第156話 暴食の神

「そろそろ魔神について教えて欲しいんだけど」


 聖女との邂逅を終え、所在がつかめないクリスタル転生者も残り1名となった。

 俺、カオルコ、小次郎、オルレアン、それと既に死んでいるアドルフ。


 いつクリスタルが揃ってもおかしくない状況となったので、改めて女神と話に来たのだが……。


「え~? 私、わかんないよぉ~?」

「……」

 開幕早々、ひっぱたきたくなったのだが?


「いたいっ!? どうしてお尻を叩くのぉ~! えっちぃ!」

「うむ、すまない。魅力的なお尻に、ついな」

 魅力的でも叩きはしないと思う。自分でもそう思うよ。


「え~? もぅ! それなら……しょうがないなぁ~……」

 何だこいつ、どこまでチョロいんだ?

 適当に褒めたら何でもしてくれそうだぞ。


「アレクさんは……私の事、好きなのぉ~?」

 ……どうしてそうなる? 何だ? 何かの謎かけなのか? 試練でも始まってるのか……?


「バレてしまったか。うまく隠していたつもりだったんだけどなぁ」

 全く微塵も好意を表に出したつもりはない。だって……無いものは出ないし。


「そんなのぉ~……いくら私だってわかるよぉ~! お洋服くれたりぃ~……色々お手伝いしてくれたりぃ~!」

 ぬぐっ! まさかそんな……!


「……ははっ! そんな、転生させてくれた女神様にお仕えするのは当たり前じゃないですか!」

 全部俺の都合でやってたことを好意的に捉えられてしまうとは……!

 洋服も、元々来てた服をへパイトスにあげたかったからだし、手伝ったのは借金の代わりみたいなもんだし……。


「そんなことしてくれる人なんて、聞いたことないってみんな言ってるよぉ~?」

「そうですか? 魅力的な方には自然と尽くしたくなる、それが人間ですよ」

 一般的には。


「……私ね、この服を見るたびに……アレクさんのこと、思い出すんだぁ~……」

 すまない女神様……それ、ただの芋ジャージ!


「喜んで頂けて幸いです。私もかつてはお気に入りの洋服でしたから」

 たまの休日には毎回着てました! 他の服を買いに行く時間も気力もなかったもので!


「……私ね、こんな気持ち……初めて~……」

 や、やめろ! 顔を赤らめるな! 恥ずかしそうに俯くな!


「……」

「……」




「ご、ごめんねぇ~! 魔神についてだったよね~!」

「そ、そうですよ! 女神様から賜った大切な使命、なんとしても果たさねばならないのです!」

 ……もしかして、持ち上げようと適当にこんなこと言ってるからなのか……?

 そうだったら……めんご☆


「あ、あのね! 前に担当だった子とは知り合いだから! その子とお話してみる~?」

「おぉ、それはありがたい! ぜひお願いします!」

 これは本当にありがたいぞ!


 ◆◇◆◇


「ゴルディックの世界の魔神、か……」


 女武人といったような気の強そうな女神様の元に案内してもらった俺。

 どっかの火を司ってる神様とは違い、我が女神様は人脈はあるようだ。神脈?


「……名はグロウサムンド。司るというか特徴的なのは『暴食』だ」

「暴食?」

「左様。とにかく何でも食う。物や生物はもちろん、魔法や魂までな。目の前の物を永遠に食らい続け、さらにその力を自分の物とすることが可能な……まぁ、非常に厄介な奴だ」

 う~ん。


 思ったよりヤバそうなんだが!


「幸い、封印されるたびに能力はリセットされるからとにかく誰も食われないようにした方がいい」

 誰も好き好んで食われたくはないと思います!


「私の時も、転生者のほとんどが食われ……辛うじて再封印できたってとこだったな」

「その時の方法というか、決まり手はなんだったんですか?」

 サクッと攻略法を教えて欲しい。何ならご自慢そうなその武勇を持って直接戦って欲しい。


「転生者の1人の能力が……能力名は忘れたが、何かを代償することにより力を引き出す、といった能力でな。それで自滅していったようだ」

「あー……ただの食事にも代償がかかってしまい、ということですかね?」

「うむ」


 なるほどなるほど……。攻略法は何となく掴めて来た。

 それはいいんだけど……。


「なぜそのような厄介な敵を、たかが転生者が?」

 あんたら自分でやればいいじゃない! こちとら前世はただの社畜だぞ!


「……試練を与えて成長を促す、それも我々の仕事だ。現に生き残った者はその後立派に生きたぞ!」

 ……嘘っぽい。


「そう言えば、転生者が失敗したこともあるようですがその時はどうされたのです?」

「そこまで知っているのか。もし転生者達が失敗した場合、その転生担当者が直接戦うことになる」

 へー、それは初耳。チラッと我が女神を見ると――。


「……」

 聞いてないんですけどぉ~って顔してらっしゃる。


「ただ……神が食われるとその能力も、魂も囚われてしまい……まぁ、さらに面倒なことになったようだ」

「……なるほど」

 要は、できるなら自分たちでやりたくないから転生者達を使うけど、もしもの時はしょうがなくってことね。


 まーいいけどさぁ……転生させてもらった代価でもあるし。

 けど、あんまり気持ちのいい話ではないな。


「……我らとて元人間。恐怖する心はあるし、避けたい物は避けたい。納得しろとは言わないが、理解はしてくれ」

「あぁ。話してくれてありがとな」

 話しにくいこともあっただろうが、そこは素直に感謝しよう。


「まぁ……構わん。今回に限っては失敗もないだろうしな。名乗りが遅れたが、私はシェスカ。今後ともよろしく頼む!」

「……アレク。よしなに」

 2度と会うことはないでしょうけど!


「うむ! 困ったら呼ぶがいい。今は人として――」

「ところで、なぜ魔神はこうやって封印されるんだ? 暴食以外にも理由があったり?」

 必殺! アレク話題逸らし!


「さぁな。知性も持っていなようだし、ただただ迷惑な存在だからじゃないか? 私が神格を得た時よりも前からそうだったと聞く」

 ……ふむ?


「そうか……」

 もしかしたら……。

 まぁ……とりあえず生き残ること優先でいこう。

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