんのこと……? さすがにスライムの治療はしたことはないんだけど……」

「そうは思ったけどさ、ィユニスしか頼めそうな知り合いがいなくって」

 俺にはお前しかいないんだ! 的な。


「そ、そう!? ふ~ん! わ、私しかいないんだ……べ、別に嬉しくなんかないけど……! けど……目の前の患者を放っては置けないから! 仕方なく! 仕方なくなんだからっ!」

 よし、チョロい。

 いや、本気で頼ってはいるし好きですけど。


「ところで……スライムちゃんはどこか悪いの? 見たところ外傷はないようだけど?」

「うむ、実は……失われた記憶というか理性というか……その辺を戻せないかと」

「それは……人間の記憶は脳の一部にあるエングラム細胞に貯蔵されているし、そこを刺激すれば何とかなるかもしれないけどスライムちゃんのそれに当たる細胞がどこかわからないと難しいわね」

 めっちゃ早口になった。


「それならば……何かしらの記憶を刺激してあげればわかりますか?」

 静かに様子を見ていたメイちゃんが母親から貰った人形を片手に聞いてくる。

 そうか、その人形は――!


「きっと……理性すら失っても忘れることのなかったゴルディックさんのこと。そこにあるのは幸せな記憶なのではないでしょうか」

 言いながら人形に込められた魔法を発動する!


 周囲を……幸せにする魔法! 幸せな記憶を呼び戻す魔法!

 その効果は神にすら及ぶ!


 即ち――!




「……ぁぁ……遂に、遂に私にも春が来るのね! 仕事ばっかりでいい出会いも全くなかった私に! アレク! 照れくさくて変な条件付けちゃったけど……早く迎えに来て!」

「「「……」」」


 あ~……言っちゃったよ……ィユニスぅ~……。

 メイちゃんの目が怖いんだけど……幸せを呼ぶお人形の首が締まってるんだけど……。


 そう、実は先日ィユニスに求婚したのだ! そしたら『ふん! 私と結婚したかったら最低でも1万人……いや可哀そうだから1000人……間抜けそうなあんたじゃそれも無理ね! 100の人の命を救ったら考えてあげなくもないわ! ……これでも多いかしら?』だなんて可愛い顔して言って来てね……。


「キュィ~! キュッキュッキュ!」

 しかし今はそれどころじゃない。さぁィユニス! プリンちゃんを……ってィユニスがこんなんじゃ……。


「もぅ! ですわ!」

「ぐぇっ!?」

 そしていつしかのようにィユニスの胸に腕を突っ込むエリー。

 彼女の才能を知った今でも、訳が分からん。


「えーい! ですの!」

 そしてィユニスから優しい光がプリンちゃんに放たれる。


「だ、大丈夫なのか……!?」

「大丈夫、エリーを信じよ」

 さすれば救われん。


「キュッ!? きゅぃ~……う……」

「プリン!? プリン! わかるか! 私だ、ゴルディックだ!」

 プリンちゃんがゴルディックの腕の中でぷるぷると蠢き出す!




 やがて――。


「……こ、これは……はっ!?」

「ぐおっ!」

 突然ゴルディックを突き飛ばすプリンちゃん。


「……気安く触るな!」

「……プリン! プリンや! うぉぉぉ~ん!」

 冷たくされているにも関わらずプリンちゃんを抱きしめるゴルディック。


「ちょっ! やめろ! そんな……お前ケガはもういいのか!?」

「私のケガなんかどうだって……! プリン! プリンや! 今までありがとう! うぉぉぉ~ん!!!」


 ……だから、爺の涙なんか見たってしょうがないっての!

 まぁ……悲しい涙よりはマシだけども。

 何はともあれ……まぁ、良かったね。




「素直じゃない坊ちゃま、素直にお話して頂けますよね? ィユニスさんとのこと」

「……はぃ」

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