第166話 守りたい人たち

「さて、残るは次元門から出て来る魔物への対処な訳だが!」


 スライムを倒した……というか、対処した翌日。

 改めて次の目標を確認する。


 寝たら気分も落ち着いたぞ!


「うむ! 頑張るのじゃ!」

「おー! ですの!」

「……頑張りましょう」


 元気なチビッ子たちとは対照的に、どこか元気のないメイちゃん。

 や、エリーはチビッ子ではなかったわ。リオも婆だったわ。


「どうしたの、メイちゃん?」

「……愛しさと切なさと……」

 心強さと? いいのよ、涙を見せても!


「怒りと嫉妬と……」

「……」

 ……一体彼女に何が起こっているのか……。


「これメイちゃん殿!」

「……失礼しました! 頑張りましょう!」

 スッと切り替えるメイちゃん。


「いやしかし……」

「お邪魔をして申し訳ございません、坊ちゃま。大丈夫ですので!」

 嘘つけ!


「メイちゃん、言いたいことがあるなら言っておくれよ。不満を抱えられたままにしておくのは嫌だよ」

「……でしたら坊ちゃま、今夜2人っきりで……いつもより激しく……」

 はいはーい! 作戦会議終了!


「そうだ! ちょっとメイちゃんとお散歩行ってくるから! ちょっとだけ! 明日には戻るから!」

「……あっそ」

「? 何なんですの……?」

 あきれ顔のリオと何が起こってるのか何もわかっていないエリーを置いて……どこ行こ?


 そうだ! 『俺の世界』!


 ◆◇◆◇


「……坊ちゃま、ここはどこですか?」

「ここは簡単に言うと、俺が作った空間? 世界?」

 ほとんど何もない、実に殺風景な白い空間。


 しかし、良く見ると見覚えのない箱がポツンと置いてある。

 箱の側面には……。


「『時が来るまで開けるな! by俺』? 何じゃこりゃ?」

 良くわからん箱、そのままにしておくのも気持ち悪いので開けようとするも――。


「坊ちゃま、やめておきましょう」

「メイちゃん? どうして?」

 メイちゃんに止められてしまう。


「何だか良くない予感がします。いずれ、時が来たら、書いてある通りにしましょう」

「ん~……まぁ、そうね」

 開けるのは良くない、それは俺も感じてはいるのだけど……まぁいいや!

 今はそれよりも!


「ふっふっふ! なんとこの空間! 俺が思った通りに物を出すことができるのだ!」

「何でも、ですか? では……ふかふかのお布団も?」

 もちろん! キングサイズで天蓋付きですよ!

 言うよりも早く実体化させる。


「わぁ! すごいですね! これなら……ですが」

「ですが?」

「……開放的すぎて……何だか恥ずかしいです」

「――っ!」


 急いで部屋のようなスペースを作り、メイちゃんを押し倒す。


「坊ちゃま……約束、覚えてますか?」

「いつもより激しく、でしょ?」

 そんなこと言われたら我慢できません!


「違います……ずっと傍にいさせて欲しい、という事です」

「……嫌だと言っても離さないよ」


 ◆◇◆◇


「主様よ、大事な話の途中で交わりに行くのはやめとくれ!」


 翌日、盛大にリオに怒られる。

 さもありなん。


「うむ。迷惑かけたな」

「本当じゃぞ! 2回目じゃからな! どんだけ見境ないんじゃ!

 ほんまそれな!


「まぁまぁ、いいではありませんか。坊ちゃまにかかれば魔物如き取るに足りません」

「そうですわ!」

 やけに艶々しているメイちゃんと何もわかっていないエリー。

 どこか緩んだ空気を――。


「……いや、そうとも言い切らんのじゃ」

 その雰囲気を、リオの言葉が払う。


「この世界は広い。主様よりも強大なものも必ずや存在するであろう」

 真剣な様子のリオに、この場にいるみんなが固唾を飲んで見守る。


「で、あればこそじゃ。我々が全力で主様を支えねばならん! そこに油断も隙もあってはならないのじゃ!」

「そう……そう、ですね。少し気が緩んでおりました。リオさん、ありがとうございます!」

 緩んだ意識を引き締め、再度戦う覚悟を決めるメイちゃん。


「頑張るですのー!」

 エリーはいつも通り……だけど、それでいい。

 この笑顔のためならばいつだって頑張れる!


「よしっ! サクッと異界の魔物とやらをぶっ倒してやろう!」

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