第141話 弟

「あ……が……」

「まだ息があったか」

 丈夫な奴。虫の息だけど。


「やはり……敵わぬ……か。アレキ……いや……兄、上……」

「……」

 ……チッ。


「幼い、頃より……感じて、いた……決して……敵わない、こと。それなのに……余を、俺を……」

「……」

「それが……悔しくて……どうにか、超えたくて……」

「……」

 ギルバート……いや、ギル。我が……我が愚かな……。


 弟。


「……殺、せ……憎く……そして……憧れた……兄、よ……」

 最期の力を振り絞り、言葉を紡ぐ愚かな弟。


「『伝説級回復魔法』!」

「……こ、これは!?」

 肉体の欠損を含め、回復するギル。


「バッキャロー!」

「ぐっ……」

 そしてギルの顔を思いっきり殴りつける。


「バカが! そんなことでお前……お前! 人の命を奪いやがって! 死なす必要なんて全然なかっただろうが!」

「それは……制御がうまくいかず……本意ではなかった……すまないとは思――」

「ふざけんな! 謝ってもどうにもなんねぇよ! 取り返しつかねぇんだよ!」

「……そうだ、な」

 もう一度殴りつける。

 

「だから! 誠心誠意謝れ! 遺族に頭下げろ! 被害を受けた人たち全員に償え! お前の残った人生全てそいつらのために使え!」

「……俺を……生かすと?」

「当たり前だ! 死んで償うなんて意味ねぇだろうが! その糞みたいな力を使って民のために生きろよ!」

「……今更、顔向けが……」

 三度殴りつける。


「顔向けできないっつうなら! 何度でも向かせてやるよ! 殴ってでもなぁっ!」

「なぜっ!? 何故だっ! 俺は兄上に今までひどいことを――!」

 愚かな弟! そんなこともわからんのかっ!


「弟だからだよっ! 弟のする悪戯なんか屁でもねぇっ! 間違ったことをしたら殴ってでも矯正させるっ! それが兄の役目だっ!!!」

「……」

 ギルの体から力が抜け、放心したように天を見つめる。


「……」

「……」


「……敗けたよ……兄上。兄上の言う通りにする」

「当たり前だ。弟は兄に逆らえない生き物だからな!」


「……ふっ、最初っから勝てないのは道理、か」

 何が『ふっ』だ、偉そうに! これからお前は惨めに頭下げて生きていくんだぞ!


「……ところで、お前に憑いてる神、何とかアロマだっけ? 顕現させろよ」

「……? 構わぬが……」

 アロマの癖に癒しとは程遠い奴め!


 そして現れる、禍々しい存在。


「やぁ! 弟が世話になったね!」

「――っ!?」

 全体的に黒い体。3メートルを超す巨体。その両腕は太く逞しく、地にまで届くほど長い。

 そんな彼が怯える犬のように縮こまり、震えている。


「ちょっと面貸しなよ」


 ◆◇◆◇


「何で、我のところ?」


 アロマを連れてやってきたのは、ドゴーグの世界。

 今までの腹いせと、今後も大人しくギルの力になって欲しいと思い、対話をするために連れて来た。


 俺ってば慈愛の塊!


「適度に暴れられて、適度に壊してもいい場所がここしか浮かばなくってさぁ!」

「自分のところ行け! ここ我の世界っ! 頼むからぁっ」

 大の大人が泣き喚いちゃってまぁ……そいえばこいつ何歳だ?


「コォォォ……」

「おい、おまえ! アロマ! よくも弟に取り憑いたな!」

「コォォ!? コォォォ!」

 何言ってるかわからん。


 と思ってると影から魔物を産み出した。

 ドラゴンや剣士、数えきれない程の生き物がを従え、こちらを睨むアロマ。


「ほぅ。これは珍しい」

「あん?」

 一触即発の空気の中、ドゴーグが呟く。


「基本的に神になれるのは知的生命体だが……稀にそうでないものが昇神することもあると聞く。その場合、力的な面ではより強力だとも、な」

「へぇ~」


 だからなのか?

 『創造』、生き物を産み出すほどの強力な……世界の理にすら反してそうな力を持ってるのは。

 知性がない……故に本能的、故に強力、的な?


「ふむ。知性のない獣ならば、しっかり躾ないとな! 『不滅者縛る不滅の鎖』!」

「コォォッ!?」

 早速獣を鎖で縛る。


「ほらっ! お手!」

 頭上から『神の鉄槌』を落とす。


「コッ……コォォッ!」

 産み出した眷属に命じ、俺たちに向かって殺到させるが……。


「ヴァイス・アンファ」

 横薙ぎ一閃! 雲山霧消する影たち。

 こんなやつら、いくら産み出しても意味ないってのに……。




「学習能力は低いようだな。これは骨が折れるぞ!」

「コォォォッ!?」


 まだまだ夜は続く……。

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