第158話 転生前の世界

「ここは……」


 急ぐ人々、走る車。煌びやかな化粧品の広告。

 見覚えがある……どうやら、俺が転生する前の世界に来たらしい。


 ミクチャに蹴飛ばされて通った次元門。その先にあった世界は地球だったらしい。

 もう少し見てみないと、本当に俺がいた世界なのか、小次郎たちが来たような似ているけど別の世界なのか分からないけども。


 まぁ、少なくともミクチャの言ったトージョーとやらを救って欲しい、と言うのは嘘っぽい。

 人に裏切るなと言う奴ほど裏切るパターンである。




「しかし、あんまり変わらないもんだなぁ~」

 最早遠い昔のことのようだが……単純に考えれば、20年は経ってないくらいか?

 多少洗練されたり、流行りのファッション等は変わってるみたいだけど。


 スマホの代わりなのか、道行く人々は立体的な映像をいじってるけど。

 後タクシーの運転手さんがいないんだけど。自動運転ってやつ?


 ……やっぱり結構変わってるわ!

 とりあえず、当時は奇抜と言われていたカラフルな髪の色を眺めながら、これからどうするか考える。


「よし、前の職場に行ってみよう!」

 幸いそこまで遠くはなさそうだ。

 今いるのは渋谷、ハチ公前。元の職場は大崎。


「……魔素は問題ないな。では、『隠蔽』」


 気配と姿を消し、いざ魔法でひとっとび!


 ◆◇◆◇


「おい新人! 呼ばれる前に来いやっ!」

「す、すみません……」

 おうおう、こっちも変わらないなぁ~。

 呼ばれる前に来いってどういうことだ。


「こっちの資料よぉ、昼までに仕上げろって言っただろうがっ!」

「で、でも……その仕事振られたの昼過ぎなんですが……」

「ばっか! お前ばっかやろう! そもそも予想して事前にやっておけってことだよ!」

 うむ、素晴らしい! 素晴らしい程糞!

 やはり糞に育てられたやつも糞なんだなぁ~。世代交代してもやってること変わんないだけど!


「……」

「あん? 何だぁその目は! 聞いたぜ、お前今度結婚するんだってなぁ!」

 あらおめでたい。


「仕事、好きだよなぁ? いいのか俺に逆らっても!」

「い、いえ……」

「だったら、土下座しろよ。反抗的な目をしてすみませんってよ」

「……はい」

 そう言って土下座をする新人君。てか新人なのに結婚するってなかなか勇気があるな! 頑張れよ!


「ふん。最初っから……あ?」

「……?」

「ちょっ! まっ!? んぎゃあああああああ!?」

 新人へのパワハラの最中、突如部長らしきおっさんが騒ぎ出す。


「うわっ! 部長漏らしてるよ……」

「うげぇー……最悪なんですけどぉ……」

 漂う悪臭に、周囲の社員も軽蔑の目を向ける。


「お、お前ら! そんな目をして――んほぉぉおおおお!!!」

 まだ足りなかったようなので、ケツに本人のお高そうな万年筆をぶっ刺す。もちろん、魔力操作で間接的に!


「んぎぃぃぃぃ! あへっ……あへぇ……」

「……おい! 誰か社長呼んで来いよ!」

 爽やかな男性社員が写真を撮りながら指示を出す。


 よかったな、これで仕事が捗るぞ! 俺からのご祝儀だ、頑張れ新人君!


 ◆◇◆◇


 元の職場への職場体験を終え、適当にオフィス街をフラフラと飛ぶ。

「しっかし……特に何も変わらなかったなぁ~……」

 設備や職場の雰囲気が、ではない。


 文字通り、死ぬほど仕事を頑張って来た自分。

 自分がやらなければ、そう思って体力と気力を振り絞ってやってきたのだけど……。


 その自分がいなくなっても、会社は変わらず回っているじゃあないか。


「……だったら、別に死に物狂いで働かなくてもよかったなぁ~……」

 クビになったらクビになったで……別の会社に就職して。

 そうやって自分を必要としてくれる場所に巡り会うまで……。




「ま、今更気にしてもしょうがない!」

 今の俺はアレキサンダー! メイちゃんやエリーたち、大事な人たちを一緒に生きているのだ!


 指に嵌めている指輪は既にたくさんあるのだけど!

 そう思いながら、左手を見ると……。


「あれ、『時空間収納』の指輪がない」

 あっれぇ~? 何でどうして!?

 他の属性魔法の指輪はあるのに1つだけ、時空間収納を付与したものだけない!


 何てこったい! あれをどこかに落としてきてしまうなんて!

 誰かが拾って悪用でもしたら大変だ……!


 いつだ? いつ落とした?

 う〇こ野郎に浣腸した時か!? きれいなお姉さんの着替えを見てしまった時か!? それとも現代日本に厳然と存在するお城の前を通った時か!?




「アレクさん……アレクさん……聞こえますかぁ~?」

「この声は……」

 必死に今日通って来た道を思い出していると、間の抜けた声が頭に直接響いた。


「え~とぉ……これでいいのかなぁ~? 神託って初めてするから緊張しちゃう~! きゃっ♡」

「……」

 どうしよう……。


「私の初めてを奪ったアレクさん、聞こえてますかぁ~?」

「……」

 なぜわざわざ誤解を招くような言い方をしたのだろうか、あの駄女神は。

 そして誰に誤解されようとしているのだろうか。


「……あれ~? 聞こえてる? 聞こえてないのぉ~? おっかしぃなぁ~……じゃ、じゃあ! ダァくん……聞こえますかぁ~……?」

「……」

 聞こえてるけどね。反応したら負けだと思ってる。

 突然謎の呼び方をされたこともあるし、絶対に反応してはいけないやつだこれは。




「どうしよう……クリスタル無くなっちゃったから急いでるんだけどぉ~……」

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