第143話 あの日の夜の事
――時は少し遡り、ギルを打倒した日の深夜。
「親父……」
パーシィ達に救出された親父の様子を見に来たのだが……。
「今は寝ております。きっと、この騒動にも気付いていないでしょう……」
ぐぇ、チョーダの奴め……何でこんなとこにいやがるのよ……。
王都は未だ未曽有の大混乱、なのだが……それにも気付かない程衰弱してたとは。
それに加え、ここハンダート領主館にはその騒ぎも届かないってのも、まぁあるかも。
町で出会った知り合いはとりあえずここに飛ばしたのだが……。
そう言えばパーシィたちを飛ばした時に親父を担いでた男がいたなぁ……それがこいつだったか。
「あの時、王の傍にいなかったこと……生涯の悔いとなるところでした」
「……」
良かったね。こんなに思ってくれてる家臣もいて。
「――ぐっ……アレク……アレクや……」
「あ、起きた?」
しかし、再び寝息をたてる親父。
「……時折、こうして殿下の名前を呼ぶのです。うなされながら……」
……なんだそれ。
「時に涙を流しながら……」
……。
「時に笑顔を浮かべ……」
……。
「稀に目を覚まし、『夢、か』と悲しそうに――」
「わかった! わかったから! 『ィユニス召喚』!」
王都でてんやわんやしているィユニスをこちらへ喚ぶ。
「――っ、だからぁっ! 何で強制なのよっ! 今あたし忙しいのわかってるでしょ!」
そりゃ、王都の重症人を看て貰ってたからね!
「頼む」
そう言って親父を見やる。
「――極度の疲労、ストレス、栄養失調……可哀そうに、辛い思いをしてきたのね。『癒しよ』」
天丼にも動じず、神の権能へと昇華している癒しの魔法を行使するィユニス。
「……体の方はこれで大丈夫なはずよ! 心の方は……まぁ大丈夫ね。ほら! あたしを戻しなさい!」
「……わかった。そっちの方も頼むよ」
言われなくても、という言葉を残し、『転移』するィユニス。
「兄さま、今の方は……?」
「ん? あぁ、今度紹介するよ」
パーシィが問うてくるが、また今度ね!
「――うぅ……こ、ここは……アレク!? そうか……また夢を見ているのか……」
「夢じゃない」
「嘘を――」
「うるせぇ!」
「へぶっ!」
話が進まなそうなことにイライラしてぶん殴る。
「こ、この痛み……夢では……ない!?」
「そうだよ! 正真正銘追放された第1王子! 王都が大変なんだからシャキッとせいやぁっ!」
「……どういうことだ?」
おぉ、虚ろな病人みたいな顔から急に戦う男の顔になったぞ!
「実は――」
そうして俺の知る事や、チョーダ達しか知らないことを含めて事情を説明し合う。
「――そう、か。ギルバートはどうしている?」
「別の場所で……大司教と話をしてるよ」
復興作業でもやらせようと思ったけど、原因のあいつが現場にいたんじゃ恨み辛みが王家へと向かいかねない。割と今も向かってるけど。
その辺はまぁ、どうにかなりそうではある。
「……ギルバートを止められず、挙句民の犠牲まで……不甲斐ない」
「ま、だからさ! 今は王都が大変だから親父も協力してくれよ」
とりあえず、今後はパーシィが王位を継ぐとして……。
「……呼んで、くれるのか?」
「何? 聞こえないよ!」
「まだ……この私を父と呼んでくれるのか?」
「あん? 当たり前だろ!」
父じゃなかったら何なんだよ! 実は母ですってか!?
「……アレクっすまない……すまなかった……本当にっ」
「……いいよ、別に。その代わり、親父にしかできないことを頼むよ!」
「あぁ、あぁ……! 任せてくれっ……この父がっ、命に代えてもっ!」
いや、せっかく元気になりそうなんだから……命は大切にしろや!
「じゃあ早速今後の事話すからさぁ。こっちの部屋来てよ」
そう言ってウーノやセイスらが会議している部屋へと向かう。
「そうだ、獣人がたくさんいるけど……わかってるよね?」
「あぁ、差別的にみないよ。昔からお前は獣人が好きだったものな」
いやに聞き分けが良いな。俺のいない間、何かあったのだろうか。
「じゃあ……とりあえず、パーシィが王様になる後押しをしてよ。こいつは俺がなれってうるさくって――」
◆◇◆◇
――そして今。
クイードァ王宮、その王座の間でパーシィが呼び出したのは――。
「……久しぶりな顔も多いな。では改めて。この度パーシバル王の元で宰相という大任を拝することとなった、フリードリヒ=クイードァだ。どうか、よろしく頼む!」
昨日まで病に伏してたとは思えない、気力に満ちた親父だった。
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