第143.5話 幕間 アラアラと各地を巡る

「あらあら、ここは大変ですねぇ~」


 貴族どもがこぞっていなくなってしまい、半ば放置された領地と領民。

 彼らの様子を見に来たのだが……割と何とかなってるところが多い。


 というのも、一番上の上司がいなくなっても主に働いていたのは現場の方々な訳で。

 通信機器も発達していないこの世界では、突然指示役がいなくなってもその影響は少ないというところだろう。


 特に、今までも適当にやっていた貴族の領地なら尚更である。

 本当にいなくなって困るような貴族はまだ残ってくれてるしね。


 これが何か月も続けば話は別ではあるが……適切な給料と適当な監視役さえいればある程度はどうにかなる。

 そうなる前に急ぎ新しい領主代行を立てたり、元からいる人たちと連絡を取ったりしたりしている。親父が。



 で、今俺とアラアラは様子見を兼ねて各地を回っているのだが……。




「そこの方~、このお怪我はどうしたんですか~?」


 どうしたことか、今日来た町ではけが人が溢れかえっている。


「どうしたも何も、回復魔法が使える奴がいないから困ってんだよ!」

「? ギルドとかにいるんじゃないの?」

 回復魔法が使える人は、自ら冒険に出ることもあるが、ギルドで怪我人を治療したりしている。

 ギルド側から依頼することもあれば、小遣い稼ぎで自らやってくれてたりする。


「それがよぉっ! 出てった元領主が回復魔法を使える奴を全員連れて行っちまったんだよっ!」

「マジか」

 何とまぁ……。嫌がらせなのか彼らを使って何か企てているのか……。


「それは困りましたね~。私で良ければ回復しますよ~!」

 そう言ってアラアラが回復魔法を使う。


「おぉっ! ありがてぇっ! この辺は魔物が多いからな、他にも困ってるやつがいるから気が向いたら助けてやってくれ!」

 そう言って銀貨1枚を投げ渡し、去っていく冒険者風の男。


「ふむ。彼らには迷惑をかけてしまっているようだ」

「そうかも~。でも、一緒に行っちゃった人も問題だと思うよ~!」

 珍しくプンプンしているアラアラ。

 優しいアラアラとしては、こうなることが目に見えているのに出て行った回復士に思うことがあるのだろう。


「じゃあせっかくだから、怪我してる人を見て回ろうか」

「わかったよ~!」


 ◆◇◆◇


「もし、そこの回復士の方。良ければ少しお話させて頂いても?」

 冒険者ギルド近辺で怪我人を回復していたところ、男に声を掛けられる。


「何だ?」

「実は、今度元領主様を中心に治療院を開こうと計画をしておりまして……」

「ふむ。今も結構稼がせてもらったが、治療院だと何か違うのか?」

「えぇ、それはもちろん。今まで何となくでやっていたことを領主さまが中心になり、決まった時間と料金を設定し、安定した活動を目指しているのですよ」

 他の町にも似たような場所はあるし、別におかしなことではないな。

 むしろ積極的に取り入れて行ってもいいかもしれん。


「ちなみに……1日のお給料はこれくらいとのことです」

 そう言ってこっそり耳打ちした値段は――。

「金貨1枚、か。結構な値段だが……採算は取れるのか?」

 一般家庭の年収は約金貨10枚。それを1日でとなると……。


「えぇ。今後は明確な基準を設けて値段設定をしていくとのですよ。骨折などの大怪我の場合、金貨1枚を請求することになっています」

「たかっ!」

 しまった、思わず声に出してしまった。


 しかし、他の似たような場所ではその半分以下でやってくれるところが多い。

 ちなみに、今日のアラアラはどんな怪我でも銀貨1枚(1金貨=100銀貨)以上は貰っていない。


「そうでしょうね。しかし冒険者の方々は怪我が絶えませんし、体が資本ですからね。多少高くても払わざるを得ないでしょう」

 ニヤリと人の悪そうな笑いを浮かべる男。ここにきて本性というか、本音が透けて見えてしまった。


 要はここでの生活に欠かせない回復魔法を独占し、法外な値段を要求する、と。

 嫌なんだよなーこういう弱みに付け込んだり他人の弱みを握ったように貪ろうとするやつ。


 そうじゃなくても、こんなことしてたらこの町から冒険者いなくなっちまうぞ。


「せっかくの勧誘ありがたいが、俺たちは旅の途中でな。すまない」

「そうですか。では気が向いたらまたお声掛けください」

 そう言って男と別れる。


「アレクちゃま~、私あの人きらいよ~!」

「俺もだよ~」

 だから、ちょっとした嫌がらせをしたいと思う。


 ◆◇◆◇


「すいませ~ん! 『上級回復』が使える魔道具が手に入ったのですが! それを売りたいんですが! できればここで有効活用してくれる人に!」

 ギルドに入り、受付のお姉さんに声を掛ける。

 もちろんこの魔道具はお手製だ。


「まぁ! ちょうど今回復を使える方がいなくて困っていたところよ!」

「それは良かった。20個程あるから、ここでの回復用と、冒険者さんに貸し出し用とで分けてくれると嬉しいな」

 細かいところは任せるけど!


「に、20個ですか? そんなまさか……」

「実は、俺こういう者なんだけど……」

 突然そんなこと言われても信じられないよね。なので! 史上初の! SSランクの冒険者証をこっそり見せる。


「こっ! これはっ! まさか、あなたが噂の……」

「まぁ、ちょっと悪どい奴らの噂を聞いたものだからさ。有効活用してよ。いらなくなったらギルド経由で困ってるところに回してくれてもいいし」

 もしかしたら他にも似たようなところあるかもだしね!


「ありがとうございます! これで冒険者の方々も活動しやすくなるでしょう!」

「うむ、よきにはからってね」


 ◆◇◆◇


「さっすがアレクちゃま! 困ってる人は見過ごせないのね~!」

 アラアラが俺の頭を撫でながらそんなことを言う。


「まぁ……半分くらい俺のせいな気もするし」

「それでも~アレクちゃまが優しいことには変わらないでちゅよ♡ おっぱい飲む?」

「飲む」


 いつもと変わらないやり取りをしながら、この町を去り、ハンダートの我が家に戻り、イチャコラするのだった。




 ちなみに、風の噂で例の治療院は開店休業、即廃業。回復士たちも冒険者たちから総スカンを食らってしまい、逃げるように他所に行ったそうな。

 阿漕な商売はするものではないね!

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