第139.5話 幕間 ナイツ


「ハァ……ハァ……」

 爪を避け――。


「ぐぅっ!?」

 薙ぎ払腕を弾き――。


「――っ!!!」

 ブレスを受け――。


「ガハッ!?」

 体当たりをくらい――。


「ま……まだ、まだだ……!」

 幾度もの攻撃を耐え――。




「デール! 王を保護した! 我々は撤退する!」


 そしてようやく、その声を床に倒れ伏せながら聞いた。

 どうやら壁を壊し、そこから外へと退避するようだった。


「よかっ……これ、で……」


 何時間にも感じる数分の攻防。既に満身創痍である。


「グルルルル……」

 ドラゴンの影がゆっくりと近づいてくる。


「……最早、逃げる体力も……」

 近寄ってくる死に、しかし体は動かない。


「これで……十分……任務は……」

「グッゴォァア!」

 勝利を確信して、どことなく嘲笑っているように見える。




「(……十分?)」

 本当に?


 主君の敵が目の前にいるのに……?


「(違う! 違うっ!  あの日感じた悔しさは! 決意は!)」

 かつて、主君とともに戦えなかった悔しさ。


 このまま死を受け入れるのか!

 今まで何のために努力してきたのか!


「ナイ、ツ……」

 魔力はとうに尽きている。


「コォォォ……!」

 近付いてくる黒い影。


「ナイツ……きて、くれ……!」

 最早届かないはずの声。


「ガァァァァッ!」

 ドラゴンの影が、その咢を大きく広げ――。


「ナイツ! 来てくれっ! 私の全てを……差し出すからっ!」


 しかし、それははっきり聞こえた。


「……問おう」

 その瞬間、デールから激しい光が放たれ、ドラゴンの影を弾き飛ばした。


「問おう、貴様の在り方を! そして喚ぶがいい! 我らの真名を!」

 喚べと魂に木霊するその名前を――。


「……そんなこと決まっている! 来たれ……」

 ――決意を、ありったけの気持ちを込めて叫ぶ!


「来たれナイツ! ナイツオブグローリー! 殿下とともに在るために!」

「コォォッ!?」




 突如ドラゴンさえ怯む極光がデールを包む。

 そしてそこにいたのは――。


「同胞よ、よく頑張りましたね」

 修道服に身を包んだ女性が、デールの傷を癒す。


「魔力もすっからかんじゃないの!」

 魔法使いのような服装の女性が、魔力を見たしてくれる。


「こ、これは……!?」

 突然のことに、思考が追いつかないデール。


「我ら……」

 横を見ると、何人もの人達が佇んでいる。


「我ら、ナイツオブグローリー! 誇りを賭けて戦う、栄光の騎士達也!」

 ナイツと呼んでいた、一緒に戦って来た甲冑に身を包んだ男。

 彼以外にも、様々な装いをした騎士たちが並んでいた。


「ナイツ……君らは……?」

「俺たちは、特別な才能を持てなかった凡人の集まりさ」

「だけど守りたいもののため、諦めずに研鑽し……そしてただ1つのことを究めてきた」

「私たちは、同じような人の願いに応え、力を貸すわ!」


 同じような……才能がなく、それでも誰かのために己を磨き続け、ついには栄光を勝ち取ってきた騎士たち。

 そして、もがき苦しむ同胞に力を貸すため、英霊として召喚獣となった誇り高き騎士たち!


「さぁ同胞よ! 我らの力を以て敵を打ち破れ!」

 そう言って、彼らが光となり、デールの身に宿る。


 ……そうだ、今は目の前の敵を倒さなければいけない。

 癒えた体と漲る力を確認し、影を睨みつける。


「グルルルゥ……」

 突然の衝撃に、ドラゴンも警戒しているようだ。


「どう攻めるかだが――奴の攻撃は強力、しかし防御力は低い。特に光属性の攻撃が有効であろう」

「光属性……」

 肉体に恵まれず、ただひたすら戦略眼を磨き続けた騎士。


「なら! まずは敵に近付かなきゃだな!」

「動きが……頭に入ってくる!」

 予測困難な足取りで敵を翻弄し、接敵する。


「グルァアッ!」

 影は前方をまとめて薙ぎ払おうとするが――。


「今よ! 敵の力を利用するの!」

 力を流し、さらにそれを利用して敵の懐に潜り込む!


「「光よ! 邪を打ち払え!」」

 強力な光の属性を剣に纏わせ、巨大な影を左右に両断する。


「グギャッ!? ……グァァァァアアアッ!!!」

「すごい……これが、騎士たちの力……」

「油断するな、最期の力を振り絞って攻撃してくるようだ」

 影は己を構成するマナを全て注ぎ込み、最期のブレスを放とうとしてくる様子。


「同胞よ、我を使うがいい」

「ナイツ……すごい、前より力を感じる!」

 いつも傍にいた甲冑の騎士。その大盾を構える。


「当然! 我らの繋がりも増してる故! 来るぞっ!」

「ゴアァァァーッ!」

 敵の全てを振り絞ったブレス。今日一番の強力な魔力の奔流をその盾で受けるが、ビクともしない。


「ガ……ァ……」

 やがて全てを出し切り、ドラゴンの影は消失した。




「お前も、主のために命をかけたんだな……ぐぅっ!」

「……どうやら、我らを扱うにはまだまだ研鑽が足りぬようだな。励め!」


 手も足も出なかった影、それを容易く葬ることができた『ナイツオブグローリー』の力。

 1つ1つは取るに足らないものだが、寄集まれば神にさえ届く力。


 その力の反動か、指一本動かせない程体力を消耗してしまった。

 ナイツ達の召喚も解けてしまった。




「はっはは……でも、これで終わ――」

「騒がしさに目を覚ましてみれば……貴様、ファンデールか。これはどういうことだ?」


 そこにギルバートが……神の力を宿し、化け物の姿となった彼が現れた。


「……まぁ良い。死ね」

 そう言ってデールに魔法を放つギルバート。


 先程の影のブレスに勝るとも劣らない魔力の奔流が迫ってきて――!


「――これ……は?」

 それを、黒い盾が阻んだ。

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