第155話 ヒルデとアンジェ
かれこれ1時間ほど、ヒルデと並んで座り、ボケっと空を流れる雲を流れる。
あ、あの雲クネクネみたい!
「――ぁ、あの……その……」
「うん」
さっきから何かを言いかけては、結局何も言えないヒルデ。
こっちから切り出そうとも考えたが、まぁヒルデから言うのを待とう。
「くちゅん!」
あら、お可愛いくしゃみだこと。
「ほれ、上着」
「……」
上着を被せてやり、再びボケっと――。
「……何で……何で、何も言わないんだ?」
「うん? まぁ、俺の方から聞きたいことは特にないし、こうしているのも悪くはない」
たまにはこうしてゆっくりするのも、ね。
「――バカっ! そんなんだから――っ! ……そんなんだから、私みたいなやつに……」
「……」
「……すまなかった。本当に、あの時は……」
言えたじゃねぇか。
「いいよ。謝られるようなことはされてないけど」
「私はっ! お前の気持ちも考えないでっ! ……無理矢理性交したんだ……許されることじゃない。本当にすまなかった! 私にできる償いなら何でもする!」
性交て! 言い方がお固い!
「その気持ちは受け取っておく。けど、さっきも言ったけど謝らなくていいんだぞ」
「……本当に、すまない……ぐすっ、すまなかった……」
律儀な奴だ、しょうがない奴め。
「いいから泣くなって」
そう言って頭を撫でる。
これぞ! イケメンにしか許されない秘技! 頭ナデナデ!
「うぅ! ぐすっ! ふえぇぇぇえええ~ん!」
ちょっ! 幼子みたいに泣くなよ!
仕方なくヒルデを抱きしめる。
「ふえ~ん! ふえぇ~ん!」
よしよし、しょうがないや――。
「……」
しかしその時。
ヒルデの肩越しに、隠れて様子を見ていたであろうアンジェと目が合ってしまった。
「(ジトー)」
どどど、どうすれば……何となく、妻の部下との逢引現場を目撃された心境で心苦しいのだが……。
うん、まんまそれやな。
数分、ヒルデを抱きしめながら、アンジェにジトっと見つめられながらどうするべきか考えていたのだが。
何も浮かばね!
「……あの時、お前を性的に襲ってしまった時」
ちょっ! もろに言うなよ! 性的に襲うってなかなか言わないぞ!
「(ジトー)」
アンジェがめちゃくちゃ見てくるんだけど! そりゃそうだわ!
「慣れぬ人との戦いに……異様な興奮に包まれてしまい、同時に体もなぜか昂ってしまって……お前を見た時、堪らなくなってしまって……」
……今は目の前のこいつに集中しよう。
「お前は……姫様の夫となる方なのに、あんなことをしてしまって……姫様にも、お前にも申し訳が立たない」
「俺は嬉しかったぞ?」
「なっ!?」
「堪らなく誰かを抱きたいと、そんなときに選んだのが俺だったってことだろ? ヒルデのような素敵な女性に選ばれて嬉しくないはずがないよ」
チラッとアンジェを見ると、頷きを返してくれる。
「……それでも、あろうことか姫様の目の前でなど。到底許されることではない」
「大丈夫、アンジェも許してるよ」
今この会話も怒らず聞いてるし。
チラッと再びアンジェを見ると……。
「(ギロッ)」
……めちゃくちゃ怒ってました!
「お優しい姫様だ、私に気を使っているのだろう。私は……もう2度と――」
「アンジェと会わないなんて言うなよ? 大丈夫、アンジェは嫌なことは嫌だとはっきり言うよ。お前に気を使ってるのは、それだけアンジェにとってお前が大切な存在だからだよ」
うん、それだけは確かだろう。
チラッと真横にいるアンジェを……真横に!?
「そうですよ、ヒルデ」
「ひ、姫様っ!?」
ご本人登場! いやー本来なら場も盛り上がるところですが、今回は肝が冷えますなぁ!
「あなたは私にとってかけがえのない存在、嫌いになることなどありません。だから、もう会わないなどと言わないでください」
「姫様っ……ふぇぇ~ん」
こいつの泣き方まじ幼いの何で?
「ですが多少怒りを感じているのも事実です! そこは謝ってください!」
あ、やはり怒ってますよね。そうですよね。
「ぐすっ! ……姫様、この度はあなたの夫と不貞を働いてしまい、誠に――」
「違います」
「ふぇぇ?」
幼女出てくんな!
「謝って欲しいのは……私には全く手を出そうとしてこなかった癖に! あろうことか大切なヒルデと目の前でおっぱじめたことです!」
「「……」」
それ、怒ってるの俺にじゃね?
「まっまさか貴様っ! まだ姫様と性交していないのかっ!? こんなに優しく聡明な姫様を前に!」
「いやいや、もうしたよ」
つい先日ですけど。
「貴様っ! このような可憐で美しい姫様を汚したと言うのかっ!?」
どないせいっちゅうねん!
「ヒルデ、汚れてなどいません。彼は私たちに真摯に向き合い、愛してくれています。あなたもわかってるでしょう?」
「うぅ……はい」
「だからきっと、あなたのことも大切にしてくださいますよ。そうでしょう?」
真っすぐに俺を見つめてくるアンジェ。
「あぁ! もちろんだ!」
「ふぐぅ! ふえっ! ふえぇぇぇえええ~ん!」
再び大泣きするヒルデ。
しかし、その涙は先ほどとは違う意味を持つだろう。
うむうむ、これでめでたしめでたし!
「……さて。あの時の事、詳しく聞かせて頂きましょうか? ねぇ、アレク」
かつてない程長く感じるアディショナルタイムが始まったのであった。
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