第177話 ゴルディック
『全て終わった』。
そう呟いたゼア。
確かに……転生後の俺の大きな目標だった魔神討伐。
大きな損害もなく、案外呆気なくこれで終わった訳だ。魔族は何人か死んじゃったけども。
しかし……。
「いやいやいや、まだ終わっていないだろう?」
俺の方はね!
けどお前らは別に魔神を討伐したかった訳じゃないでしょうが!
「致命的な不始末の対処をして貰った上、仲間も救われた。どう考えても我々の負けだ。大人しく影界に戻ることにする」
どこか諦観したような表情のゼア。
潔いと言うべきか……『おうまさん』と戦ってくれた時もそうだったが、根は真面目というか正直な奴なんだろう。
しかし、本来の目的を忘れてるんじゃありませんか?
「そもそもお前が、『こっちの世界を支配してやる』とか言いださなきゃ戦うこともなかっただろう?」
「いやそれは……しかし、我々は……!」
めんどくさっ!
「つべこべ言うな! 『ゴルディック召喚』!」
「……は?」
こいつらが気にしているのはゴルディックに認められるかどうか。
であれば、喚んで聞いたらいいじゃない!
そんな訳で、この世界の創造神であるゴルディックを召喚してみる。
何か重い物を引っ張ってくるようなそんな手応えを感じる。
ィユニスやぽわぽわ女神は世界を超えるのに魔力を多く消費するが、こいつは存在自体が重い、そんな感じ!
「んぐぐぐぐ……うぉりゃーっ!」
まるで重くて大きい荷物を無理矢理引っ張ってくるような感触。
「うぐぐぐぐぅ……ぁ、出た」
1週間程溜まりに溜まった便を排するような解放感に包まれながら、いつもの召喚の光が辺りを照らした。
その光が晴れ、現れたのは……。
「……」
3メートルはありそうな筋肉質でヒゲがもっさりと生えたお爺さん。
無事召喚できたはできたハズなのだが……寝てる? も、もしかして死んでる?
「サンダガ!」
とりあえず意識の無い人には電気ショック安定!
「ぬぐぁっ! 何だ!? 敵か!?」
「わぁ! 起きたですの!」
しまった、エリーの教育に悪いことをしてしまったのでは……?
「ここは……お主、その手に持っているものは魔神封印の宝石か?」
俺の手にあるクリスタルを見ながら尋ねてくるゴルディック。
「そうだ。魔神と戦って……その後奴は消えたよ」
「消えた? ……確かに、宝石にも……この世界のどこにもやつの気配は感じないが……」
何となく……本当に何となく、グロウサムンドはもういなくなってしまったんじゃないかって気はしていたのだが……。
どうやら、気のせいではなかったようだ。
不滅と言われている神々も、消滅することはあるんだなぁ~……。
「……あの子は、とても幸せそうに行ってしまいましたわ」
「そう、か……」
ゴルディックが感慨深げに空を、遠くを見つめる。
「奴は『飢え』と『渇き』を司る神だった。恐らく……お主らとの戦いで満たされたことで、自ら消滅を望んだのであろう」
「……」
何だか愛着が沸きかけていただけに残念だ。
「私たちが生きている限り、ウサムンちゃんも生き続けますわ!」
「む? そうか。そこまで思って貰えてるのなら、奴も報われるだろう」
いや別にそこまででは……。
まぁ、エリーは直接会話みたいなこともしてたからな。思い入れが違うのだろう。
「して、何用で私を呼んだのだ? 大昔に魔神にやられた傷を治すために静養していたのだが!」
ゴルディックが努めて明るく話題を変える。
「そうだったそうだった。おい爺! 俺らは今! てめぇがしでかした不始末のせいで困ってんだよ!」
「……何ぃ?」
その言葉と同時、彼の纏う雰囲気が重たいものになる。
「それはすまなかった! 一体何をしてしまったのだろうか! 重ねて申し訳ないが、説明してくれないだろうか!?」
「……」
思ってたのと違うんだが。いやいやいや!
「あんたが追放した魔族! こいつらの住む世界に光がないせいで困った挙句! こっちの世界を支配しようとバカなことしようとしてんの!」
「……」
「……何ぃ?」
再び重苦しい空気を醸し出すゴルディック。
ゼアたちが気まずそうに眼を逸らしているのも見える。
「申し訳ない! 申し訳ない!」
ゼアたちの方に向き直り、急に土下座しだしたゴルディック。
思ってたのと違うんだが。
「本当に申し訳ない! 我の力が足りなかったばかりに……!」
「……え? ……えぇ?」
固まって何も言えないゼアの代わりに、何とか言葉を紡ぐロべニス。紡げてないけど。
何度も何度も額を強く地面に打ち付けるゴルディック。
力が足りないと言いつつ、めちゃくちゃ地面が揺れてるのだが。
「う、うむ……まぁ、うむ」
ゴルディックのその様子にたじたじになってしまうゼア。
ダメだぞ勢いで誤魔化されちゃ! 土下座してる頭を踏みつけるくらいしないと!
あ、ゼア君は強がってるだけだからそんなことできないよねぇ~!
「そんなことしても失った時間は戻らねぇんだよ! 説明しろよ! 説明をよぉっ!」
しょうがないから、本当にしょうがなく爺に助け舟を出してやる。
恫喝してるんじゃないよ?
「わかり! ました!」
額から大量の血を流し、その目からは滝のような涙が零れてる爺。
「実はな……各種族の間で、今にして思えば些細なことがきっかけで――」
「あ、お話は魔神との戦い後のとこからで大丈夫です」
戦争のことは何となくわかるし、爺の武勇伝は別に興味ないので!
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