第136話 誤算

「こちらが、この支援者から提供された『次元門』のゲートです。ささ、挨拶なさってください」




 何もしないと言ったが、すまないありゃ嘘だ!


 クイードァは大国である。概ね中部地方と近畿地方が合わさったくらいの大きさである。

 ようは……巡礼にかかる日数が半端ないってこと!


 この世界の基本的移動手段は馬、もしくは徒歩である。

 ギルや大司教らは『30日計画』と銘打った作戦を考えていたらしいが……そんなことしたら国が滅びそうである。


 次元門のようなものがあれば話は別……だったら作ればいいじゃないってことで、奴らに提供することに決めた。

 だって……長いんだもの。


 と言うことで、魔道具やウーノの助力によって変装した俺はギルバートに直接会ってる訳だが……。




「ははぁっ! 王太子殿下に置かれましては――」

「よい、説明しろ」

 短気は損気だぞ!


「はいぃ~。実は私、古代遺跡を専門に探索する冒険者でして……先日、このようなものが大量に眠っている遺跡を発見――」

「よい! 効果だけを説明しろ!」

 だからっ! なんだよちっくしょう! せっかくエリーと徹夜して考えた設定なのに! エリーは3分で寝てたけど!

 何が『おもしろそうですわ! 一緒に考えましょう! ですの!』 だよ!


 ……いかんいかん、目の前のこととは全く関係なかったな。


「こちら、対になるゲート同士で転移が可能になる魔道具です。効果は1度、その後壊れてしまいますが、3時間程度展開しています」

 こんなもん残しちゃうと後に影響するだろうからね。今回だけの特別サービスじゃい。


「ふむ、これを用いれば……敵国に強襲をしかけることも可能……」

 やっぱそうなりますよねー。


「王太子様、此度の目的を忘れてはいけませんぞ! 民がここに来ることに意味があるのです!」

「……うむ、そうだな。よし! 急ぎ各都市に配備しろ! 先だって民に通達しておけ!」

「はっ!」


 そうだ、目的を忘れてはいけない。

 そもそもお前ら他国への侵略が目的の癖に! ぷっぷー! 目的忘れてやんの!




 その後、ギルバートたちは詳細を話し合うと言って王宮へと戻って行った。


「あの……私めに何か……報酬的なものは……?」

「……これでいい姉ちゃんでも抱いてこい」

 そう言って残っていた兵士がくれたのは銀貨数枚。


 ……許すまじギルバートォォォっ!!!


 ◆◇◆◇


「どうやらギルバートのやつら、どこからか民の移動手段を手にしたようですよ」


 数日後、ウーノと落ち合い情報交換をする。

 どうやら王都内で会うときは商人の息子固定らしい。


「ななな! 何だってーっ!?」

「……正直、その方面からギルを追求する予定だったのでめちゃくちゃ困ってます」

 ……。


「残された土地や畑はどうするのかとか、移動の間の民の生活や寝床はどうするんだとか、移動できない年寄りや子どもは置いて行くのかとか」

 ……。


「パーシィ様も、泣きながら『はは、さすが兄さま……』と。お可哀そうに、何週間もの苦労が水の泡に」

「……」

 ……すまぬ。


「まぁ、いいですけど。我々がしてきたことはそれだけではありませんし」

「そうだよね! ささ、聞かせておくれ!」

 それに! 失敗は成功の母って言うし!


「……」

「……すまぬて」

 やはりこいつ、心を読んでやがる……。


「コホン。我々は遂に、王都巡礼の目的を掴みました。目的は……やはり、民を生贄にした召喚の儀式です」

「……うむ、そうか」

 まぁ、そうなんだよね……けど――。


「――それは見過ごせないな! よし、そっちは俺たちが見張ってるから、お前たちは城で待機するように!」

「……よろしいので?」

 ウーノが問いかけてくる。


「うむ、全く持って問題ない!」

 なのでこっちには介入不要です!


「……我は闇の眷属、故に闇の盟主の選択に従うのみ」

 闇の使徒である本性を現すウーノ。


「うむ。よきにはからえ」

「この忌まわしき漆黒の堕天使宿る我が胸中に誓って」

 全く何言ってるのかわからない。


 わからないが……まぁ、『本当に信じていいんだな?』くらいの意味だと思います!

 知らんけど。


「コホン。それと、ギルが喚び出そうとしている存在もわかりましたよ」

「あぁ……」

 何とかィユニスでしょ?


「『ジェガキアルマ』というものだそうです。詳しくはわかりませんが……」

「ふむ。さもありなん」


 ……だれぇ? ふえぇぇ?


「……だ、大丈夫ですか? 目ん玉がお飛び遊ばれてますが……」

「え、あ、うむ! 大丈夫! 何の問題もない!」

 多分! 恐らく!


「はぁ……では任せましたよ……本当に」

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