第143.5話 幕間 メイちゃんと王都を回る

「すみません、こちらにある物頂けますか?」


 復興中の王都、そのとある露店へとやって来た俺とメイちゃん。


「あいよ! 別嬪さんだからサービスしちゃうぜっ! どれがいるんだ?」

 てめぇっ! 俺のメイちゃんに色目使ってんじゃねぇぞコラァッ!?


「全部です。ここにあるもの」

「あい……あい?」

 お猿さんかな?




 復興中とは言ってもそこまでの被害は出ていないが、町はどことなく怯えた様子だったり不安感が漂っている。

 そのため、孤児院やその辺の子どもたちに料理などを振る舞おうと言うことに。


「久しぶりですね、この孤児院も」

 メイちゃんと初めて出会った場所、そこにやって来た。


「院長さんはお元気でしょうか。彼は私たち獣人にも優しく接してくれた方でした」

「以前獣人の子らのために自分の命を差し出そうとしていたもんね」

 ハンダート領の謀反というか、生贄の儀式。それを知るきっかけになったのが彼の話だった。


「そう言えば、あの後すぐ俺が追放されたから会ってないんだよなぁ~」

「そうでしたね。思えば、あれから色々ありました」

 追放されて最初にしたことと言えば……。


「……あの時の闘技大会での約束、覚えていますか?」

「3つ、今は4つ、何でも言うことを聞くってやつでしょ。もちろん覚えてるよ!」

 エリーのせいでぶりっ子メイちゃんになって貰って……。

 その結果『何でもお願いを聞く』と言う約束をしてしまった。


「お願い事ってもう決まったの?」

 あの時、無理難題を言われてからは何もお願いされていない。


「……特には。坊ちゃまといるだけで全て満たされてしまっていますので」

「……そか!」

 嬉しいことを言ってくれるね~。


「なので……その4つ全てを使ってでも構いません、これからもずっと、お傍にいさせてください」

「……うん」

 とは言え、何か報いることができればいいなぁ……。


「ほっほ。相変わらず仲睦まじいようで、安心しましたぞい」

「おう院長さん、久しぶり」

「お久しぶりです」

 院長さんも元気そうで何より。


「ずっと、あの時のお礼をお伝えしたくて……本当にありがとうございました」

「あぁ、ハンダートの件ね。別にいいよ、俺は俺のできることをしただけ。院長が命を懸けたからこそ解決できたんだから」

 彼が必死に俺に依頼しなければ、まだまだ多くの獣人が犠牲になっていたことだろう。

 真の英雄とは彼のような者を言うんだろうな。


「もったいなき……もったいなきお言葉! 私はもういつ死んでも悔いはありません!」

「いや長生きしてくれよ……ま、そんなことより今日は頼むよ! たくさん用意してきたんだ」

 そう言って『収納』から町で買いだめた様々な料理をテーブルの上に出す。


「重ね重ね……いえ、せっかくの料理です! 冷めないうちに頂きましょう! さぁさみんな! 第1王子様が美味しいご馳走を用意してくれたよ!」

「「「わぁーい!」」」


 院長の呼びかけに、今か今かと待機していた子どもたちが駆け寄ってくる。


「すっげー! 肉がたくさんあるぞ!」

「わぁ~! おいしそうな果物!」

「あれも食べたい! こっちも食べたい! くぅ~! まよっちゃうなぁ~!」

 孤児院の子たちや、事前に呼びかけて貰っていた近所の子どもたち。

 ヒト種も、獣人も、それ以外の種族も、みな同様に目をキラキラさせていた。


「まだまだたくさんあるからな! 遠慮せず食べるがいい。はーっはっはっは!」

 誰かに施しをしてやるのは気分がいいなぁっ!


「うっひょー! いただきます!」

「おいしい! おいしいよぉ~!」

「お、それは町一番のレストランで貰って来たものだぞ!」

 本当はドレスコードで入る格式高い場所なんだけど、今回無理を言ってデリバリったぞ!


「ぐすっ……私、こんなおいしいもの食べたのはじめて……」

 感動のあまり泣き出す子も出てきたぞ!


「まぁ、それ1食で金貨が飛んでくからね。大人になったら自分で食えるように頑張るんだぞ!」

 この味を将来自分の力で食べたいと頑張ってくれる子が1人でも出てくれたらいいね。


 ◆◇◆◇


「満足したら、ここに来ていない近所の子どもたちにも声を掛けてきておくれよ」

「はぁ~い!」

 元気に返事をして駆け出す数人の子どもたち。

 これで幾分か町も活気づくだろう。


「ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは王子さまのおくさんなのぉ?」

 獣人の女の子がメイちゃんに話かかける。

 先程美味しい料理に涙していた子だ。


「はい、そうですよ」

 違いますよね? まだ。


「わぁ~! すごいねぇ! お姉ちゃんもここにいたんでしょぉ? どうしたら王子さまのおよめさんになれるのぉ?」

 目をキラキラさせてメイちゃんに尋ねる女の子。

「それは……運、ですね」

 おぅ……身も蓋もないことを仰る……。


「運? ラッキーじゃないとダメなの……?」

「えぇ。どんなに頑張ったとしても……運に恵まれないと望んだ結果が得られませんから」

「そ、そんなぁ~……私、ラッキーなことあまりないよぉ……」

「そうでしょうか? 今まさにその機会が訪れているのではないですか?」

 え?


「ぁ……王子さま……」

「もし運に恵まれたら、後は何をおいても努力するのみです。まじめに、ひたすらに……自分のできることを全力で」

「自分に……できることぉ?」

「えぇ、何でもいいんです。彼がどうすれば喜んでくれるか、自分なら何ができるか……そうすれば、きっと願いは叶いますよ」

 きっと叶わなくても……と言うのは野暮だと思うので黙っておきます。


 なんてボーっと考えていたらその女の子が近くにやって来た。


「……王子さま。わたし、大きくなったら王子さまのおよめさんになりたい!」

 真っ赤になりながらも頑張ってそう言ってくれる女の子。

 この子が頑張れるように気を使って答えてやろうじゃないか。


「ありがとう、嬉しいよ! もし大きくなってもその気持ちが変わらなかったら、必ず迎えに来るよ!」

「ほんとぉっ!? 私、がんばるよ! おそうじにせんたくに! 小っちゃい子のおせわも! だから……やくそくだよぉっ!」

 早速お手伝いをしに行くのだろう、孤児院の中へと駆けて行った。


 うんうん、素直な子どもは可愛いなぁ~。

 きっとしばらくはあの子なりに頑張ってくれることだろう。




「……」

 なのにメイさんや、何で怒った顔をしてるんだい?

 流れを汲んでいい答えをしたと思うんですけど……。


「はぁ……」

 クソデカ溜息を吐くメイちゃん。

 俺、何か間違っちゃいました……?

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