第9章 それぞれの迸る熱いパトス
第145話 絶対不可侵領域
――クイードァの件から数カ月。
復興作業も順調に終わり、パーシィの王政が徐々に軌道に乗り始めた頃。
いやーしかし大変だった!
碌な引継ぎもなく担当者が色々変わったり……担当者どころか人員が丸っといなくなったり。
その辺の対応を寝る間も惜しんで頑張ってたよ! 主に親父が!
すまんね、私怨に駆られて上司どもを追っ払ったりして!
そんなこんな、長い間走り回る親父に回復魔法やらをかけるのに疲れ、我が家で退廃的な生活を送っていたところ、突然パーシィに呼び出された。
何でも、大司教が俺に話があると。
大司教、本名バルツィヘルム。魔族でありながらゴルディック聖教会の大司教にまで上り詰めた男。
普段は魔族の姿を隠蔽しているが、上層部は彼の目的や正体を知っている者も多いらしい。
「で、話って何よ」
「何やらきな臭い噂話が耳に入りまして……」
え……めんどくさい予感……。
とは言え、しょうがなく聞くことにする。
なぜなら……彼には今面倒を押し付けて……ギルの世話をして貰っているからだ。
ギルは今、彼とともに各地を回り、その中で出会った困っている人達の手助けをしながら罪滅ぼしの旅をしているんだそうな。
今はまだ遺族の人達と直接、と言うのは難しいだろうということらしい。
俺としてはそのことさえ忘れなきゃ何でもいいんだけどね。
「きな臭い?」
「えぇ。何でもクイードァ王国の東側にある、とある小国でゴルディック教会聖女派なる組織ができたとのことでして……」
え、聖女って……俺? あまり身に覚えがないなぁ。
ちなみに、今まで活動の中心だった、ハンダート領やリビランス、リョーゼンなんかは西側。
戦争の件で訪れたヨーリモーの国より東側は行ったことがない。
「派閥ができることはまぁ、稀にあることなのでいいのですが……」
あら、寛大なこと。
「その聖女、聖騎士団なる組織を立ち上げていまして……このクイードァ弱体化に乗じ、攻め入って来るのではと囁かれています」
「え、きな臭いどころじゃなくない?」
確かに元侵略国家がこういう状況にあれば、どっから攻めて来られても不思議ではない。
「しかし、聖女がどうしてわざわざ……」
「明確な目的は不明ですが、何でも女神の偽物を討つべしとか何とか」
「……」
やはり、芋ジャ、紅き衣では神威が足りなかったか……。
「偽物も何も、本物ではあるんですけど!」
「そうですね。そもそも、ゴルディック教としても、他の神を否定している訳ではないのですが……良くわからないのです」
むむむ。そうか……。
まぁ、噂話と言いつつ、彼なりに何かがあると確信を持って来てくれたのだろう。
こういうやつは重宝せねばなるまい。
「情報に感謝する。こっちの方でも調べてみるよ」
「いえ、お役に立てたのであれば幸いです」
さて、型っ苦しい話はここまでにして、世間話でもしようじゃないか!
「ところで、以前よりも元気そうで何よりだ。ヨミともうまくいっているのが見て取れるよ」
ちょっと野暮だったかしら?
けど、以前はやつれた初老のおっさんって感じだったのに今はナイスミドルというか、生命力に溢れている姿に、思わず口を付いてしまったのだ。要はツヤツヤしている。
「えぇ、アレク様のお陰で。ここ最近は見せつけックスなるものにハマっております」
「……」
軽く小突いたらメガトンパンチを食らった気分なんだが?
まさかっ! ギルに見せつけてんのか!? おのれギルバートォっ! うらやまけしからんっ!!!
「自慢の妻の美しく、艶やかな痴態を見せつけ……それに触れられるのも私だけという優越感……なかなかいいものですぞぉっ!」
「……いつか後悔しそうな気もするけど……ヨミは同意の上、なんだよね?」
あの別嬪さんが……まさかなぁ……。
「もちろんですよ!」
「……そか。記憶を封じたくなったら言ってね」
心得ありますので……。
「くっくっく! 今度アレク様にも是非ご覧になって頂きたいと言ってますよ! 如何ですか、今晩にでも」
「行く」
メイちゃんたちをそういうことに巻き込むのは絶対嫌だけど、自分だけが参加するなら……。
是非もなし!
……。
…………。
………………。
ヤ、ヤベェ……ヤベェよアレ……!
本気で……愛し合う2人の……背徳的……興奮……。
く、癖になったらまずい……ギルのやつ、こんなんしょっちゅう見せられてんの……?
絶対歪むぞ……。
俺も……記憶、封印しよ……。
その前にベローズのとこ行こ……。
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