第170話 おうまさんのリバイバル②

「『尊主光輪』(しゅきしゅきアレクちゃまの輪っか)」

「……」

 気の抜けたような表情を浮かべるゼア、そして俺。否、ここにいる者たち全員。


 アラアラが行使した魔法、それはかつて聖女が用いた魔法、それの模倣……のハズ。

 つまり、対象への信仰心が強ければ強いほど強力な支援を施す魔法……のハズ。


 まさか、俺をその対象とするとは……。

 練習で基本的な部分ができた後は1人でやると言っていたのは、こういう事だったようだ。


 くっ! 恥ずかしすぎる!




「うぉぉぉおおおーっ! 力が漲って来たーっ☆☆」

「破壊っ! 破壊っ! 破壊と破壊! そして破壊っ!」

「心こそ! 心こそ! 最強の矛なりぃっ!」

 ヤバい。


「――ふざけた名前の癖に……」

 ふざけている、本当にふざけているが……彼らから感じる力は本物。

 最早神気と言えるそれは、ゼアの本気すら上回っているだろう。


「いくぜっ☆☆」

 再び幾人にもヤハが分身、ゼアへと攻撃を仕掛ける。


「――っ! これは!? 全てに実態があるとでも!?」

「そだよっ! ただの高速移動☆☆」

 残像が残るほどの、ゼアの目を持ってすら全て同時に存在するかのような高速移動。残像が、実体が、無数の切り傷をゼアに負わせる。


「くっ!? 舐めるなぁっ!」

「甘いですぞ」

 反撃に転じようとしたゼアを、ブッディが羽交い絞めにする。


「ぐっぉぉおおーっ!? 何て力だ!?」

「安心されよ、拙僧は時間稼ぎのみ!」

「な――!?」

 ブッディの言葉に、まさかと思いシヴを見るゼア。


 今までの極級魔法など、子どもの遊び同然と言わんばかりの濃密な、今まで感じたことがないほどの魔力が込められた青い炎。

 それらが人型を形取り、今にも裁きを下そうとするかのように手の平をゼアに向ける。


「『荒鬼讃堕亜(アレキサンダー)』」

「……」

 も、もしかしなくても俺!? もうやめて! これ以上苦しめないで! 俺を!




「荒鬼……アレ、アレアレアレ……」

 祈りが通じたのか、魔法が解けたと同時に倒れ込むシヴ。

 見ると他の面々も白目を剥いて倒れ込んでいる!


「……我ですら畏怖する程の強大な力、それを維持するには些か魔力が足りなかったようだな」

 えぇ、数十秒でしたね。


「……彼らを連れて行っても?」

 我が妻の目を優しく閉じながら、敵であるゼアに問う。


「構わん。目を覚ましたら……後数秒あれば貴様らの勝ちだったとでも伝えておくがよい」

 こいつ……なかなか粋な奴だな!


「ぬかせ、まだまだ余力があるだろう?」

「ふっ。お見通し、か。だがその境地に至るまでの研鑽、敵ながら天晴である」

 天晴とか使う人初めて見たわ!


「ではこれにて失礼するよ。お前たちも、現界で住みたい場所が見つかるといいね!」

 シレっと『おうまさん』を連れて転移しようと思ったのだけれど……。


「……約束の品を置いてけ」

「……」

 くっ! 誤魔化されないか!


 どうする? どうする俺!?

 このままじゃ俺! 敵が払ってくれた敬意に唾を吐き捨ててるようなもんだぞ!


「な、なぁ? もしも……もしもだぞ? これはあくまで仮定の話なんだが……」

「……」

 あ、あかん! 無駄話はいいから早く寄越せって顔してる!


「俺さ、思うんだよ。きっと俺たちわかり――」

「ゼア様ーっ! クリスタルを手に入れました!」

 合えるよって言おうと思ったらとんだ邪魔が入ってしまった。

 いやこの状況を誤魔化すにはありがたいのか?


 あれ、でももしかして……!




「――っ! 『転移』!」

 急ぎメイちゃんたちを連れて少し離れた小高い丘へと転移する!


「きゃぁ! 坊ちゃま、急にどうしたんですか?」

「いたたたた~ですの! はっ!? 結局ゴルディックさんはどのような人種を創られましたの!?」

 そこそんなに気になる!? てかまた寝てたの!?


 じゃなくて! それどころじゃない!


「遂にクリスタルが揃ったんだよ!」

「まぁ! それなら後は魔神を倒せばいいのですね?」

 そうなんだけど……そうなんだけど!


「……嫌な予感がする」

「そう、ですか。では少し様子を窺う、と言うことでよろしいですね?」

 ゼアたちには悪いが……あの男。あいつが何かしでかすような、そんな気がするんだ。


「あぁ、そうしよう」

 そして身体強化を用い、視覚と聴覚を高める。


 そこでは――。

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