第178話 せめて一花

「では……どうにかこうにか魔神を封印し、種族間の戦争も終結したのだが」

 ゴルディック本人から語られる当時の事。


 とは言え、俺としてはあんまり……だって魔族のことだし!

 長くなりそうな話にエリーを見る。まだ起きているようだ。凄い!


「それぞれの種族が全滅したと言っても過言ではない程の被害を受けてしまった」

 そりゃあ、あんな魔神が暴れたらそうなりそうだよね。


「このままでは憎しみも消えない、と魔族の代表から相談されての。そこで彼らと話し合った結果、別の世界を創って移住することになったのだよ」

「なっ、そんなばかな……!」

 おっと。早速トージョーから聞いた話とは違って来たぞ!

 ゼアも驚きを隠せないようだ。


「そこで私は速やかにこの世界と表裏となるように、こちらの世界に似た世界を創ろうとしたのだが……最後に光を創る段階で力尽きてしまったのだ」

 あー、グロウサムンドに食べられるとめんどくさいことになるって誰かが言ってたもんなぁ~。

 その傷が癒えないまま世界を創ろうとして、力が不足してしまったのか。


「当時の魔族は、それでも構わないと次元門を潜って行った。ただ、お互いを忘れぬように、いつしか種族間の恨みを忘れて共に暮らせるように一定周期で次元門が開くようにはしてあったが……」

「……」

 ゼアも、それ以外の魔族も……思っていたこととは異なる事実に愕然としている。

 だって……ねぇ?


 とりあえず、ゴルディックの怒りを買ってる訳でもないようだ。

 それどころか、定期的にこちら側に戻って来られるように手配していたとは……例の日食の時に開く次元門がそう言うことなのだろう。




「以上が……あの時にあったことだ。光の恩恵が受けられないまま……辛い思いをしてきたと見受けられる。本当に申し訳ない」

 そう言って再び地面を揺らす作業に入る『ゴ』。


 やめろよ! エリーが起きちゃうだろ! いつ寝たか見逃しちゃったけど!

 すぴすぴしてて可愛い。ほっぺたもぷにぷにだ。


「……1つ、確認させて欲しい。我々魔族は……魔神を喚び出したことで貴方の恨みを買い、この世界を追放されたと聞いていたのだが……そうではない、のか?」

 ゼアが苦虫を噛み潰したような顔で核心を聞く。


「確かに、魔神によって多大な被害が生じたが……だからと言って追放などせぬよ。するはずが無い」

「――っ! 嘘だ! そんな訳ない! 貴方に都合の良いことを言ってるだけでしょう!? そうじゃなきゃ……そうじゃなきゃ……! うぅっ!」

 ロべニスが思わずと言った様子で口を挟む。


 それもそうだろう。

 そうじゃなきゃ……魔族がしてきた苦労は一体何だったというのだろうか。


「よせ、ロべニス」

「ゼア様っ! だって……だってぇっ! ぐすっ……えぐっ……」

 ゴルディックに食って掛かろうとするロべニスをゼアが制止する。


「彼が嘘を言っているようには見えないし、嘘を付く理由もない。今聞いたのが……事実なのだろう……」

 しかし、ゼアのその手も震えていた。

 爆発しそうな、だけどぶつけようのない怒りを……やるせなさを堪える様に。


「……すまぬ。不甲斐ない父を許してくれ……我が愛しき子らよ」

「――っ! うぐえぇぇぇ~ん!」

 ……創造主からしたら、自身の作り出したものは子も同然……つまり、魔族もそうだったってことか。


 やるせないな。




「よぉよぉ! ゴルディックは怒ってないどころかいつでも戻って来て良いって言ってたじゃん! それなのに『世界を支配する』とかふざけんなよ!」

「……すまなかった」

 目を伏せ、謝ってくるゼア。


「謝って済む話じゃねぇだろう! 俺の苦労と怒りはどうしてくれんだよぉっ!」

「それは……」

 全くよぉっ! こっちは必死に異界からの魔物を倒すために準備してきたってのに!


「……殴らせろ」

「……っ」

「恥ずかしい勘違いしやがって! この間抜けが! こんな王様に従ってるとあっちゃ、他の奴らも程度が知れるなぁ!」

 ゼアたちの背後にいる魔族の有象無象を見やる。


「なっ、何を……!」

「てめぇ! ふざけんじゃねぇっ! ゼア様は……ゼア様はなぁっ!」

「俺たちのために頑張ってくれてたゼア様を馬鹿にするんじゃねぇ!」

 いいぞ、いい感じだ!


「吠えるだけか! 雑魚共がっ! こっちはお前らのせいでむしゃくしゃしてんだ! 文句あるんだったら……」

 ゼアに向かって中指を立てる。こっちの世界……いや、影界でもこの動作は有効なようで……!


「――っ! 貴様ァっ!!!」

「てめぇらっ! 全員! かかってこいやぁっ!!!」

 間抜け共に目に物見せてやんよ!


「くらえ! 我が主君のために鍛え上げたこの拳っ!」

「何だその拳は! 全く効かんぞ!」

 筋骨隆々の魔族Aさんが殴って来たので殴り返す。

 メイちゃんとは違い、俺の拳は吹っ飛ばすに長けているのだ!


「奴は我々の中でも最弱! くらえっ!」

「嘘だろ!? 筋肉に関しては俺よりも上だったぞ!」

 やはり魔族Bさんも大差なかったなかった。Aさんと同じように吹っ飛んでいく。


「ほらほらどうした! そんなんじゃ俺に傷1つ付けられないぞ!」

「ぬかせっ! 我こそロべニス様親衛隊切り込み隊長――!」

 そこはゼアであれよ! まぁ、結果は変わらないのだけど!


「切り込み隊長ーっ!? おのれっ! ロべニス様! 我に力をーっ!」

「だから!」

 そこはゼアであれよ!


「応援団長ーっ!? ゼア様っ! 俺に……」

 お、遂にゼアを求める声が!

「ロべニス様を愛する同志である俺に力をくださいぎゃっ!?」

「そこはゼアであれよ!」

 やべっ、殴られる前に殴っちゃった。


 しかししょうがない。ゼアもしょうがないと言う顔をしている。いや、若干恥ずかしそうだ。


「はーっはっははっ! 貧弱貧弱ゥッ! お前らの力はこの程度か!? もっと本気でかかって来いよっ!」


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