第171話 『支配』

「あいつめっ! 約束を破るとでも言うのかっ!」


 ゼアがめっちゃ怒ってた。

 さもありなん。


「まぁまぁ、ゼアさん。こうして残りのクリスタルも手に入れられたんですから! 僕のおかげで!」

 問題の男、転生者であるトージョーがゼアに話しかける。


「う、うむ。確かにトージョーのおかげで大まかな場所と持っている人間がわかったのには感謝している」

「いえいえ。実は僕のおかげってより、僕を愛してくれてる女神様のおかげなんですけどね!」

 ミクチャあの野郎! 今度会ったら自分のミンチ肉でハンバーグ作らせて食わせてやる!


「ささ、一度僕にクリスタルを見せてくれませんか?」

「う、うむ……」

 どことなく不審な様子を感じてはいるのか、ゼアが歯切れ悪く返事をする。


「さぁ! 僕のおかげで手に入れたクリスタル! 見せてください!」

「……わかった」

 ゼアめ……律儀と言うか何というか……。


 そしてクリスタルを手渡すゼア。


「あぁ! 良かったですねぇ~! あなた方の念願が叶って!」

「……あぁ、そうだな」

 尚も不審に思いながらも、これまでのことがあるのかトージョーに従っている様子のゼア。


「ふふ、これを僕の持つクリスタルと合わせて……」

 トージョーも『空間収納』付の魔道具を持っているのだろう、そこから取り出したクリスタルと今しがた手に入れたクリスタルをぶつける。


「おぉ! 少し大きくなりましたね! そしてさらにさらに!」

「何だ? ――っ! それはっ!」

 トージョーが取り出したのは、さらに大きなクリスタル。

 もしかしなくても、俺が持っていた4人分のそれ。やはりトージョーが持っていたようだ。


「これで完成! はは……あーっはっはっは! こんなに上手く行くなんて!」

「な、何を笑っている!?」

 突然大きな声で笑いだしたトージョー。

 意味わからん。いややっぱりわかるかも。


「さぁ! 出でよ魔神!」

「――っ!」

 トージョーは相変わらず不穏な様子、ではあるが……魔神の復活はゼアの、そして俺の目的ではある。ゼアは利用し、俺は討伐って最終目標ではあるが。

 そのためか、ゼアも黙って見守っている。止める気配はない。


 そしてトージョーがクリスタルを掲げた時。遂に異変が起こった。

 クリスタル周辺の空間が歪み、内包していた魔力が爆発したかのように広がっていく!


「――魔神が出るぞ! 総員備えろ!」

 ゼアが大声で仲間に呼びかける。


「魔神グロウサムンドよ! 顕現し、僕に従え!」

 トージョーが叫んだ瞬間! 激しい衝撃と轟音を伴いながら眩い光が弾ける!




「グシュゥゥゥ~……」


 そこには30メートルはあるであろう、真っ黒な巨大な物体がいた。


 頭部は丸く、口が大きく裂けて広がっている。それ以外、目や鼻のようなものは見当たらない。

 体は円柱のように凹凸がなく、手はなく非常に短い足があるのみ。


 見るだけでも悍ましい気持ちにさせる風貌の魔神が、そこにいた。


「これはこれは……正直気持ち悪いですね!」

 魔神を復活させた張本人であるトージョーが気楽な様子で感想を述べる。


「――っ! 全員離れろ! こいつは……こいつは言うことを聞きそうにもない!」

 魔神を目にし即座に撤退令を出すゼア。魔神には知性がないと言うことは伝わっていなかったのだろうか。

 てかどうやって利用しようとしたのん?


「ダメですよぉ! あなた方には餌になって貰わないと! 『支配ドミネーション』!」

「なっ!?」

 遂に本性を現したトージョー! ドミネーション……支配、か?


「くっくっく! あっはっはっは! 手に入れたっ手に入れたよ! 最強の力を! 長かったなぁここまで! これで……これで世界は僕の思い通りだぁっ! あーっはっはっは!」

「『支配』だと!? 聞いていないぞ!?」

 どうやらゼアたち魔族には能力を隠していた様子のトージョー。


「あたりまえですよ! 誰が魔族何て信用するものですか! あなた方のことは……たまたま次元の歪に巻き込まれたから利用しただけです!」

 おやおや、なかなか下衆な感じになってきてるじゃないの。


「そんな! 私たちのために頑張ってくれるって……!」

「えぇ、あなた方のために頑張りましたよ! 僕のために働いてくれるあなた方のね! あなた方も光栄でしょう? 僕のために働けたのだから!」

 トージョーのやつ、めっちゃクズで笑えるんですけどー!

 

 一方驚愕の表情を浮かべるゼアの側近達。

 さもありなん。




「さぁ、やれ魔神! 目覚めのご飯だよ!」

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