第128話 それでも1000枚

「……何か、すまないな。彼にも悪いことをしちゃったかもしれん」


 訓練場を離れ、王城へと向かう道中。

 彼としても、いきなり現れた者が用意した良くわからない鱗を使っていく、となって面白くなかったのであろう。


「あーいや……もうすぐ来るから待ってろ」

 結果、部下たちの前でああいうことになってしまい……ボビー氏にもちょっとだけ申し訳なく思う。


「……ジョージ様!」

 そのボビー氏がさっきまでとは打って変わり、にこやかな笑顔で駆けてくる。

 

「おぅ! さっきは悪かったな! これでうまいもんでも食ってくれ!」

 そう言って銀貨を数枚渡す。


「へっへ! 毎度どうも! アレク様もすっげぇ装備品ありがとっす!」

「あ、あぁ……あーもしかして……そう言うことかぁ」

 わざとあの場で彼にあんなことやらせたんか?


「まっ、そう言うこった。一兵卒級だと実際にああいう意見も出るからな! だからみんなが見てる前でボビーに食って掛かって貰ったのさ」

「っす!」

 そりゃ上官が諭されてるの見たら、例え同じこと思ってても言えないもんなぁ……。


「……だが、実際あそこで言ったことは思いは本当だ。だからよ、素晴らしい装備に本当に感謝している。これで無為に兵を死なすことは減るだろう。ありがとう」

「あぁ! 我が愛しい妻、アンジェもそればっかり憂いているからな。力になれたようで何よりだ」

 ボビーが見ているところで言うのがポイントだ!

 これでアンジェや俺の株もうなぎ上りのはず!


 見てるかいボビー君! 俺はとっても愛妻家だぞ!


「へっへ! みんなにも言っといてあげますよ! アレク様は浮気者なんかじゃなくて、愛妻家だって!」

 ……。


「……これでいい姉ちゃんとデートにでも行ってくれ」

 そう言って金貨を投げ渡す。

 ボビー君は嬉しそうに、今度こそ訓練場に戻って行った。


 くっそー! 浮気者だなんて噂が流れてんのかよーっ! ビアとレーズンの時か!?


「かっかっか! ボビーは頭の回転が速いからな!」

 だからこその人選でしたか……俺もまだまだですわね……。


 ◆◇◆◇


「……よかったです。私の頑張りが無駄にならなくて!」

 

 ジョーに装備品を見せた後、そのことをアンジェに報告した。

 ヘカトンさんでの実演の後、元気がなかったアンジェ。

 今日は少し元気になったかも……ていうか、俺のせいだよなぁ……。


「お、おう……いや、先日は本当にすまん、いやごめん……」

 ちょっと調子に乗り過ぎたです……。


「ん~、そうね……じゃあ、ちょっと目を瞑ってくれる?」

「は、はい……」

 何をされるんでしょうか……やはり、ヘカトンさんと同じようにグーパン……。


「ちゅっ……ふふ、もっと自信持ってよ! いつも感謝してるわ! ありがとね!」

 そう言って、真っ赤になって駆けて行くアンジェ。


「……」

 な……何だったんだろうか……。

 自信? 満ち溢れてると思うけども……。


 しかし……突然の口づけ……ちょっとドキドキしてしまった。


「よかったですね、坊ちゃま」

「メイちゃん……」


 良くわからんが、メイちゃんがアンジェに何か言ったのだろうか。

 すごい何かを含んだ顔をしている。


「何か、ありがとう?」

「どういたしまして。エリー様も、アンジェさんのことを気にしていましたよ」

 そうか、エリーも何かしてくれたのか。何かはわからんけど。


「では、私は準備をしてまいりますね」

「え? 何の?」

 これからお出掛けにでも行くのかしら。


「坊ちゃまが集中して装備に付与できるよう、そのお世話をする準備です。確か……リョーゼンの兵は1000人ほどとアンジェさんに伺いましたよ」

「……」

 せ、せんにん……?


 し、しまった……ついかっこうつけようと深く考えずに言っていたけど……!

 軍に支給ってことはそりゃそうだよなぁ~……。


「はっ……ははは。リオさんはどこへ?」

「先程、墓参りに行くと言って飛び立ちましたよ」

 墓参り多すぎっ! どんだけ先祖孝行してんのよ!

 いやむしろ逃げる言い訳にしてるから先祖不孝じゃ……?


「鱗が剥がされるのもまぁまぁ痛いらしいですよ」

「そうでしょうなぁ~。しょうがない、クネクネにもお願いしようか」




 試行錯誤の結果、鱗1枚に全属性耐性、クネクネの糸の束2つに『結界』と『金剛・極』が一番犠牲が少ないとの結論に至った。

 予定の3割程になったことでリオも泣いて喜んでいた。

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