第167話 伝達ミス

「ここか」


 次元門が開く場所。

 エリーに頼み、ボルケーノスライムとコンタクトを取って貰いどうにか判明した場所。


「そうみたいですわ! できたてプリンちゃんもそわそわしてますの!」

 ボルケーノスライムを腕に抱えたエリーが言う。

 温かくてプルプルしてるからって、さすがにそれはネーミングセンスを疑うぞ!




 しかし、ここの場所を突き止めるまでに何日もかかってしまった。

 何せ、あつあつプリンちゃんは知性のない生き物である。いかにエリーと言えど意思の疎通は困難を極めた。


 よくわからない反応、お互いが示すものがわからない状況。

 何度も何度も、あったかプリンちゃんが示す方向へと向かって行った。


 そこには涙あり、笑いありの大冒険があったりなかったりだったのだが……ここでは割愛する。

 最終的にはエリーと何となく心が通じたのか、ようやくといったところ。


 余談だが、その結果エリーが触ってもやけどしない程度に体温を押さえているらしいぬくぬくプリンちゃん。

 俺が触るのは嫌なのか、めちゃくちゃ熱かったけど。


 ともかく、ようやく判明した場所がここ。

 幸いにも、近くに人里はなく、開けた草原のど真ん中であった。




「場所がわかって良かった。後は……日時だな」

「そうですね。さすがに常にここにいる訳にもいきませんし……」

 何もない草原、つまり暇である。月食なのだから夜だとは思うのだが……。

 夜だけここにキャンプしに来るか?


「そう長くはかからないじゃろうが……こればっかりはわからんの」

「そうね……いったん帰るか」

 まぁ、月食が起こるのは我が家でも観測できるだろうし、ここにいる必要もあるまい。


 ◆◇◆◇


 ――数日後。


「アレク様! 聖女と名乗る方から連絡がありました!」

 エルフの方々の一員、マリーちゃんが駆けてくる。


「おぉ、ありがとう! 聖女はなんと?」

「『ダンジョン踏破に成功、クリスタルを確保したのでそちらに送る、1度でいいから抱いて』、だそうです! お前みたいな糞ビッチにアレク様は興味ありませんとお返事しておきました!」

 うむ、完璧だ。


「よくやってくれた、ありがとう! お疲れ様!」

 一日中反応するかどうかわからない魔道具を見続けるの大変よね。


「いえ! ご褒美に後で抱いてください!」

 そう言って来た道を駆けて戻っていくマリーちゃん、本名マリーゴールド。


「……」

「……コホン」

 どうしてメイちゃんの目の前で言うのか……わざとか? わざとなのか?


「……さて、とりあえずクリスタルを確保しなきゃいけないな」

「時間がかかりそうですね。マリーさんにはお断りしておきますね」

 はい。


 いや実際その通りなんだよね。

 俺の『転移』は場所指定なので、居場所がわからないとどうしようもない。

 気を使って届けてくれるみたいだけど……まぁしょうがない、俺の伝達ミスだ。


「まだ昼間だし、気分転換に探しに行こうかな!」

 ここ数日ぞわぞわしっぱなしだし。




「それじゃ、わらわも行こう……か……の……」

「――っ!? これはっ!? まさかっ!」

 強烈な胸騒ぎに頭上を見る!


「これは……おいおいおい! これってまさかっ!」

 2つの月が重なって……さらに太陽に重なって……! 辺りがだんだん暗くなって……!


「見よっ! 月が太陽に食われるぞ!」


 ……日食じゃねぇかっ!!!

 ふざけんなっ! ふざけんなっ!


「ふわぁ~……太陽が見えなくなっていくですの~……」

 こっちが普通の反応だろうが!


「大いなる太陽に包まれる月、いつ見ても壮大じゃのう! っと、今回ばかりはそうも言ってられん! さぁ、主様よ急ぐぞ!」

「……うむ」

 しかし文句は言ってられない!


「みんな準備はいいね!」

 改めてみんなに声を掛ける。


「もちろんです!」

「頑張るですの!」

「キュッ!(がんばるぞー!)」

「もちろんじゃ!」

 メイちゃん、エリー、クネクネ、リオが短いながらも、やる気の籠った返事をくれる。

 ここにいない嫁さん達も、きっとこの気配に思いを同じにしてくれているだろう。


「私とぴよちゃんはお家を守ってるから! アレク、頑張ってね!」

 そう言ってほっぺにいってらっしゃいのキスをしてくれるアンジェ。




「よしっ! 行くぞ! 『転移』!」

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