第179話 戦いの果て
迫りくる魔族の群れをばったばったと薙ぎ飛ばし、この場で立っている魔族はゼアのみとなった。
残りは俺に殴られて地に伏せた奴らと……座って談笑しながら戦いの様子を見ているゼアの側近や魔族の女性たち。
……それで本当にいいのか? いや……別にいいんだけど。
「ゼアよ。そう言えば、お前にはとてつもなくでかい借りがあったな。俺の嫁を殺されかけたってでかい借りがなぁっ!」
「……あの獣人のことか。その節は――」
「うるせぇっ! 本気でこいやぁっ! じゃないと……ぶっ殺しちまうぞぉっ!」
ひゃっはーっ!
「――参るっ!」
ゼアの右ストレートが俺の左頬を打つ。
「ふざけてんのか? 全然効かねぇぞ!」
「ぐぅっ!」
お返しに俺もゼアを殴る。他の奴らとは違って吹っ飛びはしなかったが、口から血が滴っている。
「言っただろうが! 本気でこいっ! 泣き虫のゼアちゃんよぉっ!」
「舐、めるなよっ! 糞がっ!」
先程よりも力が籠っているが、それでも全然足りない!
「その程度でこの世界の支配を目論むとは……間抜けが!」
「ぐはっ!?」
「全然! 足りない! お前如きがこの世界相手に勝てる訳がない!」
「くっ! うるさいっ! うるさいうるさいうるさい!!!」
両者ノーガードでお互いの顔面を殴り合う。ゼアもいよいよ本気を出してきたようで……結構痛いっす。
「自分の力を勘違いした間抜けめ! ただの人間に無様に負けやがれっ!」
「我はっ! 負けるわけにはいかぬっ! 同胞のために! 我が……! 我は誰よりも強く……!」
「残念だったな! お前は弱い! お前が弱いせいでお前は負ける!」
「ぐうぅぅっ!? ……諦めて……諦めてたまるかっ!」
ゼアが後ろに飛び、力を溜める。
「……我の力、魔力! 全てこの拳に込める!!!」
そんなに魔力を込めて大丈夫? ゼア……それと……俺。
正直まともに受けたら死んじゃいそうなんだけど……。
「ふん。見せてみろ、お前の……魔族の意地を!」
なんだけど……今更やめてって言い辛いっす……。
なので俺も拳に魔力を込める。
さすがにお顔が潰れちゃうのは勘弁な!
「「うぉぉぉおおお!!!」」
……。
…………。
………………。
「……我が力、届かぬ……か」
「言っただろう、お前は弱い」
そう、ゼアの実力不足。力が足りないせいでお前は負けたし、望みは叶わない。
「……そう、だな。しかし……こんなに清々しい気持ちは……初めてだ」
めちゃくちゃに顔を殴られ、終いには腕もひしゃげて仰向けで倒れている。
負けたくせに笑っているのは……彼が間抜けだからであろう。
「我の努力は……無駄とは言わないが、方向が間違っていた。やり方が間違っていた。もっと最初から……人間を、お前を……!」
影界では強力な魔物がうろついているらしいし、あながちゼアの努力も無駄ではない。というか、そこは必要なところだったと思う。
「先の幻で……昔世話になった人に怒られたよ。『どうしてお話しなかったの』とな。『そんなつもりで名前をあげたんじゃない』とも……」
「……」
名前? ゼアではなくて?
「外に光を求めるのではなく、我自身がみなの光に……希望になれと……そう諭されたよ。だから、我々はこのまま――」
「ゼア殿。1つ、頼みを聞いてくれないか?」
ゴルディックが突然会話に入ってくる。
正直、何て言っていいかわからんかったからありがたい。
「……何か」
「私と協力し、そなたらの世界に光を創って欲しいのだ」
思わぬ言葉に色めき出す魔族達。彼らを見回し、ゴルディックが続きを話す。
「光を……創る?」
「左様。私たち神々は正式に昇神する際、それぞれ司る分野を割り当てられる。そなたほどの力を持っているのならば――」
いつだったか、ドゴーグに聞いたことがあるな。正式に神になる定義。
ゼアほど魔素の扱いに長けていればそれも可能、なのかもね。
「そんなことが……我に、可能……なのか?」
半信半疑のゼア。しかし――。
「できます! 長い間光を求め続けて! 私たちを導いてくれてたゼア様なら!」
ロべニスが――。
「そうです! ゼア様なら! 必ずや!」
リィジーンが――。
「おで……ゼア様の方が……いい」
フェインドが――。
涙を流しながら口々に言う。
「どうだ、ゼア殿。もちろん、私ができる限りの補助をする。だから……やってはくれぬか?」
「……お願い、します」
ゼアも泣いていた。
「……はっ!? それで! 魔神を喚び出して迷惑かけた上に図々しくも世界の創造を頼んだ挙句、自ら光のない世界に移住した魔族のご先祖様たちはどうなったんですの!?」
言った! 言っちゃった! 誰もが思ってたけど言わなかったこと! しかもこのタイミングで!?
ロべニスもリィジーンも目を逸らしてるしフェインドはおどおどしてる!
ゼアに至っては再び血を吐いて倒れた!
「ふふ、エリー様はいつも物事の確信を無遠慮に突かれますね」
メイちゃんや、それ誉めてるの……?
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