第129話 ウーノ

「いよぉっ! 待たせたなぁっ!」




 あれから2週間程。どうにか装備品を予定の数作り終えた俺。

 今日はクイードァ王国郊外にある寂れた食事処に来ている。


 そこで会っているのが、いかにも粗暴な噛ませ役と言った感じの筋肉男。

 それが今のウーノだ。ちなみに冒険者ランクCらしい。設定に拘っている。


 ウーノは変装の名人である。

 ドスとトレス同様、幻影魔法の使い手であるが、それだけではなくメイクなどの技術や肉体操作を駆使することで物理的にも変装することを得意としている。


 トロイア随一の諜報員である彼。彼には最も重要な場所に潜伏してもらっている。

 つまり、クイードァ王宮内部。


 まぁ主な任務は諜報というよりも、パーシィやシアーを見守ることに重点を置いて貰っている。

 別に国がどうなろうが、家族や知人が無事であればそれでいいもの。


 そのため、普段は執事としてパーシィの世話をしてくれているようだ。




 そんな彼と相対した瞬間、他にも言うべき言葉はあったのだが、口に出た言葉は――。

「パーシィ! 我が愛しの甘い天使パーシィは元気か!? 元気に過ごしているのか!?」

 パーシィのことだった。


「はんっ! 相変わらずだなぁ! パー坊とシアー嬢は……」

「……(ゴクッ)」

 息を飲み、続く言葉を待つ。


「……まぁ、それなりに元気で過ごしてんじゃねぇか?」

 溜めた意味あるの?


「ん~そっか。変わらず元気ならそれでいいけど」

「変わらず、とは言えねぇかもなっ!」

 何だとっ!?


「おいどういうことだ! お前というものがついていながら何かあるとでも言うのか!」

「今はクワトもいるぜぇ! メイドとしてシアー嬢についてやがる」

 そんなことどうでも……は良くなかったな。ありがとうクワト。


「ギルの野郎に目を付けられねぇようにするのも大変なんだからよぉっ! ちったぁ褒めてくれよ!」

「う、うむ。感謝してるぞウーノよ……そ、それでそのぉ……」

 パーシィのことなんだけど……。


「筋肉になってる」

「……え?」

「筋肉になってる」

「え?」

 何か、パーシィを形容するのに世界一遠い言葉が聞こえるんだけど?


「筋肉って、ついにおっぱいが出て来たってこと?」

 あれって脂肪なんだっけ?


「確かに出てはいるな。筋肉だけど」

「……」


 嘘だ! 嘘だと言ってよパーシィッ!


 あのぷにぷにふわふわのパーシィがっ! 世界中のどの女性よりも美しく可憐なパーシィがっ!

 あぁっ! パーシィ! パーシィ! どうして!? どうしてなんだいパーシィィィっ!?


「何でも、追放されたどこぞの兄を守れるように鍛えに鍛えた結果だそうだぜっ!」

 俺のせいじゃん。


 まさかまさか……よもやよもや……。

 パーシィの成長を願って家を飛び出た結果が……まさか筋肉とは。


「いやっ! 例え筋肉であろうが! パーシィはパーシィ! きっと可愛い筋肉に違いない!」

「ちなみに、俺よりも厳ついぜっ! 筋肉も、背丈もなぁっ!」


 目の前の筋肉だるまを見る。


「……」

 えぇ……これよりも厳ついの……?

 俺は……俺はこの先、一体パーシィをどう愛していけばいいんだ?


「さらにちなみに、パーシィに婚約者ができたぞ。もちろん、女性だ」

「……ふむ。此度の戦争で、クイードァを滅ぼす、という話だったか?」

 俺のリアルってどっちだっけ?


「落ち着けよ。全てお前を思えばこその結果なんだぞ!」

「そうだ……そうだよな……」

 そもそもパーシィやシアーの成長にも繋がると、そう思っての立ち回りでもあったんだ。

 彼らの選択を無下にするのはやってはいけないことだった。


 すまないパーシィよ、愚かな兄を許しておくれ……。


「……で、本当にギルの奴は何で戦争なんか? 親父はどうしたんだ?」

 そろそろまじめに考えて行こう。

 ウーノは限られた時間こうして来てくれてるはずだから。

 決して現実逃避をしてる訳ではない。


 親父は、実は穏健派だと俺は思っている。

 何故なら……侵略国家であるクイードァにあって、少なくとも俺がいた時はそういったことをしてこなかったからだ。


 度々遠征だと言って城を出てはいたが、全て国内の、所謂治安維持に当たっていたはずだ。

 それが偶々だったのかはわからないが……いずれにしろ何だかんだ理由を付けて対外戦争は避けていた男だ。


「……親父殿は病床に伏してる。お前が出っててから段々と衰弱してっていたんだが、今回の件で遂に寝たきりになっちまったよ」

「……そうか」

 親父とは個人的な思い出は特にない。

 ないが……そう言えば寝取られた思い出が一番強いな。どうでも良くなったわ。


「で、どうするんだ?」

「どうするって言ってもなぁー。とりあえず、侵略行為は止めたいとは思ってはいるが……」

 リョーゼンのこともそうだが、戦争ともなればパーシィやデール、エリーの実家にも被害が及ぶ可能性がある。


「それは難しいかもしれん」

「え?」

 そのために行動してるんですけど!




「実は、今クイードァではギルのことは『神子』と呼ばれていてな。早い話が、国民からの支持がとんでもなく高い」

 ふぇえ……?

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