第133話 再会

「という訳で、クイードァ民による王都への巡礼が始まるそうですよ」


 ウーノである。今日は商人の息子という設定らしい。


 彼が入手したのは、先日の軍事会議の場での大司教の発言。

 その後どうやらギルと王太子とで密談を交わしていたようだが、そこの情報は入手できなかったそうだ。


 さしものウーノも、大司教周辺は警護が厳重で迂闊に近づけないらしい。

 大国の王族のものよりも屈強な護衛……さすがは世界的宗教ということか。


 というより、パーシィやシアーの世話をしながらの情報収集、さすがに手が足りないか。

 クワトも手伝っているようだが……メイドという立場が災いして、むしろ守られているらしい。

 どういうこっちゃ。




「ふむ」

「おや? 何か心当たりでも?」

 先日見つけた教会にあったもの、そして民を集める巡礼。

 となれば、答えは割と簡単に出てくる。


 ハンダートのところであったことと同様、生贄を利用した召喚。


「恐らく……いや……」

 もしかしたら……でもなぁ……。


「アレク様? 何をお考えで?」

 何だか……良くわかんないんだよなぁ~……。


「……この件は、任せる」

「……はい? い、いいのですか!?」

「兄さま!」

 はっ!? この声は……パーシィ!?

 少し声が変わってるけども間違いなくパーシィ!


 筋肉になってるだなんて嘘じゃないか!

 ウーノの奴めっ! ドスとトレス以上に人をおちょくりやがって!


「パパパパーシィ! 会いたかった! どれ、この兄の胸に飛び込んで――」

「兄さま。私はもう子どもではありません」


 ――ッ!!!


「それに……私と兄さまは男同士ですから。とはいえ、久しぶりに会えて嬉しいです! 握手をしましょう!」

「あ、あぁ……俺も、俺も嬉しいよ!」


 ウーノのやつめ。

 そこは……本当だったのだな。すまない、ありがとう。


「もう、お兄さまったら! 相変わらずパーシィしか見えてないんですから!」

「おぉ! シアーじゃないか! 見違えるように美しくなったな!」

 我が実妹、シアー! まだ幼いところは残っている者の、すっかり女性の顔になってる!


「おや……あいつはいないのか?」

「えっとぉ……ほらデール! 気絶してないで! 起きて!」

 き、気絶……?

 シアーが叫んでる方を見ると、何やら倒れている物体が……。


「――はっ!? 私は何を……ででで! 殿下ぁーっ! 殿下殿下殿下ぁっ!!! ――ぁぁ……」

「また気絶した。こら、デール! 起きなさいってば!」

 あー、ね。


 いや、俺も再会できて嬉しいけどさぁ……。

 そんな……数歩ごとに気絶しなくても……。


 ◆◇◆◇


「いやはや、お恥ずかしいところを」

「デールったら! 本当に恥ずかしいわ!」

 数回ほど同じことを繰り返し、ようやく対面する。


 照れたように頭を掻きながら、あの日よりさらに凛々しくなったデール。

 しかしいやにシアと仲が良さげだが……。


「お兄さま! 私デールと婚約したのよ!」

 俺の疑問顔に察したのか、シアが答えてくれる。


「……殿下、私不肖の身ではありますが――」

「よい。デールよ、今までよくぞ2人を守ってくれた。ありがとう。お前ほどの男なら、我が妹を託せるというものだ。よろしく頼むぞ!」

「殿下っ! 殿下ぁっ! ――ぁぁ……」

 また気絶した。


「兄さん、僕も実は……婚約者ができまして……」

「うむ、話は聞いている。この兄にも今度紹介してくれよ! パーシィの婚約者なんだ、きっと素敵な女性だろう!」

 パーシィが言いにくそうにしながらも報告してくれる。


 大丈夫、パーシィもシアーも……ちゃんと選択して進んでいるんだ。

 兄も……この兄も、弟妹離れをしなければならない。




「お三方、久しぶりの再開に積もる話もあるでしょうが、今は先に優先すべきことがあるのではないでしょうか。お時間もありませんし」

 再開に喜ぶ俺たちに、ウーノが声を掛ける。

 むむむ、やはり現役の王子と王女はお忙しいようですな……。


「ギルバート、やつの侵略行為は止める。それ以外はお前たちに任せる。以上だ」

「で、ですからアレク様! 恐らくこれは――」

「わかりました!」

 毅然とした態度で返事をするのはパーシィ。


「パ、パーシィ様……?」

「お兄さまが我々に任せると言ったのなら、最善を尽くすまで。そうでしょう、デール」

「はっ! その通りです!」

 シアーも、いつの間にか起きたデールも肯定する。


「いつしか兄さまをお守りするためにと鍛えたこの身体。もうその必要はなさそうですが、民を守るために使えるなら本望です!」

「いつの間にかSSランク冒険者となって……さすがと言いたいところですが、一体どういうことですか、お兄さま?」

「殿下はお2人を騙していたんですよ! というより、国中を騙していたと言いますか」

「おいデール! そこは俺が話すところだろう! 2人も、すまなかった。実は隠していたことがあってな――」


 久々の再開に、喋る口が止まらない。




 こうして、2人の時間が来るまでお互いに今まで会ったことを語り合う。

 やはり兄弟はいいものだなぁ……。


「やれやれ、ではこっちはこっちで頑張りましょう。それとこの後の予定のキャンセルも」

 ウーノが誰にでもなく呟いていた。

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