第143.5話 幕間 エリーの実家③

「……ひ、久しぶりだね、サリー。何やってんの?」


 袋から出てきたのは、顔を真っ赤にしながら大粒の涙をその目に溜めている、かつてのエリーお付きのメイドであったサリーだった。

 彼女が何やら……いかにも『プレゼントは私』とでも言わんばかりにリボンで装飾されている。


 これは……正直恥ずかしい! ぷっぷー!


「……私が聞きたいです……と言いたいところですけど! 全部アレク様のせいですよ!」

「はぁ?」

 なんでやねん。たった今久しぶりに再会したばかりなんだが?

 それなのに何でこの変態羞恥プレーが俺のせいになると?


「実はね……うちに仕えてくれていたサリーなのだが、10年以上前にとある噂が流れたんだよ」

 噂? 何の?


「『第1王子にお手付きにされた』、とね」

「……」

 いや全く覚えがないんだが……。


「当時君は5歳、あり得ないと思いつつも……みんなそれでサリーを敬遠しちゃってね……わかるだろう?」

「わかりません」

 5歳の子にお手付きにされたってどういう意味ですか?


「アレク様のせいで! 私今まで結婚どころか男性とお付き合いもしたことないんですよ! どうしてくれるんですか!?」

「どうするも何も……さすがに婚約者のメイドさんに手を出す訳には……」

 いかなくない?


「いやいや、そんなのよくある話グベッ!?」

「まぁあなたったら! あの時のことまだ反省していないのかしら!」

 人に歴史あり、ジェイドもやることやってたんだなぁ~……。

 でもマミーさんやめて! 股間を重点的に蹴らないであげて!


「とにかく! そう言う訳だからサリーを貰ってやってくれ。『友人がどんどん結婚して行きます』と切なそうにしている姿は正直見てられん!」

 未だマミーに踏まれ続けているジェイドに代わり、アニーが引き継いで言う。


「……いやさすがに……エリー、それにサリーも何か言ってやってよ!」

 婚約者のメイドさんに手を出すなんて……あれ、割とよくある話では?


「サリーなら大歓迎ですの! 一緒に元気な赤ちゃんを育てましょうですわ!」

「そうよ! アレク様は黙ってさっさと孕ませればいいのよ! この鬼畜!」

 サリーの中の俺はこの数年間で鬼畜になってしまったようだ。


「言ったな! 今夜は覚悟しとけよ!」

「……はい」

 え、何? 何その感じ? もっとふてぶてしい感じでさぁ……。


「……まぁ、なんだ。最初は決闘だなんだと言ったがお前のことは信頼している。前前前陛下にも言われたしな」

 アニーが改まった感じで言う。


「サリーはその呼び名も相まってか、どうも家族のように思えてしまってな……どうか、幸せにしてやってくれ」

「……まぁ、そう言う事なら。サリーもそれでいいんだな?」




「……とりあえず、リボンを解いてください」

 あ、はい。


 ◆◇◆◇


「如何でしたか? 私の巧妙な玉の輿作戦は」


 ハンダートの我が家へとサリーを連れて来たところ、そんなことを宣うサリーさん。


「これほど思った通りにことが進んでしまうと、拍子抜けですね」

「……」

「まさかまさか、私の貞操を守るために積極的にアレク様のお手付きになったことを吹聴していたのがこんな形で功を制するとは」

「……」

「いいですかアレク様。私に手を出すと言うことは、アレク様の所有物に手を出すという事ですよ? それがどういう意味か分かりますか?」

「……」

 こいつ……混乱してやがる。

 意味があるようで全く筋の通っていないことばかり言ってらっしゃる。


 今なら積年の恨み、というほどではないけど、仕返しができる気がする!


「俺は昔からお前の事好きだったんだけど」

「ひゃぶっ!?」

 毒蛇にでも舌を噛まれました?


「流されるままこのような形になってしまったが……俺のものになってくれないか?」

「ふぁぁぁぁぁ~!?」

 猛毒でも浴びて体が溶けました?


「俺とエリーのこと、ずっと支えてくれ」

「……はぃ」

 はっはっは! 見ろサリーの顔! お顔が真っ赤っか!


 散々人のことを小バカにしたり我儘な主人に乗じて自分も我儘言ったり……。

 ……エリーのことを一番に考えてくれてたり。


「ありがとな、これからもよろしく」

「はい(ニヤッ)」




 ……何だよ『ニヤッ』って! きれいに終わらせてくれよ!

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