第132話 開戦②

 ――数日後。


「やれやれ、敵さんもご苦労なこと」

 目の前には、進軍中のクイードァの兵士たち。


 リョーゼンとは反対側の隣国、ヨーリモーに向けて進んでいると思われる一行。

 数日かけての行進、結構疲れるよね。




 ちなみに、先日のアンジェの目の前でいたしてしまった件。

 どうにかこうにか、夢での出来事だったと思わせることができた。


 やはり魔法って偉大だなぁー……。


 ヒルデは……ショックで寝込んでるらしい。

 さもありなん。




 いかんいかん、あまりにも暇だったので考え事をしてしまっていたが、そろそろだ。


 彼らクイードァの兵士の向かう先にようやく、ヨーリモー国の兵たちが隊列を組んでいるのが見えて来た。

 そこまで大きくない国ではあるが、なかなかの気構えが見て取れる。


 クイードァの沈黙から十数年。準備する期間はこちらにとっても十分だったのであろう。


「しかし、人数差までは覆せないようだったな」


 待ち構える人数に対し、進む人数は実に5倍近い。

 このまま何もなければ、勝敗は火を見るよりも明らかである。


「まぁ、何かはあるんだけれども」




「――な、何だあれは……?」

 お互い既に目と鼻の先。

 いよいよ開戦かと思われたその時。


「――我は神。正当な理由なき侵略者どもよ、退くが良い。さもなくば、うぬらには罰が与えられん」

「か、神……いやしかし……」


 巨大化したドゴーグである。

 やはり本物の神、迫力が違うなぁー! 隷属状態だけど!

 神の威を借るなら、こちらも神! 隷属状態だけど!


「……退かぬか。ならば……地獄の枷をその身に刻んでやろう」

 ドゴーグの影からこっそり『広範囲弱体化魔法』を行使する俺。


「……両者とも、ゆめゆめ忘るるな。我は正当なき争いは好まぬ。我の目の届く範囲でそのようなことがあれば、再び天罰は下るであろう。さらばだ」

 そう言って姿を消すドゴーグ。

 ナイス演技でしたよ!


「……か、体が重い……」

「し、しかし! 神子である我が王太子の命に逆らえん! どこぞの神かは知らぬが! 我々は使命を全うするのみ! 進軍せよ! そして……蹂躙するのだ!」


 あちゃーダメだったか。

 やはり隷属状態の神ではいまいち神威に欠けていたのかもしれん。


「――っ! 来るぞ! 全員備えろーっ!」

「国を……家族を守るんだぁっ!」

 そしてついに両者が激突する。




「押せ押せー! 敵を飲み込ギャー」

「戦力差は歴せギョエー」

「王太子の御心のギィエー!」

 走る勢いのまま、切り伏せられるクイードァ兵たち。


「あーあ、警告してやったのに」

 別に同郷だからと言ってこいつらに親しみの情はないからいいんだけど。

 というより、こいつらの中には当然俺を悪く言ってた奴らもいる訳で。


「ま、せっかくだから魂は有効活用してやるよ!」

 今回の出演料として、魂を欲しがってるやつがおりましてね。




「た、隊長! 我々の……我々の勝利です!」

「損害はごく軽微! このまま攻め入ることも……いかがいたしますか!?」

「う、うむ……いや、やめておこう。彼の神が見守っておられるはずだ」

「……かしこまりました! 全軍いったん退くぞ! 祝杯をあげるぞー!」


 うむ、良きかな!


 ◆◇◆◇


 ――ギルバート視点――


「ほ、報告します! ヨーリモーへ向けて進軍していた我が隊は……全滅、敗走したとのことです」

「……くそがぁっ!!!」

 再びもたらされた悲報に強い怒りを禁じえない。


 どいつもこいつも不甲斐ない!

 なぜ圧倒的な戦力差を持ちながら勝てないのか!


「……先日のナートリオに続き、またしても『神』が顕現したそうです……『正当な理由なき侵略を許さない』と」

「……何が神だ! 俺はゴルディックの神子だぞ!」

 どこぞの神か知らんが……このギルバートが直接葬ってやろうかっ!


「……ギルバート王太子様。これは……あなたへの忠誠が、信仰心が試されているのではないですか?」

「何だと?」

 胡散臭い笑みを湛えたゴルディック教の大司教。


 しかし邪険にはできない。こいつのおかげで勢力を拡大できたと言っても過言ではないからだ。

 何とも遠回りではあったが、な。


 こいつと回った国内の巡礼の旅。

 正直全く信仰心などは持ち合わせていないが、元々の我が資質と併せ、国民からの支持を得ることはできたと言える。


 無知蒙昧な民共は『よくわからないけど凄そうな物』に弱い。

 その旅を通じて得られた教訓でもある。




「神を騙る存在が敵であれば……こちらも信仰心を持って再び対峙するのです。民の望み、これらは『正当な理由』となりましょう」

「ふむ。確かに、それはそうであろうが。しかし具体的に考えはあるのか?」


「王都へと民を巡礼させてはどうでしょうか? そこで王太子様の威光を今一度知らしめ、民の心を一つに!」

 ふむ。それではただの精神論に過ぎぬが……何やらそれだけではなさそうな目をしているな。


「うむ、悪くはないな。どれ、茶でも飲みながら詳細を聞くとしよう」




 そして大司教を私室に招き、先程の続きを促す。


「神には神を、こちらも神を利用しましょう。ご存知ないですかな、神を呼び出す方法を」

「……召喚魔法、そして……生贄、か」


 口元が緩むのを感じる。


「さすが、博識であらせられる」

「世辞は良い。詳しく聞かせろ!」


 これであいつを……忌々しきアレキサンダーを超えてやる!

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