第139.5話 幕間 デールの戦い
「これは……パーシィ様、シア。お気を付けください」
王宮へとたどり着いたデールとパーシィ、そしてシアー。
そこには既に影の魔物が何匹か存在しているようだ。
「……ひどい」
「城に残っていた方々は……」
何人かの亡骸が点々としている。
「……急ぎましょう! 王をお守りしなければ!」
「はい!」
この状況でも、必ず王は生きている。
そう信じて駆け出す3人。
そんな彼らを嘲笑うかのように、道を塞ぐものが現れた。
「コォォォ……」
ギルバートが教会で産み出したものと同じ、剣士のような影。
「くっ! 時間が惜しい! ナイツ、来てくれ!」
長い時間をともにしてきた召喚獣、ナイツを喚び出し、その身に降ろす。
「はぁっ!」
「ギィッ!?」
ナイツの力を借り、推定Sランクの影を一刀のもとに斬り伏せる。
アレクがここを去ってから、片時も研鑽を止めなかったデール。
既にこの程度の敵は歯牙にもかけない。
「ふぅ……このまま進みましょう!」
魔力消費は激しいが……大事な人に託された任務。
後先のことは考えていられないとでも言うように、全力で進む。
1階を進み……見知った顔の屍を通り過ぎる。
どうやら、影も数体やられているようで影の残骸と思われるものも点在していた。
「この影は……実態があるようですね」
「そうですね……いったい、こいつらは何なのでしょうか……?」
きっと誰も知らないだろう、そう思いながらも口に出さずにはいられない。
それ程に得体が知れなく、不気味な存在だった。
「あれは……チョーダ殿!」
「――っ! デール! それに……パーシィ殿下にシア殿下!? ここは危険です、お逃げください!」
どうやら道中の敵を倒していたのはクイードァ騎士団長であるチョーダだったようだ。
「わかっています! ですが何としても父を保護しなければ!」
「……そう、ですか。私も同じです。必ずや我が王をお救いしなければ!」
求心力を失い、病床に伏し……それでも尚、チョーダからは揺るがない忠誠心を感じる。
「今は一刻を争います! ともに行かせてください!」
「――っ、えぇい、承知した! 行きましょう、殿下たち!」
心強い仲間を得て、先を急ぐ一行。
道中、新たに現れる敵を切り伏せ、ついに3階への、王が療養している私室へと通じる階段に辿り着く。
後はこの階段を上がり、ダイニングルームを抜ければ……。
「……まて」
「……っ!」
「コォォォ……!」
しかしそこには……ドラゴンのような影が鎮座していた。
まるでこの先を守護するかのように。
纏うオーラは、これまでの敵とは比べ物にならない。
自身の残りの魔力は心もとないというのに……いや、万全の状態でも勝てるかどうか……。
「……パーシィ様、シアー。2人は――」
勝てるビジョンが浮かばず、思わず2人に残るよう告げようとするデール。
「行きますよ! 私だって鍛えてきたのだから!」
「そうよ! 」
……この2人も揺るがぬ決意をしているようだ。
「……では、私が足止めをします。その隙に王をお連れしてください」
「……わかりました」
さすがに、まともに戦って勝てる相手ではないことは理解しているようで、デールの提案を受け入れる。
「私は殿下たちについて行く。この先に敵がいる可能性もあるしな」
敵……それどころか恐らく、この影たちを産み出している存在がいるのだろう。
そのことを口にしないのは……。
「……2人を、お任せします」
「……賜った。デールよ……後は頼んだぞ」
覚悟を決めた目をしているチョーダに頷きを返す。
「デール絶対に死なないでね……この戦いが終わったら……」
「おっと。ダメですよ、シアー。殿下が言っていました。そのようなことを言うと、『死亡フラグ』とやらが立つそうです」
ここにはいない、されど3人の胸中には常に在り続けた存在。
一見ふざけてるようで、人のために行動するその姿。
「殿下に誓って、必ず任務を達成し、生き延びましょう!」
「「はいっ!」」
彼を思えばこそ、勇気が湧いてくる。
「では! 私に続いて!」
言うや否や、ドラゴンの影の前に躍り出るデール。
「コォォォ……?」
「――っ! いくぞシアー! チョーダ!」
「うん!」
「はっ!」
その後に続いく3人。
「グルルァァーッ!」
敵を確認したドラゴンの影はブレスを吐くような動作をする。
「今一度! 力を貸してくれ! ナイツ!」
デールが大盾を構え、受けの体勢を取る。
彼の召喚獣、ナイツの本領はその大盾を用いた守りにある。
故に、全神経を守りに集中するデール。
その選択は間違っていないはずだった。
「ゴァーッ!」
「ぐぅぅっ!?」
ブレスに似た、魔力の奔流。その威力が想像以上のものでなければ……。
「――っ! ガハッ!」
何とか大盾を手放しはしなかったものの、大きく吹き飛ばされ壁に激突した。
その壁も衝撃で崩れ落ちてしまう。
「ハァ……ハァ……これは……きつい、ですね……ですが、まだ、まだ……!」
こうしてデールが過ごした人生で、もっとも長い数分が始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます