第137.5話 幕間 裏切り ―大司教視点―

「まったく、民共は浮かれて騒がしい」


 王都巡礼が無事に終わり、兵や国民はこぞって町で飲み明かしています。そのことを指しているのでしょう。

 ギルバート王太子殿下が呆れたように呟きます。


「だからこそ、こんなとこで神の召喚がなされるなど思わないでしょう」

「で、あるな。して、その石の使い方は?」

 王太子様も待ちきれない様子。


 私も……この時をどんなに待ち望んだか。


 王太子様には、彼の神が強力な争いの力を持っていると話しています。

 裏切ることになり申し訳ないのですが……私の念願が叶った暁には、どのような方法を以てしても報いていく所存です。

 何卒……何卒、お許しください……。




「魔法陣の上に置けばよろしいかと。その上であなた様の魔力も込めながら詠唱するのです」

「左様か……」


 ゆっくりと、靴音を響かせながら王太子様がゴルディック像の裏にある祭壇……に隠されている魔法陣へと向かいます。


「時に……その娘、ヨミと言ったか。彼女には動かないよう命令してあるか?」

「えぇ。神に驚いて暴れる可能性もありますから、ね」

 かつて神をその身に降ろされ、こうして今も辛い目に遭っている彼女。

 もうすぐです、もうすぐ彼女を……。


「……もう一度、命令するがよい」

「……はっ。ヨミよ、この先私がいいと言うまで『動くな』」

 何でしょうか……王太子様の様子がおかしい気がしますが……。


「ご苦労。今までの働き、感謝するぞ! 『静寂』」

 そう言った直後、突然王太子様が踵を返し――っ!?


「――っ!? ――っ!」

 肩から腹にかけて大きく切り裂かれた上に、言葉まで封じられてしまった!

 直前で回避することができ、何とか即死は免れたましたが……。


「……!」

 ヨミ……。


「死ななかったか。まぁよい。そこで見てるがよい! 我が神の力を手にする瞬間をなっ! はーっはっはっはっは!!!」

 そして、彼は懐から取り出したのは……魔法陣が描かれた紙……?


「我望む、我の願い、叶え給え、我捧し、魔力を代価に、我が一部となれ! 悪なる神、ジェガキアルマ!!!」

「――っ!」

 そんな! そんなバカなっ! 私の企みに……気付いて……!?




 瞬間、辺りが眩い光に包まれ――!




 光が晴れたところにいたのは……とんでもない化け物が……。


「ぐぅ……くっく……はーっはっはっは!」

「――っ!? ――っ!」

「……!」

 

 その化け物の腹から上半身だけ出ている彼が高らかに嗤う。

 3メートルほどの、漆黒の悍ましい風貌……どう世辞を言っても、善き神とは言えないでしょう……。

 身に纏う魔力も悍ましく、圧倒的……。


「見よっ! これが神の力! 最早アレキサンダーなど敵ではない!」

「――っ!」

「――ぐっぅうっ! ハァハァ……どうやら、まだ馴染んではいないようだな……」

 そう言ったかと思いきや、彼の周りに何かが産み出される。


「『創造と従属』、か。なるほど。こいつら、Sランクと言ったところか。ちょうどいい、そこの老人と女を始末しておけ!」

「ギィィッ!」

「コォォォ……」

 産まれた何かにそう命じ、彼は天井を……建物の大部分を吹き飛ばしながら、飛び立っていった。


 そして産まれた何か……剣士のような形をした真っ黒な靄。


 その2匹が私に飛び掛かって――!?




「……!」

「――っ! ――っ!」


 ヨミっ!? ヨミーッ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る