第176話 グロウサムンド

「……ぐぎゅるる~♪」

 しばらく魔力を食べていたグロウサムンドだが、一声鳴いた後食事を止めてしまった。


「……そう。お腹いっぱいですのね」

「そっか。また食いたくなったら言うんだぞ」

 ウサムンを抱き上げ、撫でる。


「……ぎゅるぅ~」

「……えぇ、おやすみなさい。ウサムンちゃん」

 エリーが優しく頭を撫でる。


「……るる~……ぎゅるる~……」

 ウサムンは俺に身体をあずけ、ゆっくり眠るように――。


「――え!?」

 突然ウサムンが淡く光り出し、光の粒子になっていく!


「なっ!? どうしたんだ!?」

「ぎゅるる……ぎゅるるん!」

 今まさに消えていこうとしているにも拘わらず、ウサムンからは聞こえるのは嬉しそうな鳴き声。


「優しいご飯、幸せ……ありがとう、と言ってますわ」

「そんなっ! これから一緒に――!」

 今まで散々封印されてきたんだから! これから一緒に過ごそうと思って――っ!


「ぎゅるる……」

 しかしウサムンの身体の消失は止まらない。


 もう決めたことなのか……。

 それがウサムンの選択ならば……。


「……またな、ウサムン」

「……ウサムンちゃん、いつかまた……お会いしましょうね」

 せめて、次の人生が満ち足りたものでありますように、温もりが伝わりますように。

 そう思いながら抱きしめる。


「ぎゅるるん♪」

 最期に、ひと際元気に声を上げ、ウサムンは天へと昇って行った。


「……アレク、これ……」

「うん」

 ウサムンを抱いていた腕には、いつの間にかクリスタルが収まっていた。

 まるで……役目は終えたとでも言うように、輝きを失っている。


「神は不滅の存在……という訳ではないんだな……」

 クリスタルに封じられた訳でもない、ドゴーグの時のように復活する気配もない。

 ウサムンの魔素は、気配は全く感じられない。




「そう、ですわね。ですが、私たちが生きている限り、ウサムンちゃんも生き続けますわ!」

 ……いや、別にそこまでではないけども。




 ◆◇◆◇




「……見苦しいところを見せたようだ」

 メイちゃんの魔法も解け、子どものように泣きじゃくっていたゼアが復活した。


「おう、非常に情けないかつダサかったぞ!」

「姉さん姉さんうるさかったですわね!」

「坊ちゃま以外の情けない男性とは、こうも嫌悪感を誘うものなのですね」

 うむ、エリーもメイちゃんも容赦ないな!


「くっ!」

 今更偉そうに格好つけたところで……ぷぷっ!


「……のう、主様や。わらわ……一体……?」

「……」

 まぁ、リオの痴態をゼアに見られなかっただけよしとしよう。


「おーい! アレクー!」

 フェインドたちが向かった先、そちらの方から慌ただしそうな、そして気の強そうな瞳をした女性が駆けてくる。


「終わったのね! 無事でよかったわ!」

「ィユニス! ありがとな、助かったよ!」

 あらかじめ呼んでいたィユニス。ツンツンしてるようで甘さ120%濃縮女神。結婚したい。


「ア、レクざん! おで! おで!」

 俺に四肢を切り落とされたフェインドが、額を地に何度も何度も擦り付ける。もちろん、ィユニスによって治療済みである。

 ていうか、その喋り方は操られていたからじゃないんだね。


「……アレクさん、ィユニス様から聞きました。速やかに『支配』の脅威から我々を救うためにあのような手段をとったこと、そして事前にィユニス様を召喚なさっていたことを。先ほどは申し訳ありませんでした」

 ロべニスが申し訳なさそうに謝ってくる。


「いやいや……フェインド君も無事に治ったみたいで良かったよ」

「アレクざん! ありがどうだど!」

 四肢を切られた相手によくお礼を言えるね! だから別に感謝されるようなことでもないよ。




「……これで、全て終わったな」

 ゼアが遠くを見つめながら、何かを確かめるように呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る