第172話 仲間

「さぁ、やれ魔神! 目覚めのご飯だよ!」


 トージョーの指示に従ってか、魔神から無数の触手が生え、魔族に向かって殺到しだす!


「舐めるなぁっ! ロベニスたちはトージョーを! 他の者は急いで撤退しろ!」

「承知!」

 配下の魔族達に指示を飛ばし、自身は魔神へと対峙するゼア。


「魔神よ! 悪いが我が同胞を傷つけさせるわけにはいかないっ! 『ダークブレイズ』!」

 ゼアが黒い炎で触手を焼き尽くそうと試みる。


 極級クラスの魔力を感じる! しかも無詠唱!

 やはり『おうまさん』達と戦った時は本気ではなかったようだ。いや、余力を残しておきたかったのか?


「くっ!?」

「うわーっ!? 助けてーっ!」

 大部分を消滅させたものの全てを焼き尽くすことができず、何人かの魔族がその触手に捕らえられてしまう。


「同胞を放せっ! 『シャドウスラッシュ』!」

 影のような風の刃で魔族を救出するゼア。


「ゼア様! すみません!」

「よい! 行け!」

 どうにか救出できたものの、触手は次から次へと生えてくる。

 これでは全員が逃げ切るまではかかりきりになってしまいそうだ。




 一方、トージョー達の方は――。


「急いでトージョーを倒してゼア様の手助けに行くわよ!」

「甘いよ、君たち雑魚3匹なんて僕の敵じゃない! 『支配』!」

 魔神を支配下に置いたトージョーの魔法がゼアの側近3人を襲う!


「ぐぅぅっ! ――気を強く持て! 我らの主はゼア様のみ!」

「ゼア様ぁっ! お力を!」


 何とかレジストに成功したかに見えた側近達だが――!


「――う……ぐぁぁぁっ!!!」

 ひと際体がでかい側近の1人が支配下に置かれたようだ。


「うぼぁぁっ!」

「きゃぁっ!?」

 支配下に置かれた魔族が残り2人に襲い掛かる!


「フェインド! しっかりしろ!」

「うぐぅがぁあああ!!!」

 支配下の魔族、フェインドは尚も襲い掛かる。


「フェインド! そんな魔法に操られないで!」

「無駄だよ! 僕の魔法は神様から貰ったチートだからね!」

 攻撃され続けるが、仲間だからだろう下手に反撃できない様子の2人。


「ぐっ!?」

「きゃあ!」

 防戦一方の2人。このままではなぶり殺しだ。


「ぐぅぅっ! ゼア……ざまっ!」

 フェインドは……その顔を良く見ると、血涙を流していた。


「やめっ! おでの体っ!」

 攻撃は受けていないにも拘わらず、体のところどころから血が噴き出している。


 きっと……必死に『支配』に抗っているのだろう。


「……ご、ろじで――」

「許さぬぞフェインドっ! 必ず生きて我に仕えよ! リィジーン! ロべニス! 頼むっ!」

 魔神の波状攻撃に対処しながらもゼアが必死に叫ぶ。


「ゼア様とフェインドの気持ちに応えるんだ!」

「フェインド! ごめんね!」

 2人の魔族、リィジーンとロべニスも腹を決めたのかフェインドへと攻撃を開始しようとする。


「僕がいることを忘れてない? 『支配』!」

 再びリィジーンとロべニスに支配魔法を唱えるトージョー。


「ぬぐぅっ!」

「くっ!?」

 2人して体を硬直させてしまった!


「あはっ! 今だよ! やっちゃえーっ!」

「やっ! めっ……やめでぐれぇっ!」

 その隙を突き、フェインドの拳がリィジーンを思いっきり叩きつける!


「がはっ!?」

「うぅ……もぅ、やめっ……ごろじ、でくれぇ……」

 体を震わせ、血の涙を流し……それでもどうにもならない『支配』の拘束。


「しっかりしてフェインド! 私たちが必ずどうにかするから! 諦めるのだけはダメっ!」

「ゼー……ハァー……、そ、うだぞフェインド! こんなの全然痛くねぇから! 気にすんなよ!」

「ロベニズ……リィジーン……」

 フェインドを気遣うリィジーンとロべニス。


 ……魔族、か。




「――ぬうぉぉおおお! 『ダークストーム』!」

 雄叫びを上げ、魔神の巨体ごと触手を巻き上げるゼア。

 どうやら配下も無事逃げ切ったようだ。


「お前らも退けっ! フェインドは我が連れて行く! とにかく生き延びることだけを考えよ!」

 ゼアが3人とトージョーの方を向き、撤退の指示を出す。


「させないよ! 『支配』!」

「効かぬわっ!」

 強大な魔力故か、ゼアは体を止めることなく抵抗しきる。


 しかし――!


「ゼア様っ! 後ろ!」

 意識をトージョーに向け過ぎたか、背後から迫る触手に気付くのが遅れるゼア!


「――!? しまっ!?」

 いよいよ触手がゼアの体を捉えたかに見えたその時――!




「……」

 その時、ロべニスがゼアを突き飛ばした。


「ロべ……ニス……?」


 ゼアを突き飛ばした女魔族、ロべニス。

 当然、触手は彼女を捉える。


「ゼア様……」

 そして成す術もなく魔神の口へと運ばれていくロべニス。


「ロべニス! ロベニースッ!!!」

 ゼアの慟哭が響く。




「……お慕いしております、ゼア様」

 彼女は最後の言葉を笑顔とともに……そして魔神の口の中へと……。

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