第157話 露骨な罠

「次はぁ~私と同じ、今回の転生担当の子だよぉ~!」


 女神に連れられてやってきたのは、俺以外の誰かを転生させた神の世界。

 誰の担当だろうか。


 もしカオルコや小次郎、オルレアンだったら1発だけ殴らせて欲しい。

 いや、いいやつらではあるんだけどね。性格というか、性癖がね。


「来たか、ポワン=ポワンよ。久しぶりだな」

「ミクチャ! 今日はありがとね~!」

 ――!? ……え?


「アレクさん、紹介するね~! この子はミクチャ! 私と同じくらいに神様になった子だよぉ~!」

「ミクチャだ。歓迎しよう、転生者アレクよ」

 え? え?

 

 ……ちょっと待って欲しい。


 誰がポワンポワンの能天気ふわふわ女神だって?


「さて、此度の面会を引き受けたことには訳がある。実は私の選んだ転生者が――」

「ちょっと待って頂きたい! ポワンポワン様!」

「なぁに~?」


 ……聞き間違いではなかったようだ。

 そして実はミクチャが我が女神の名前だったってこともないようだ。


 やはり名は体を表すと言うことなのだろうか……あな悲しス。


「と、ところでねぇ~、そのぉ……様はいらないよぉ~……アレクさん」

 そして着々と親密度が上がっている気がする。

 やめてくれ、俺は君の名前すら今知ったばかりなのだぞ!


「……ポワン、改めて聞くと素敵ないい名前だね」

 そうでもない。


「え~? えっへぇ~! ありがとぉ~! ママが一生懸命考えてくれた名前なんだよぉ~! 私の世界の言葉でぇ、『才能溢れる』って意味なんだってぇ~!」

 嘘だろ……?

 まずママって年でもないだろ……?

 

「ポワンポワンはその思いに応え、『才能』を司るに至った頑張り屋さんだ。彼女を裏切るような真似はするなよ」

「もちろんですよ!」

 何この子、俺の心でも読んでるの?

 ……いや、裏切るつもりはないけど……騙しはしてるかもしれないけども。


 話題変えよ。


「ところで、あなたの転生者は……」

「うむ、それはだな……首尾よくクリスタルを手に入れたのはいいのだが……そういえばポワン=ポワンよ。アレを持って来てくれないか、アレ」

「あぁ~! アレね! わかったぁ~!」

「……」


 疑いもせず自分の世界に戻って行ったんだけど!

 いや絶対それ騙してるでしょう! 適当なこと言って俺と女神を引き離したいだけでしょ!?

 絶対アレって何だっけぇ~って戻ってくるパターンじゃん!


「さて、改めてアレクとやら。実はお前に頼みたいことがあるのだ」

「はぁ」

 どうせ女神がいると頼めない禄でもないことだろう?


「実はな……我が選んだ転生者であるトージョーと連絡が取れないのだ。お前にはトージョーを探しに行って欲しい」

 トージョー。新たな名前だ。

 彼女の担当は残念ながら性格に難のある3人ではなかったようだ。


「はぁ……まぁいいですけど」

「すまないな。トージョーはこの次元門の先にある場所へ行ったきり戻って来ないのだ。どうか、行ってみてくれないか?」

 そう言って次元門を開くミクチャ。絶対何かしらの思惑がある。最早思惑が口を開けてるようなもん。


「……報酬は?」

「……」

 顔も知らない奴のために働くのだから、当然の要求である。


「……我にできることなら、何でも」

「では、契約書をお願いします」

 口約束、ダメ絶対。

 しっかり議事録に残しておいてください! オフレコだけど……とか信じません!


「……これでいいか?」

「『なんでもする券』? ふざけてるんですか? これは大人の約束ですよ? もっとしっかりした文章にしてくれないと――」

 その時、別の次元門が開く。恐らく、ぽわんぽわん女神が戻って来たのだろう。


「はよ行けっ!」

「いでっ!」


 それを見たミクチャに蹴り飛ばされる俺。

 頭来た! この『なんでもする券』でまずはなんでもする券を量産させてやる!

 そして永遠に俺の召使としてくれるわっ! はーっはっはっは!


「ねぇねぇ、ミクチャ~! アレって何だっけぇ~? ってあれ? アレクさんはどこ行ったのぉ?」


 次元門の向こうから予想した通りの言葉を聞きながら、俺は門の導くままに落ちて行った。

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