第168話 トージョー
「へぇ。君がそうなのかな?」
皆既日食が起こり、慌てて『転移』した先。
そこでは既に巨大な『次元門』が開いており、その前には……。
人間?
「誰だお前は! 何で異界の魔物でなく人間が!?」
「魔物? 影界の魔物ならとっくに倒しちゃったけど?」
影界? 次元門の先か? ……しかしどこかで聞いたことがあるような。
それに、彼の後ろに……何人かの魔族。
「そんなことより! 君も転生者だよね? 僕の名前はトージョー。もちろん、元の世界の英雄からお借りした名前だけどね!」
「……アレキサンダーだ。トージョー? 英雄? 聞いたことがないが……」
本当はミクチャのこともあり、もちろん知ってる。知ってるけど……一般的には英雄視されていないはず。別のトージョーか?
それとも――。
「……知らないの? 世界を、彼の悪名高い大国からの支配から脱するために活躍した英雄だよ! 巨大な悪に敢然と立ち向かう勇気、君も憧れるだろう?」
「本当に知らん。それよりも、なぜ転生者が魔族の味方をするんだ?」
秘技! 話題逸らし!
「それはもちろん! ゴルディックが許せないからだよ!」
ゴルディック? なぜここでゴルディックが出てくるんだ?
「ゴルディックが何だ? 何かしたのか?」
「……君は、君たちは本当に何も知らないんだね……」
そう言うトージョーの魔力から読み取れる感情は……呆れや侮蔑と言ったものは感じられず、ただただこちらを憐れんでいるかのようなものだった。
「教えてあげるよ、ゴルディックが魔族のみんなにしたことを!」
◆◇◆◇
昔々、ある世界が創られて間もない頃。
その創造神であるゴルディックにより様々な人種が創られました。
全ての基本であるヒト、獣の特徴を備えた獣人を始め、異世界の神話で語られるような亜人。
その中でも、特に魔法に秀でた魔族とヒトは当初から折り合いが悪かったそうです。
やがてそれらは憎しみに、そして戦争へと発展していきました。
生物の勢力争いや闘争はある程度仕方がないとゴルディックは静観していました。
そしてある日、劣勢になった魔族が異界の神を召喚しました。
ところがその魔神は理性を持たず言うことも聞かず、ただひたすらに目の前の全てを食べ始めたのです。
全て……魔族やヒトはもちろん、生きとし生けるもの、魔法、無生物全て。
魔神はいつまでも食べ続け、その勢いは全く衰えません。
これにはさすがに危機感を覚えたゴルディックが立ち上がり、魔神と戦いました。
暴食の魔神と創造神、両者の戦いは七日七晩続き、やがてゴルディックが勝利しました。
怒ったゴルディックは、魔神を喚び出した魔族を許さず、別の世界を創り彼らを追放しました。
そこは……元の世界とは全く異なり、光がほとんど差さない場所。光の恩恵を受けられない昏い場所でした。
やがて……強力な魔物がたくさん出現しました。元の世界とは比べ物にならない程の強力な魔物。
光の魔法が使えなくなった魔族は、徐々にその数を減らしていきました。
辛うじて小国を覆う程の、強力な魔物すら阻む魔法結界を作った魔族たちでしたが……その維持にはとてつもない魔力が必要だったのです。
しかたがなく、結界内部にいる者から魔力を吸収することで維持することを選んだ魔族。
こうして長い間外敵に怯え、限りある資源を奪い合う日々が続き、いつしか自分たちは魔法が使えないと錯覚すらし始め……。
その世界を影界、光も希望もない世界と呼んで生きてきたのでした。
◆◇◆◇
……長い。
そして見なくてもわかる、すぴすぴ言ってるのは誰か。
「(……エリーや、起きるのじゃ!)」
「……はっ!? それで、ゴルディックさんはどのような人種を創られましたの!?」
早いっ! その話だいぶ最初の方! 寝るのが早過ぎるっ!
「……どうだい? いくら罰だからと言って、そんな過酷な世界に魔族を追いやったゴルディックなんて許せないだろう!」
うん、エリーのことは無視するようだ。
「まぁーそう言えなくもないかも知れんが……」
「だからゼアさんや魔族のみんなは頑張ったんだ! こっちの世界に居場所を取り戻すために!」
それはそれで偉いと思うけど……。
「なら別にこっちに来れたんだからそれでいいはずだろう? なぜクリスタルを集めたりするんだ?」
魔神復活のキーとなるクリスタル。どう考えても観賞用にするとは思えない。
「それはもちろん! 魔神を利用してゴルディックを討つためさ! 魔族の存在を許さないであろう奴に対抗するにはそれしか手段がない!」
おーい! 彼の転生担当者さーん! こいつとんでもないこと言ってるよーっ!
「めちゃくちゃ昔のことなんだろ? ゴルディックも忘れてるよ!」
そんな執念深い神様嫌だ。
「いやいや、許せないのはこっちだよ。今まで魔族の方がどれほどの苦労を味わったと思ってるんだい?」
「いやいやいや。あんた、魔族に肩入れしすぎだってっ!」
こっちの世界にそんな神話伝わってないぞ! 魔族の話ばかり聞いて判断してんだろそれ!
「……どうやら、僕たちは相容れないようだね」
トージョーから感じられるのは……純粋な義憤。自分が正しいと信じて疑わない目をしている。
「ふむ。そろそろいいか、トージョーよ」
その時、次元門の向こうから大勢の魔族を引き連れてやってきたのは……。
「ゼア、か」
かつて『おうまさん』を壊滅寸前まで追いやった魔族の王、ゼア。
「やはり貴様が来たか。そうではないかと予感し、同郷だと言う者を先遣隊として送ったのだが……戦いは避けられないようだな」
「……それはお前ら次第だ」
再び、俺の大切なものを傷付けようと言うならば容赦はしないが。
「世界の半分でいいのならば、我がこの世界を手中に収めた後にくれてやるが?」
どこぞの竜王だ!
「ちょっとした小国程度の大きさの土地ならくれてやるが?」
「……ふむ、やはり相容れまい」
無理、か。
仕方な――!
「ちょっと待ってぇ~!」
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