第134話 ばっぶ!
「うわぁぁぁ~ん! パーシィとシアーがぁ! 寂しいよぉ~っ!」
「よちよち、アレクちゃま。よくがんばりまちたねぇ~えらいえらい」
落ち込んだ時はアラアラ! 間違いない!
「えらい?」
「うんうん、えらいでちゅよぉ~! さしゅがアレクちゃま! ばぶばぶ♡」
「ばっぶ!」
ふわぁぁ~……脳みそがぁ~……溶けりゅ……。
◆◇◆◇
「ふむ。さもありなん」
どうにかこうにか、メンタル回ふ――。
「きゃー! 坊ちゃまが無理して強ぶってる~! 私も! 私も甘やかした~い!」
……メイちゃんのこのスイッチだけは、どこにあるかわからんな。
◆◇◆◇
「さて、どうしようか」
「今回の大司教周辺のことは静観する、ということでよろしいですね?」
お互い落ち着いたところで、改めて今後のことを確認する。
「うん」
「一応、理由をお聞きしてもよろしいですか?」
理由ね……何というか……。
「……大司教からは……慈愛とか慈悲とか、そういうものしか感じなかったから、かな」
「慈悲、ですか……」
そう、あの時感じた感情。
エリーのように明確に感じれる程ではないが、俺も魔力の揺らぎからある程度の感情は感じ取れる。
「あの時、俺は間違いなく不審人物。間違いなく捕縛の対象。にも拘らず彼から感じたのは俺への思いやりだったんだよ」
深夜の訪問。それを表立って教会に訪れることができないと勘違いするほどだ。
「そう、ですか。しかし……このままでは罪のない人々が生贄にされてしまうのでは?」
「そうらしいんだけどねぇ~……それも引っかかるっちゃ引っかかる」
あの夜、俺が見たのは確かに召喚陣。
ただし俺が使うように、魔力を代価に神を呼び出すもの。
ドゴーグの魔法陣のように、『生贄を捧げ』と言った構成文は見当たらなかった。
暗くて良く見えなかったのもあるし、すぐに別嬪さんが現れて詳しくは確認できなかったから確実ではないのだが……。
「あー、そういえばエリーや。以前『月光の雫』を取りに行ったときのこと覚えてる?」
何やら上気した顔でハァハァ言ってるエリーに問いかける。
さては大司教のくだりは聞いていなかったな?
「へぁっ!? コホン……もちろん、覚えてますわ! 険しい道のり、迫りくる強敵! 手にした温もりは最高でしたわ!」
……んん? そんなだっけ?
手にした温もりって……おんぶのことじゃ……。
「……その時出会った女の子の事は覚えてる?」
「? 苦難を乗り越えて成長した私のことですの?」
違う。確かあの時エリーは成長するようなことは何もしていない。
「……いつだって会うたびにエリーは魅力的になってるよ」
しかしどうやら覚えてなさそうだ。エリーは興味のないことは速攻で忘れるからなぁ……。
「まぁ……アレクったら。いいですの……アレクがどうしても望むなら……ですの……」
ま、まさか遂にエリーが性なる知識を得たと言うのかっ!?
「ちゅー!」
ちゅー。ですよねー。
「はぁんっ! こ、今度こそ……やっぱりできてしまいましたわ!」
そう言ってお腹をさする。
いったい何ができたと言うのか。
「ヨシオ、すくすく育つんですのよ……」
な、何て慈愛に満ちた顔をするんだ……!
聖母かっ! エリーは聖母だったのかっ!
……処女懐妊ってこと?
「でもでも! もっとアレクとしたいですわ! ちゅー!」
「ちゅー」
しかも、フレンチなんだよなぁ~。
「あぁんっ! だ、だめですわ! 2人目もできてしまいましたわ!」
そう言って再びお腹をさするエリー。
「……」
も、もしかして……それって性的快感を得ただけなんじゃ……?
「エリー様、お身体は大切にしませんと。今日はもう寝ましょう」
「そうですわね! もう私とアレクだけの身体ではないですもの!」
メイちゃんに連れられて自室へと向かうエリー。
「あ、あのね! エリーさんには……いつ教えるのかなって!」
同じく手を出していない組のアンジェが聞いてくる。
「……もう少し、このままかなぁ」
まだ、なんとなく。あの感じを楽しみたい。
◆◇◆◇
「ということで、再びやってまいりました!」
今日は例の別嬪さんが来ないうちに急いでやって参りたいと思います!
「ふむふむ……なになに……?」
『我望む、我の願い、叶え給え、我捧し、魔力を代価に、我に従え、正なる神、我がペイニガリィユニス……』
ペイニガリィユニス……誰やねん。
てか相変わらず『我』多いんやが。
ちなみに、俺が女神さんを呼び出した時の魔法陣は『我呼び出す、従え、むちむちボインお姉さん』である。
簡潔かつ明瞭! だからあんなん出てきちまったのかもなぁ……。
しかしやはり、この魔法陣自体は生贄を要求するものではないな。
「おや、もう1つあるぞ?」
先日はなかったが、もう1つ魔法陣が追加されてるじゃないか。
なになに……。
『我望む、我集める、秘められしマナを、贄を捧げ、生命力の――』
ふむ。
「あ、こんばんは」
「……」
今日もお早いですなっ!
「……きちんと手順を踏んでお越しくださいと言ったはずですよ」
おぅ、大司教も今夜はお早いこと。
「素敵な女性との出会いはいつだって突然さ!」
「誤魔化さないでください。こう見えて、かなり心配していたのですよ?」
ふむ。ここまで来ても、まだ崩れないか。
「と言ってもなぁ……正規の手順を踏もうにも、日中に手続きしなきゃいけないんだろ? それじゃ意味がないんだよ」
「……それもそうですな。夜にも申し込めるような方法を考えておきましょう。こほん、では迷える生命よ。どのような理由で神のお膝元に参られたのか、お聞きしましょう」
大司教が口上を述べる。
さて――。
「実は、とある大司教の思惑がわからなくってねぇ……」
そう言って被っていたフードを取る。
「あ、あなたは……」
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