第160話 女神とメイちゃんたち①

「ばぶばぶ♡」

「ばぶっ!」

 ばぶ? ばぶばぶばっぶ!


「ひゃびゃびゃびゃびゃ~! ばぶばぶちゃま♡ ばぶばぶでちゅよぉ~♡」

「ばぶばぶ!」

 ばっぶー……、ばぶばぶばぶ。


「ばぶばぶ♡ ばぶばぶ♡ ん~! ちゅっちゅっちゅ~♡」

「ばぁぶ」

 ばっ! ばぶばぶばぶぅーっ!


「ふわぁ~ん♡ ばぶちゃま♡ ばぶばぶでしゅよぉ♡ ばぶばぶ♡」

「ばっぶっ!」

 ばぶ、ばぶばぶ!




 ◆◇◆◇




 ふぅ、なかなか大変な目に遭った。


 一昨日の夕食の席で、例のぽわぽわ女神のところであったことを話したのだが……。

 対抗心を燃やしたアラアラになぜか甘やかさせて欲しいと懇願されたのが昨日。

 丸一日ばぶばぶされてしまったぞ。


 まさかあんなことになるとは……。

 どことなく雰囲気が似ていることを察してしまったのだろうか。


「坊ちゃま、次は私の番です」




 ……ばぶ?


 ◆◇◆◇


 ――翌日。


「そろそろ女神様とお会いしたいですわ!」

 次はエリーの番……ではなかった。


「女神様と? どうして急に?」

「私たちと同じく、アレクのことを愛するお方ですもの! しっかり把握しとかなくっちゃですわ!」

 ぐふぅっ! 何となくダメージを負ったそぉ……。


「アルティス家の奥様も、ご当主様の愛人はしっかり把握しているみたいですよ。もちろん、秘密裏にですが」

 腹黒メイドのサリーが聞いてもいない情報を寄越してくれる。


 義父よ、後にとんでもない目に遭いそうだぞ。

 そしてその情報源はお前みたいなやつだろう!


「失礼な! 私はご当主様のは言ってませんよ!」


 ご当主様の“は”か……。一体誰の情報を誰に言ってるのやら……。

 そしてサリーや、君も俺の心の声が聞こえるのかい?


「……何のことでしょう?」

 そう言うとこだぞ!




「……まぁいいや。『次元門』」

 考えれば考えるほど知りたくもないことを知ってしまうのだろう。

 話を切り上げて女神の世界へと通じる門を開く。


 アポ? 取り方わかんね。


「ダァくん! もう会いたくなっちゃったのぉ~? 我慢しなきゃダメだよぉ~」

 そう言って迎えてくれた女神。

 その手には……いや、何も言うまい。


「わぁ! アレクのぬいぐるみを作ってるんですの!」

 触れてしまったか……。


「えっへっへ~! ダァくんの前の世界ではねぇ~、彼女さんは好きな人のぬいぐるみを作るのが伝統なんだよぉ~!」

 重いっ! それちょっと重い系の彼女だから!


「あらあら~、可愛いアレクちゃまのぬいぐるみですねぇ~」

「あなたはアラアラさんね~……」

 おっと、さっそく一番気になる2人が出会ってしまったぞ!


「……」

「……」


 ガシッ!


 無言で握手するのはやめなさい。


「ちょっと! 待ってくださいよぉーっ! いいんですかいいんですかーっ!? 私たちのアレク様がこのような方に盗られちゃうかもなんですよ! 仲良くしてる場合じゃないですよぉーっ!」

 ちょっと待つのはお前の方だぞ。お前を呼んだ覚えはないんだぞ。


「ミントちゃん、何だか可愛い子ね~、よしよし」

「はわわわわぁ~……」

 この駄犬め! 撫でて貰えれば誰でもいいのかよっ!


「私は別に……女神様と同じ方を愛するというのも素敵だと思いますし!」

「アンジェちゃんったら……よろしくねぇ~!」

 まじめなアンジェがまじめに握手してる。


 さぁ、最後はメイちゃんだ。

 ある意味というか何というか……嫌な予感しかしない。だって、目がマジだもん。


「……お可哀そうな女神。坊ちゃまはたま~に、本当にたまにですが禄でもないことを言ったり適当なことを言ったりして女性をその気にさせます。あなたはそれを勘違いしてしまったに過ぎません。その事実を受け入れたらどうですか? 今ならまだ笑って過ごせるでしょう」

「……あらあら~?」

 やめっ、やめろよメイちゃん! 何言ってんだよぉっ! もう遅いよぉ! 笑って過ごせるわけないだろっ!

 ダァくんだぞダァくん! 恥ずかしすぎて一生顔を合わせられないでしょうが!


 それよりもなによりも! 俺ミンチになっちゃうんですけどっ!

 ていうか何で俺と女神のやりとり知ってる風なの!?


「――っ!」

 何てことを考えてると、女神がメイちゃんにビンタを――っ!?


「アレク、ダメですわ」

 急ぎ2人の間に入ろうとする俺をエリーが制止する。


「エリー!? しかしっ!」

「必要なことですわ。アレクは見守っててあげてくださいまし」

 くっ……いつにも増して、いや普段全く見たことがないまじめな顔をしているエリー。


「――っ!」

 その間にも、今度はメイちゃんが女神の頬を叩く。


「ちょっ!」

 女神のスプラッタは見たくないんですけど!


「……さすがはメイさん。ダァくんの一番のお嫁さんね」

 と思ったけど、さすがは女神。真っ赤に晴れるだけで済んでいる。

 ……いやマジか。俺は耐えられる気がしないんだけど。


「勘違いしないでください。一番はエリー様です。私は2番目」

「メイちゃん……」


 そう、なぜかメイちゃんはエリーだけは別格扱いしている。

 俺以外に“様”と付けるのはエリーだけ。いや俺は“ちゃま”だったわ……。


「なら! 私の本気を見せてあげるわ!」

「望むところです!」




 そう言って少し離れたところで戦い始めてしまった2人。

 やめて! 私のために争わないで!

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