第130話 神子
「偉大なる神子。史上初のSS評価の魔力量。神に選ばれた子。つい先日、ゴルディック教の大司教が宣言したんだよ」
ゴルディック聖教会。
この世界を創造し、ときに恵みを、時に試練をもたらし人間を見守る存在。
絶対的な保護者であり、父性の象徴であり、同時に全ての生みの親。
主たる彼を敬い、彼のように他者への慈しみの心を忘れずに行動していく、という団体。
熱心な布教を行っている訳ではないが、教会の教えは割と生活に根差している。
毎食ごとに彼への感謝を伝え、結婚や葬式などの節目節目で彼に平和や安寧を願う。
元の世界の日本での仏教や神道といったものに近い、と思う。
神が実際にいる世界だし、ゴルディックとやらも実際にいたんだろうなぁ~。
経典等は見たことがないが歴史書に記されており、人間の歴史が始まる頃には、既に彼についての情報が記録されていた。
「何でまたそんなことに?」
「お前が出て行ってから、奴は自分の立ち位置を固めるため、大司教の力を借りて国民の支持集めに奔走してきた」
ギルの奴、結構しっかり頑張ってたんだなぁ……。
広く浅く信仰されているゴルディック教、そのお偉いさんの力を借りて国民からの信頼を得ていってるのか。
元の世界でも、権力者と宗教は切っても切れれないどころか積極的に利用して国をまとめて来たという話はよく聞く。
だから、為政者としての戦略としては間違っていない。間違っていないのだが……。
「何だか、気になるなぁ……」
「そうだな。元々ギルの適性の儀をきっかけに、度々大司教がギルに面会をする場面があった。特段変わったことはなかったのだが……」
神子とやら、そして此度の戦争。
利用してるのか、利用されているのか……はたまた目的を同じとしているのか。
「あぁ、ギルの奴の戦争を起こしてる理由は簡単だぜ! お前への対抗心だ!」
「へ?」
「追放したお前が史上初のSS冒険者。奴は王太子として、国民や臣下に示しをつけるために必死になってるよ」
俺のせいだったか……すまねぇなとばっちり食らう周辺の国々よ。知らんけど。
「そんな諸々の事情から国民も兵も、久々の戦争に浮足立ってる。これを止めるのはかなり難しいんじゃねぇか?」
「そうだよなぁ……」
今更俺が直接ギルに戦争はやめろと言ったところで……。
「逆効果だろうな。しばらくは成り行きを見守るのがいいんじゃねぇか?」
……。
……ちょこちょこお前も、俺の心と会話してるよね。
「なんのことでさぁ?」
そう言うとこ!
◆◇◆◇
「ふぅ……潜入成功だ」
ということで来てみましたゴルディック教会!
俺が出て行ってから新たに建築されたという教会。
王都の端っこに建てられたここに、大司教を始め教会関係者も寝泊まりしているんだとか!
一応お忍びという事なので、みんなが寝静まる深夜、フード付きコートに身を包み魔力を極限まで抑えた隠密スタイルでやって参りました!
まずは前方中央、一番目立つところにあるゴルディックを模した像を調べてみたいと思います!
「これは……!」
特に何もないな。
次に、その裏側、いかにも隠し階段がありそうな部分を調べてみたいと思います!
何でそんなところに、というお約束の場所だ!
「これは……! ん?」
詳しく調べようとしていたところ、いつの間にか背後に綺麗な女性がいた。
正直心臓が爆発しそうなくらいびっくりしている。
「……」
「やぁ、いつぞやの別嬪さんじゃないか!」
思い出した、『月光の雫』依頼を遂行中に出会ったえろぉい別嬪さんだ。
「……」
「相変わらず無口だねぇ」
あの時も今も、全く喋らないのだが……。
「……」
「……えと」
どうしよう、何でここにいる? 何が目的? 侵入者の排除……?
魔力から感情を読み取ろうとするも、しかし目の前の女性からは何も感じ取れない。
「ヨミや、急に出って行ってどうし――誰だっ!?」
「……おっと。逢引現場を見られちまったな。今日は大人しく帰るとするよ」
まさかまさか……。
大司教本人と会っちまうなんて!
フードを被っているからこっちが誰だかはバレていないと思うけど……。
もう一度深くフードを被り直し、出口へと向かう。
「……」
別嬪さんは相変わらず喋らない……いや? 焦燥感? わからん……ひどく希薄な……。
そういえば、あのときエリーは何に気付いたんだ?
「きちんと事前に連絡を頂ければ夜中でも教会は開きます。もちろん、後ろ暗いことがおありの方にもです」
……こいつ。
「次からは忍び込むのはやめてくださいね」
にこりと笑って言う大司教。
「あ、あぁ……すまない、今日は帰るとするよ」
人のよさそうなその笑顔に、思わず退散を選択するのだった。
◆◇◆◇
――大司教視点――
「ヨミよ……変なことはされなかったですか?」
「……」
「彼からは特段悪意は感じませんでしたが……」
「……」
「……」
「……」
「……もうすぐ、もうすぐですよ、ヨミ。きっと……必ず……」
「……」
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