第180話 新たなる光

「マジで暗いな」


 ゼアたちの住んでいる世界、通称影界へと足を踏み入れる。

 こちらのメンバーはエリーにメイちゃん、そしてィユニス。


 太陽のようなものは存在せず、にも拘らずよくわからん薄暗い明かりが辺りを照らすしており、真っ暗という訳ではない。

 真っ暗ではないのだが……逆に不安感を煽るような感じの雰囲気。


 どうやらここは草原のようだ。

 だだっぴろい空間がしばらく続いている。


 周りには独特な進化を遂げた草や木が生えている。

 それらが影界の長い不遇の時を物語っていた。




「ここは……何だか気分が悪くなる場所ですわね!」

「その通りだけど容赦ないね!」

 さすがエリー!


 しかし何だろうね、この不気味な光は。

 詳細不明、出所不明。太陽もないのに辺りを包む光。


 そら、こんなところいたら肌も青くなるわ。


「お嬢さん、まさに今それが変わるのだよ」

 ゴルディックが言うように、これからゼアが神になってこの世界に光をもたらす。


 うむ、まさに神話のような話だな!

 何だかワクワクしてきたぞ!


 という訳で、何となく知り合いの神様を呼びつける。


「……ここは? 珍しく召喚されたかと思えば……」

「ダァくん! ありがとね!」

「……他所の世界の神を3柱も喚び出すなんて……常識外れもいいところね」

 ドゴーグ、ポワン、そして最初からいたィユニス。

 ポワンは様子を見ていたかのようで、驚きはない。



「……最初から我に勝ち目などなかったか」

「さすがの私も引いてるぞ!」

 別に戦わせるつもりなんかないんだからさ……。


「実はさ、これから彼が神様になるみたいだよ!」

「ほう……? 確かに、誰かさんとは違って覚悟がある目をしている。見守ってやろうではないか」

 ドゴーグめ……最近調子乗ってんな! 誰かさんって誰だよ!


「そうなの~? 歓迎するわ~♪」

「う、うむ。何卒よろしくご鞭撻のほど」

 新入社員か!


 とりあえず、こっちのぽわぽわしてる女神にはおやつでも与えておけば懐くよ。

 それとこっちの筋肉には魂を上げたら喜ぶよ!


「ゴルディックさんも良かったねぇ~! 魔神のこと解決して~!」

「うむ……しかし、奴には奴の事情があったからな……」

 あら、お優しいこと。


 随分と迷惑を被ったぽいゴルディックだが、その目にあるのは悲しみ。

 やはりこいつ、とんだお人好しのようだ。


「ささ、俺が喚んでおいてなんだけどさ……」

 そろそろ本題に入ろうじゃないか。


「そうだな」

 ゴルディックがゼアに向き合う。




「さぁゼア殿よ、強く誓うのだ! 自身の能力を以って世界に安寧をもたらすことを! 生命の繁栄に永遠に尽力していくことを!」

 ドゴーグの説明がいかに適当だったかがわかるな!


「……うむ」

 ゼアが目を閉じ、深く息を吸い、吐き出す。


 そして、再び目を開けて――。


「我は……我は望む! この世界に光をもたらし、民たちに豊かな恵みを! 心の安寧を! そして……輝かしい未来を!」

 その瞬間! ゼアを温かい魔素が包む!


「……いつ見ても、誇り高い決意は美しい」

「うむ! 歓迎しよう! 新たなる同胞よ!」

 ゴルディックとドゴーグの言葉に呼応するように……魔素が、生命が、そして世界が。まるでゼアの想いを祝福するかのように輝き出す。




 そして――!


 包んでいた魔素が全てゼアに取り込まれた。

 ゼアの存在が数段高みに昇ったのを何となく感じる。


「これが……神になると言う事、か……今ならば……」

 ひと粒の涙を流し、自らの手を見つめるゼア。


「ぐすっ……!」

「うぅ……ゼア、さま……」

「今こそ……今こそ……!」

 側近の3人が涙を溢れさせ、彼らの神に願う。


「あぁ……」

 ゼアが神になって最初に行うこと。

 事情をよく知らない俺でも、万感の思いが籠っているのがわかる。


 それがついに……。




「光よ、在れ」


 その瞬間、ゼアから激しい光が――!




 ◆◇◆◇




 温かな、しかし突然の眩しい光に目を薄く閉じる。


 手を光にかざす。血管が走っているのが見える。


 横を見ると、風が緑に茂る木々を揺らしており、その中を小鳥が飛んでいた。


「……」

 この世界の住人であるゼアとロべニスたちは……。


「……」

 ただお互いを見つめ合い、涙を流していた。


 彼らから目を離し、頭上を見る。

 そこには煌々と輝く太陽があった。


「眩しいな」

 強い光を見てしまい、その言葉が無意識に出てしまった。




「うおおおぁぁああああ!!!」

 ゼアが歓喜に震えながら、雄たけびを上げる。

 ゼアだけではない、後ろに控えていた多くの魔族が異口同音に歓びを表していた。


「うぅ……ぐすっ……」

「やった……遂に……!」

「ビライト姉ざん……!」


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